発熱/炎症反応増悪時の検索・対応

以前書いたものです.

発熱や炎症反応の増悪は日常の外来でも入院症例でも多く診療するでしょう.
その際の対応をまとめました.


発熱/炎症反応増悪時の検索・対応の流れ

① 全身評価. 循環不全の評価
② 病歴, 所見からの原因検索
③ 抗菌薬必要性の検討, 他の治療の検討

① 発熱, 炎症反応増悪している患者では, まず敗血症, 循環不全の評価・対応, 菌血症リスクの評価を行う.

■ 敗血症, 循環不全徴候の評価は(循環不全の気づき方)参照.
・発熱患者で循環不全兆候があれば敗血症の可能性が高いと考える
■ 菌血症のリスク因子としては, 敗血症, 循環不全徴候の他, 以下に注意.
・悪寒戦慄を伴う発熱
・中心静脈カテーテル, 動脈カテーテル留置
・免疫不全患者(好中球減少, ステロイドや免疫抑制剤使用中の患者, 透析患者など). この場合は重症化リスクが高く, また熱源も分かりにくい. 化学療法が原因として多いため, 化学療法中の患者の発熱では特に注意.

■ 敗血症や菌血症が疑われる患者では, 循環不全の対応に平行して病歴, 身体所見, 各種培養(血液, 喀痰, 尿), 血液検査, 尿検査, 胸部レントゲンなどによる熱源検索を行う(表).
・菌血症や敗血症を疑う場合, 迅速に各種培養, 熱源の評価を行い, 初療開始から1時間以内に抗菌薬を開始するように心がける. 入院患者で多い発熱の原因, 検査, 治療については②を参照. また症状が明らかであればそれに基づいて精査を行う.

発熱がなくても循環不全があれば敗血症は常に疑うこと

・救急におけるショック患者を対象とした前向きコホートにおいて, 敗血症性ショック患者を抽出し, 来院時発熱あり群と発熱を認めなかった群で比較した報告では, 発熱を認めなかった群の方が補液量や救急における抗菌薬頻度は低く, 死亡リスクも高い結果(正常体温群 OR 2.33[1.12-4.86], 低体温群 OR 10.82[2.45-47.76])であった(Crit Care Med. 2017 Jun;45(6):e575-e582.).

菌血症のリスク因子

・悪寒を伴う発熱は菌血症リスク因子となる. 特にShaking Chillと呼ばれる「毛布を被っても震えが止まらない」ような悪寒戦慄は菌血症に対するLR+ 4.7であり, 悪寒を伴う発熱の場合はどの程度の悪寒か評価することも重要(JAMA. 2012 Aug 1;308(5):502-11.).

・他にSIRSクライテリアに含まれるが, 頻脈(>90回/分)はOR 1.59[1.43-1.76], 多呼吸(>22回/分)はOR 1.26[1.16-1.38]と菌血症リスク因子となる(Medicine (Baltimore). 2016 Dec;95(49):e5634.).

・中心静脈カテーテルや動脈カテーテルは末梢静脈カテーテルと比較して感染リスクは高く, これらデバイスが留置されている患者での発熱, 炎症反応増悪では必ずカテーテル関連血流感染症の可能性を考慮すべき(Mayo Clin Proc. 2006 Sep;81(9):1159-71.). 特に1週間以上留置されている場合や, 大腿静脈から挿入された中心静脈カテーテルはさらにリスクが高く(鎖骨下静脈と比較してRR 2.40[1.35-4.26]), 要注意と言える(Crit Care Med. 2010 Apr;38(4):1030-5.)(Crit Care Med. 2017 Apr;45(4):e437-e448.).

敗血症が疑われる患者では1時間以内に抗菌薬を投与する

・重症敗血症, 敗血症性ショック患者2796例を対象とした前向きコホート研究では, 来院から1時間以内の抗菌薬投与は6時間以内に抗菌薬の投与がない群と比較して, 有意な死亡リスク軽減効果が認められた(OR 0.67[0.50-0.90])(Am J Respir Crit Care Med. 2009 Nov 1;180(9):861-6.).

・重症敗血症, 敗血症性ショック患者 28150例の後ろ向き解析では, 抗菌薬投与までの期間が長くなるほど, 死亡リスクも上昇する結果(Crit Care Med. 2014 Aug;42(8):1749-55.).

・しかしながら2015年に発表されたメタアナリシスでは, 1時間以内の抗菌薬投与群と1時間以降の投与群で死亡リスクに有意差は認めず(OR 1.46[0.89-2.40]), 結論は未確定といえるが, 重症敗血症や敗血症性ショック(=血行動態が不安定な感染症)ではできるだけ早期に抗菌薬を開始する姿勢は重要と考えられ, 2016年のSSCG(Surviving Sepsis Campaign Guideline)でも1時間以内の抗菌薬投与が推奨されている(Intensive Care Med. 2017 Mar;43(3):304-377.).

・さらに2017年以降の報告を見てみると, ニューヨークにおける敗血症治療例49331例の解析では, 早期の抗菌薬投与は院内死亡リスクの改善効果が認められている(N Engl J Med. 2017 Jun 8;376(23):2235-2244.). また, カルフォルニア北部の21箇所のERよりランダムで抽出した敗血症症例35000例の解析では, 抗菌薬投与が1時間遅れるたびに死亡リスクは有意に増加する結果であった(OR 1.09[1.05-1.13])( Am J Respir Crit Care Med. 2017 Oct 1;196(7):856-863.).

・重症敗血症患者3929例を対象とした後ろむき解析では, 抗菌薬開始までの時間が1時間遅れるごとに敗血症性ショック移行リスクが8%増加する(OR 1.08[1.06-1.10])という報告もある (Crit Care Med. 2017 Apr;45(4):623-629.).

・1時間以内に抗菌薬投与を行うには, 血液検査結果や画像検査結果を待って行動するのではなく, 病歴, 身体所見, エコー所見から感染のフォーカスを見出し, 迅速に培養検体を採取し, グラム染色を行い起因菌を想定することが重要.

血液培養の注意点

・血液培養は原則2セット以上採取する: 菌血症患者における血液培養の採取セット数と感度は(表)を参照. 1セットのみの場合, 感度は7—8割程度と不十分であり, 最低2セット以上行うことが望まれる.

血液培養のセット数と感度
(*Clin Infect Dis. 2004 Jun 15;38(12):1724-30.) (†J Clin Microbiol. 2007 Nov;45(11):3546-8.)

・血液量は培養ボトル1本あたり10ml採取する方法がそれ未満の採取量と比較して最も感度が良好(Clin Infect Dis. 2004 Jun 15;38(12):1724-30.).

・1セットでも陽性となれば真の菌血症とみなすべき細菌は(表)を参照.これらが陽性となればまずコンタミネーションとは考えない.

(表) 1セットでも陽性となれば真の菌血症とみなすべき細菌 (
Clin Microbiol Rev. 2006 Oct;19(4):788-802.)


・反対にコンタミネーションの可能性が高い細菌としては,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(82%),緑色連鎖球菌(45-55%),バチルス属(92-100%), Micrococcus(100%), Lactobacillus(18-60%),コリネバクテリウム(96%), C. perfringens(77%), Propionibacterium(94-100%)(Clin Infect Dis. 1997 Apr;24(4):584-602.)(Am J Med. 2010 Sep;123(9):819-28.).注:()内はコンタミネーションである確率.

②病歴, 所見からの原因検索

■ 主訴があきらかな場合はそれに基づいて評価する.
■ 入院患者の発熱で頻度が多いものは肺炎,尿路感染症,胆道感染+ 6Dsと覚える.
・頻度は不明だが, 自分の経験からも入院患者の発熱の原因としてこの範疇に収まることは確かに多く, 覚えておく価値はある. また, これに「血液」という項目も加えて覚えている。

入院患者の発熱の原因: 肺炎, 尿路感染症と6Ds + 血液

菌血症の原因となりやすい感染巣は?

・菌血症の原因で多いのは尿路感染症とカテーテル感染症, そして呼吸器と腹腔内, 胆道感染症 (表). 特に閉塞を伴う尿路感染症と胆道系感染症は発症から菌血症合併までの期間も短く, 急激に増悪する可能性があるため注意した方が良い.

菌血症の原因となる感染症の頻度 (Clin Microbiol Infect. 2010 Sep;16(9):1408-13.)

③ 抗菌薬の必要性の検討, 他の治療の考慮

■ 入院患者の発熱, 炎症所見増悪において, 原因が判明すればそれに応じた特異治療を行う.
■ 明らかな発熱の原因がわからない場合, 診断検査に時間がかかる場合(局所症状が乏しいデバイス感染症など), 経過を追わないと確定診断ができない場合(薬剤熱など), 誤嚥性肺臓炎を疑う状況では対応が難しい場合がある.

すぐに診断がつかない発熱での対応

■ 明らかな感染巣が不明な場合, すぐに診断がつかない場合, 循環不全徴候がなければ経過観察をしつつ原因を精査する.
■ 循環不全徴候がある場合は全身CT検査など積極的に熱源の評価を行い, エンピリカルな抗菌薬投与を考慮する.
・初期に循環不全徴候がない場合も, 経過観察中に循環不全徴候が出現すれば積極的な原因検索, エンピリカルな抗菌薬を考慮する.
■ 明らかな感染巣が不明な場合や, すぐに診断がつかない場合は基本的に経過観察とする. しかしながら, 循環不全徴候がある場合は経過観察が致命的となる可能性もあるため, エンピリカルな抗菌薬治療を考慮した方が良く, 全身CT検査のような普段の熱源検索では行う頻度の低い検査も積極的に行う.
・初期評価で循環不全徴候がない場合も, 慎重に経過をフォローし, 循環不全徴候が出現した時点で積極的な評価, 治療を考慮した方が良い.

誤嚥性肺臓炎で抗生剤は必要か?

・誤嚥による肺障害をまとめて「Aspiration-related lung disease」と呼び, 誤嚥性肺炎, 誤嚥性肺臓炎, びまん性誤嚥性細気管支炎, 肺線維症, リポイド肺炎などが含まれる(J Thorac Imaging. 2014 Sep;29(5):304-9. ).

・誤嚥するとまず胃酸や異物による化学性肺炎が生じ(誤嚥性肺臓炎), この時は細菌感染は関与していない. このまま改善することもあれば, 二次的に細菌感染症を合併し, 誤嚥性肺炎となることもある(N Engl J Med. 2001 Mar 1;344(9):665-71.). 両者の鑑別は難しいが, 誤嚥が目撃, もしくは疑われ24時間以内に改善する発熱や呼吸器症状では誤嚥性肺臓炎を考慮し, それ以上持続する場合は誤嚥性肺炎と考え, 抗生剤投与を行う方が良いかもしれない(J Am Geriatr Soc. 2005 May;53(5):755-61.)( J Am Geriatr Soc. 2003 Jan;51(1):17-23.).

・著者は誤嚥が疑われる患者では1日は経過観察を行い, それでも発熱や呼吸器症状が持続する場合, 増悪する場合は喀痰グラム染色を行い, 抗生剤投与を考慮することにしている. ただし口腔内負衛生な患者は細菌感染のリスクが高いと判断し, 抗菌薬投与を行うこともある.

以前の尿培養検査結果の有用性

・4351例の尿路感染症患者より, 22019件の尿培養検査を評価し, 過去の尿培養検査と今回の尿培養検査における検出菌を比較した報告では, 今回の尿培養と4—8週間前の尿培養における検出菌の一致率は57%[55-59], 32週間以上前の尿培養との一致率は49%[48-50]であり, 半分程度は一致していると考えられる(Clin Infect Dis. 2014 Nov 1;59(9):1265-71.).

・4409例の尿路感染症患者より, 19546件の尿培養検査を評価した報告では, 過去に薬剤耐性菌が検出された場合, 今回の尿培養でも耐性菌であるリスク(OR)はCPFX耐性グラム陰性菌でOR 1.86[1.70-2.05], ESBL産生腸内細菌でOR 3.30[2.95-3.71], カルバペネム耐性腸内細菌(CRE)でOR 41.41[26.17-65.53], カルバペネム耐性ブドウ糖非発酵菌(CRNF)でOR 12.64[8.32-19.22]であった(Antimicrob Agents Chemother. 2016 Jul 22;60(8):4717-21.). 過去の尿培養結果の耐性菌予測に対する感度, 特異度は(表)を参照.

過去の尿培養検査結果の耐性菌予測能 (Antimicrob Agents Chemother. 2016 Jul 22;60(8):4717-21.)

・過去の培養結果は絶対的な指標とは言えないものの, 初期の抗菌薬選択には有用な情報と言える. 筆者は1年以内の尿培養検査結果は一つの参考情報として用いていることが多い.

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