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【小説】夜空に泳ぐチョコレートグラミー【ネタバレ/考察】

学生の頃は、ずっと自分の世界に閉じこもっていたくて一週間に3冊ぐらいのペースで読書をしていた。だけど、仕事を始めて新しい世界を知って外に出るのが楽しくなってからは少しずつ本を読む時間もなくなっていった。
最近、日々の仕事や私生活の煩わしさから少しだけ離れたくて自分のために時間を使うってどういうことだったっけ?と考えた時、一番に浮かんだのが「読書」だった。

久しぶりに読むのに、長編は少しハードルが高い気がしておすすめ短編集で調べたら出て来たのがこの本。町田そのこさんの本は初めて読むなぁと思いながら手に取った。


カメルーンの青い魚

最初のこの話で、ぐっと心を持っていかれた。
サキコがこの町から出れないことを知っていて
本当は狭くて息苦しくて堪らないのだけれど、それでも一緒にいてくれたりゅうちゃん。
きっと最大の愛情表現だったんだろうな。
サキコも置いて行かれたと泣くんだけど、本当は自分がついていけないことも分かってる。
ついていったところで、幸せかどうかは別。
啓太という存在が手が伸びるほど羨ましく思うし、それと同時に面影を見て苦しく思うことはないのかなぁ?と疑問にも思った。

大人になってみてわかると言ったサキコの言葉にすごく共感。
自分と重なることが多く描かれてたけど、私はさきこほど物分りがいいわけじゃなかったから、たくさん傷つけ合ったなぁ。

昔ずっと一緒にいた人のことを思い出した。
どうか元気で、幸せでありますように。
好きだけど一緒に居れないというのは、案外皆が経験することなのかもね。

大人になればなるほど
どんどん美しくなる思い出に苦しめられて
たまに立ち止まって後ろを振り返ってる。
どうなりたいとかこの先のこととか
これ以上も以下もないのにね。


夜空に泳ぐチョコレートグラミー

果たして二人にとってこれは恋だったのかな。
だけど友情でも、ない気がする。

この話を読んでみて、家庭の事情に興味を持つ年頃の好奇心って何なんだろうと改めて思った。
自分の中にある「普通」という型からはみ出た存在を、ある意味娯楽のような感覚で探って暴いていく。
それを知ってどうするんだろう、とずっと思っていた。
自分じゃなくて良かった、と安心する為なのか
狭い学校生活の3年間しか有効期限のないランキングの為なのか
田舎特有の情報弱者たちの恰好の餌だからなのか
全てが自分本位な考えで、それに巻き込まれていくことが昔から心底迷惑だった。今でこそ悪意のある下世話な話にも大人の対応をするけれど、人が話す他人の事情に驚くことはあっても特に興味はない。
「そんな人もいるよね」と返すとあまり納得がいかない顔をするのもやめて欲しい。

いつだって子どもを理不尽な目にあわせるのは大人。
だけど救ってくれるのもまた大人。
晴子の両親は本当に最低だし、救いようがないと思う。
そんな晴子を大事に大事に守ってきたおばあちゃんが認知症になってしまうことが切なかったけど、認知症でも晴子を守ってるということに泣けた。

晴子にとって啓太は、人生の分岐点で重要な人物だったと思う。
交わした言葉は少ないし、二人できちんと過ごしたのはたった一晩の星を見た日だけだったけど、彼女の人生において色濃く残っていく人になっただろう。
「よくやった。頑張った」の言葉だけで前を向ける晴子は強いな。
啓太にとっても晴子は背中を押してくれた大切な人になったと思う。
あいつも頑張ってるから、自分も頑張ろうと思える存在は尊いものだ。

二人の未来が明るいものでありますように。


波間に浮かぶイエロー

この本の中で一番好きなお話。

あなたがわたしのことを一生想うんなら、わたしも一生覚えています。
この世のどこかにわたしのことを好きなひとがいて、わたしのことをいまこの瞬間も想っているんだなあって。

波間に浮かぶイエロー

「あなたを一生想い続けます」

すごく都合のいい言葉で、下手したら呪いのような言葉だけど
純粋な気持ちで伝えられる重史さんの想いが美しくて大泣きしながら読んだ。

自分の損得ではなくて、その人の為ってすごく難しい。
見返りを求めてしまいそうになるけれど、好きになれたことだけで幸せを感じられたり、その人の幸せ(自分以外の人との)を心から願うってそれまでにたくさんの葛藤があったり、折り合いをつけてきたんだろうな。

私にもそう思うような人がいて、
「嫌われても味方だよ、大好きだよ」と伝えたことがある。
この先その人と一緒になることはないし、誰かと絶対に幸せになってほしいと感じる人。
いいように利用されて終わりだと言われたことがあるんだけど、それがまさに作中の沙世ちゃんみたいに優しい人だった。

「ずるい」と言う人もいる。確かにずるいと思う。
一生誰かに想われる安心感を手に入れた人ではなく、そう伝えた私自身が。
なんでそう思えるのか考えた時に、ずっと「良い人」で居たいのだと思った。私は、大好きなその人にとってずっと「良い人」でありたい。
結局は臆病でただずるい人間だ。
私はその人が疲れ果ててしまった時に最後に辿り着く逃げ場のような存在になりたい。例えば、周りから嫌われてしまったとしても「だけど、あいつは味方だから」と思い出してくれたらそれでいい。だからその時は何も取り繕うことはせずに、丸裸で吐き出してくれたらなと思う。
これは恋愛うんぬん関係なく、出会ってきた大好きな人全てに共通している私の想いだ。

重史さんの約束を守り続けて自分の在り方に誇りを持てた芙美さんも
亡くなった恋人の面影に囚われて進めなかった沙世ちゃんも
自分勝手だけど純粋に信じていた環さんも
登場人物がみんな愛おしくて大好きになった。

重史さんがいつまでも皆の中で生き続けられたらいいな。

溺れるスイミー

幸せってなんだろう、と思わせるお話。

とにかく主人公唯子のお母さんが怖い。
価値観の相違って最終的にこんなことになってしまうのかと怖くなってしまった。
田舎特有の狭いコミュニティに息苦しさを感じた。

本当はついていったら楽しいし幸せかもしれないのに
あえて選ばずに町に残る選択をした唯子が
最初のお話のサキコと対照的だった。

衝動を抑えることってすごく難しい

「共生できない人はこうなるのよ」というお母さんの呪い。
唯子には本当の幸せを見つけて欲しい。


海になる

まず、タイトルが好き。

みんなここに繋がっていくんだと理解した瞬間、ここまで読んだ中の登場人物達がすごく愛おしく感じた。

DV、流産と辛い内容のお話だったけれど
最後は、キラキラした穏やかな海が眼前に広がっているような感覚にさえなった。
前向きに自分の人生に向き合って、もらった優しさを誰かに渡して、またその優しさが広がっていって...

苦しくて愛おしくて泣いてしまった。
いい作品だった。

海に果てなどない。流した涙は、いつか誰かに優しく辿り着く。ひとは誰かを育むものになれる。

海になる

読み終えて

短編集と捉えて読んでたのに、1冊の長編小説を読み終えた感覚だった。
フィクションではあるけれど、きっと登場人物達は普段何気ない顔で生活をする私たちと重なることがたくさんある。

みんな平坦な道ではないし、抱えきれないものを必死に抱えて生きている人の方が多い。
たくさんの苦しみの中に、小さな幸せや嬉しいことが積み重なっていて、人に前を向かせてるのだと思う。

誰かに優しさを少しでも分けてあげたいなと思わせてくれる素敵な作品でした。
町田その子さん、他の本も読んでみます。


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