【ショートショート】『素敵だっ!(現在形)』
素敵だっ!
私が一番、すきな言葉。
素敵だっ!
ステキだっ!
すてきだっ!
あぁなんて、いい言葉。
朝焼けの空が素敵だっ!
揺れる草花が素敵だっ!
貴方の笑顔が素敵だっ!
あぁなんて、素敵なことば。
真冬の蒼く澄んだ空。
真夏の青く茂った木。
春日のそよ風薫る一時が。
儚げに月下に開く秋桜が。
あぁなんて、素敵…………だったのに。
事故で失明したあの冬の日から、私の世界は暗闇に閉ざされた。
素敵だった!
ステキだった!
すてきだった!
あぁなんて、かなしい言葉。
星々煌めく夜空が素敵だった!
見える限り続く街路樹が素敵だった!
私を見つめる貴方の瞳が素敵だった!
あぁなんて、切ないことば。
私はこのまま一生、だいすきな素敵と出会えないのかな……。
私は深く落ち込んだ。
どうしたらいいの?私はこの真っ暗な世界で、どうやって生きていけばいいの?
朝焼けの空も、揺れる草花も、貴方の笑顔もない。
真冬の蒼く澄んだ空も、真夏の青く茂る木も、儚げに月下に開く秋桜もない。
星々煌めく夜空も見える限り続く街路樹も私を見つめる貴方の瞳も、私の世界から消えてしまった。
こんな世界で、私は一体どうしたら………!!
その時、一陣のそよ風が吹いた。
心地よい風に思わず天を仰ぐと、真っ黒がオレンジに染まる。
これって、春日のそよ風薫る一時?
そうか、今はもう春だった。私は今、春の陽気の中にいる。
踏みしめる地面の感触。ふかふかの土だ。
あははと笑い合う子供たちの声。ここは家の近くの公園だった。
大きく息を吸い込む。微かな花の香りがした。
__________私は今、此処にいる。
それを、感じる。
あぁなんて、素敵なんだ………!
久々に帰った家の匂いが素敵なんだ!
好物のハンバーグのあの味が素敵なんだ!
陽気な鳥たちの囀りが素敵なんだ!
私を抱きしめる貴方を感じることが素敵なんだ!
あぁなんて、素敵なせかい。
目がなくたって、せかいは素敵に溢れてる。
素敵だっ!
ステキだっ!
すてきだっ!
あぁなんて、たのもしい言葉。
素敵は不変。永遠なもの。
ずっと変わらない私のだいすき。
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