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子どもたちの変化を考える その8

2020年。2月半ば頃の学習塾が最もせわしい時期に、普段の年にはないざわざわ感があった。どうも中国の武漢が発祥の肺炎というのが、大きなニュースになっていきそうだと。それでもSARSやMARSの時も何だか突然マスコミが騒いで、いつの間にやら意識する前に報道されなくなった。どうせ今回もそんな感じで4月くらいには「何だったんだあの騒ぎは」みたいになるものだと思っていた。自分の生活に絡んでくる感覚はもっていなかった。しかし毎年参加していた3月1週のマラソン大会が中止になった2月18日頃に「何だろうか!この過剰反応は?」と強い違和感を覚えた。当時のブログにその戸惑いがまざまざと書かれている。

そして2月25日にある程度確信を持った。全国の高校入試や国公立大学の後期試験が終わる3月10日頃から春休みが前倒しで始まるだろう。部活動なども制限されるだろうから、相当の時間が浮く。これは親御さんには大きな負担になるし子どもたちも大きなストレスの中で過ごすことになるかもしれない。もし春休みが早くなるなら塾を学童のように開いて朝から夕方で学んだり遊んだりする形にしよう。と考えた。

ところが世の中は私が想像するよりも早く動いた。2月27日の夕刻に当時の安倍首相が「3月2日より学校休校」を決めた。ちょうど当時の中1の授業を始める時間に第一報を知った。「何考えとんねん!アホか!店も会社も全部潰れてしまうぞ。入試もどうすんねん。そもそもこんな人数で休校措置しとったら未来永劫学校に行けなくなるぞ。何で10人死んだ人が出て、2000人くらいが感染しただけで社会を止めなあかんのや!」と叫んでしまった。目の前の中1は現在高3になった。塾にはまだ3人が現在在籍している。一人の生徒が時々その時の私の口調を真似する「本当に怒った時に変な関西弁になるんですね」と笑われる。

その時、隣の教室では入試直前の中3が勉強していた。私が取り乱す様子を聞いていたらしい。「卒業式とか普通に開催しなかったら許さんぞ!」とか「小6は小学生生活最後の3週間って最も素晴らしい時間を奪われるのか!」と怒る言葉が嬉しかったらしい。結局、私はその時からずっと世間的に言われる「反コロナ」の姿勢だった。今でもあの頃に感じた感覚は間違っていなかったと確信する。あれから4年以上が経ち、マスクも強制したことはなく、塾を休校にしたのもGW前の1週間だけだった。その期間はリモート授業に切り替え家族で岐阜や京都を旅行した。県外ナンバー云々のトラブルには巻き込まれることなく、ガラガラの歴史的建造物や自然の景観を堪能した。そして結局コロナには感染していない。趣味のマラソンのタイムも伸びその意味では良い時間を過ごすことができた。

「子どもたちの変化を考える」が「私のコロナ観とその対応」になってしまった。「コロナを境に子どもたちが大きく変わったでしょ?」と想像される方が多いかもしれない。しかし現実はそう感じなかった。ネットの向こうでは(私が思う感覚で)異常に恐れ、異常に籠り、手洗いうがいアルコール消毒を病的に行っている人もいたが、リアルで出会う小中高生はそういう子たちはいなかった。あくまでもそれまでの変化の延長線だった。

2020年の春から夏にかけて、彼ら世代のことで感じていたのは以下の2点だった。
1つ目は「よくこんな簡単に言うことを聞くな」というもの。ヤレ三密防止だ、ヤレ緊急事態宣言だと言っても、こんな長期間学校が休みになるのならもっと遊ぶ姿を見ると思っていた。しかし本当に中高生の姿を見ない。「彼らは家の中で籠っていられるし。言われたことは聞くのがデフォルトなのだな」と再実感した。
2つ目は「一部の小学生の生活力、常識、体力の極端な欠如が気になる」というもの。こんな環境下だったので、お好み焼きやおやつを作ったり、ジグソーパズルをしたり、みんなでサッカーをしたりして5月末の休校期間を過ごした。何人か普段の塾には通っていない小学生がやってきた。数人色々と「できなさ」具合が気になった。以下の事例は高学年の子たちで気になった部分だ。

・数文字書く、数問計算をするのを面倒がる。
・時間に沿って生活できない。時計がどうも読めていない。
・約束したものを持ってこずに何も入っていないカバンで来る。
・卵が割れない。試しにやってもらったら手の中で握りつぶした。
・卵を鶏が産むということを知らない。
・極端に体力が無い。サッカー開始2分くらいで座りたいと申し出る。
・サッカーのゲーム形式の時に少しも勝とうとしてくれない。勝手に誰もいない方に蹴りだしたり、突然ボールを拾い上げて「タイム」とか言う。

残念ながらこの子たちは6月に学校が再開された後で塾に入ることは無かった。ただこの子たちでも内申は2に3が混じるようなものだったので驚いた記憶がある(3段階評価)。そして残念なことに約2,3年後の中学入学後に半数ほどが不登校気味だと話を聞いた。

最後に話を塾生に戻す。コロナ禍1年目では学業や生活の面で大きな抜けみたいなものは感じなかった。2020年の秋の段階では「コロナ禍云々が子どもたちに与えた影響は思いのほか少なかったのではないか?」と思っていた。しかしもっと後になってそれはまだ「見えていなかっただけ」だと思い知らされることになる。

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