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エフェクチュエーション実践講座19「大企業の背広組は、なぜエフェクチュエーションに後ろ向き」なのか?

はじめに

 筆者は財閥系生命保険会社のデジタル共創オフィサーという役員職とともに、本郷の教育関係ベンチャーでボランティアで経営顧問をしており、両方でエフェクチュエーションをビジネスに取り入れています。
 また「恵まれない子供達(企業組織の若い社員の意味)の会」というコミュニティを運営しており、自社や顧問先やその他のネットワーク内で様々な相談とアドバイスをボランティアでしています。
 エフェクチュエーションを企業で活かすには、担当する社員全員がその精神を共有し、協力することが必須です。しかし、大企業の管理職(紺の背広組と言われる人たち)に代表される「伝統的な企業文化」では、「エフェクチュエーションでは必須の動き」が「動きが読めない個人プレー」と写り、紺の背広組から否定されがちです。筆者が属するコミュニティーでもこのような「恵まれない子供達(若い社員達)」が多くいます。

 この文化的障壁を乗り越え、エフェクチュエーションを企業でうまく活用することが必要です。筆者は大きな企業ではコーゼーションで仕事をしながら、小さな企業ではエフェクチュエーションでビジネスを進めてきました。2つの立場を経験してきた筆者には、何故企業の管理職がエフェクチュエーションに否定的になるかが分かります。それは、以下のような理由なのです。

1. 伝統的なリスク管理との対立

 多くの管理職は、伝統的なリスク管理の手法や予測に基づく計画立案を重んじます。エフェクチュエーションが提唱する、現在持っているものからスタートし、許容できる損失に基づいてリスクを取るアプローチは、予測不可能なリスクを避け、事前にすべてを計画する伝統的なアプローチとは根本的に異なります。このため、未知のリスクに直面することへの不安から、エフェクチュエーションへの抵抗感を持つことがあります。

2. 変化への抵抗

 組織における変化は常に抵抗を伴います。管理職は、既存の業務フローや権力構造、成果を出すための既知の方法を好みます。エフェクチュエーションは、従来のビジネスモデルや思考パターンからの脱却を促しますが、これが既存のシステムや文化に挑戦することになり、不安や抵抗を生む原因となります。

3. 成功の保証がない

 ビジネスにおいて、特に新規事業やイノベーションに対する投資では、成果や成功を保証することは難しいです。エフェクチュエーションは、失敗を受け入れ、それを学習の機会として捉えることを奨励しますが、これは成果を出すことに重きを置く企業文化や管理職の成績評価システムとは相容れない場合があります。失敗への許容度が低い文化では、新しいアイデアやアプローチへの挑戦が抑制されがちです。

4. コミュニケーションと理解の欠如

 エフェクチュエーションの原則や価値が十分に理解されていない、または誤解されている場合、管理職はそのアプローチに対して否定的な見解を持つ可能性があります。新しい思考法や手法への教育と理解を深める機会が不足していると、不安や疑念が増大し、結果として否定的な態度を取ることにつながります。管理職がエフェクチュエーションに対してオープンになり、そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、教育とコミュニケーションの強化、文化的な変革、そして失敗を学びと成長の機会として捉えることが重要です。

大企業文化でエフェクチュエーションを成功させるためのコツ

1. 全員がエフェクチュエーションの原則を理解し、価値を共有する

 企業が新しい試みを成功させるには、まず全社員がエフェクチュエーションの原則とその価値を理解し、共有する必要があります。例えば、定期的なワークショップやセミナーを開催し、エフェクチュエーションに基づく思考法を身につける機会を提供します。

2. 小さな成功から始める

 許容できる損失の範囲でリスクを取り、小規模なプロジェクトから始めてみましょう。小さな成功を積み重ねることで、チーム全体のエフェクチュエーションへの理解と自信を深めることができます。また、失敗から学ぶ文化を育むことも重要です。

3. 多様性と柔軟性を重視する

 予期せぬ出来事を機会と捉え、それをビジネスの成長につなげるには、チーム内に多様性を持たせ、柔軟な思考を促すことが大切です。異なるバックグラウンドを持つメンバーが協力し合うことで、新しいアイデアや解決策が生まれやすくなります。

生命保険会社が健康増進アプリを作成して広めていく事例

 この事例は架空のものですが、エフェクチュエーションの原則を企業戦略にどのように適用できるかが伝わります。

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 生命保険会社「HealthLife保険」は、顧客の健康維持と疾病予防のために、健康増進アプリ「HealthTrack」を開発しました。このアプリは、ユーザーの運動習慣、食生活、睡眠パターンを追跡し、パーソナライズされた健康管理計画を提供するものです。これをエフェクチュエーションで広げていきます。

1. Bird in Hand Principle

「HealthLife保険」は、自社の強みである顧客基盤と保険業界における知見を活用しました。また、社内には健康データの分析経験が豊富なチームがおり、このリソースを活用してアプリの開発を進めました。

2. Affordable Loss Principle

 初期段階では、大規模な投資を避け、小規模なプロトタイプ開発から始めました。最初のテスト版は、社内のボランティアと既存顧客の小さなグループに限定してリリースし、フィードバックを基に改善を重ねました。

3. Crazy Quilt Principle

「HealthLife保険」は、他の健康関連企業やフィットネスセンターとパートナーシップを結び、アプリを通じた顧客への付加価値提供を目指しました。

4. Lemonade Principle

 初期のフィードバックで、多くのユーザーがアプリのインターフェースを直感的ではないと感じていることが明らかになりました。この「失敗」を受けて、「HealthLife保険」はUI/UXデザインの専門家をチームに迎え、アプリの使いやすさを大幅に改善しました。

5. Pilot in the Plane Principle

「HealthLife保険」は、アプリの将来の方向性をユーザーの行動データとフィードバックに基づいて形成しました。
 定期的なアップデートと機能の追加を通じて、ユーザーの健康維持に対するコントロールを強化し、エンゲージメントを高めました。「HealthTrack」アプリは、ユーザーから高い評価を受け、健康意識の高い顧客層を中心に急速に普及しました。「HealthLife保険」は、アプリを通じて得られる健康データを利用して、リスクをより正確に評価し、パーソナライズされた保険商品を提供することが可能になりました。また、健康増進の取り組みが顧客満足度の向上とブランドイメージの強化につながり、結果的に新規顧客の獲得にも貢献しました。

まとめ

 この事例は、エフェクチュエーションの原則を具体的なビジネス戦略に組み込むことで、不確実性の高い市場で新しい価値を創出し、企業の競争力を高めることが可能であることを示しています。エフェクチュエーションをビジネスに適用することで、限られたリソースの中でも革新的な成果を生み出し、企業の成長に寄与することが可能です。企業は、個人プレーを鼓励し、多様なアイデアを受け入れる文化を育むことで、不確実性の高いビジネス環境においても柔軟に対応し、成功を手にすることができるでしょう。

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