呪われた恋の闇を越えて
呪われた恋の闇を越えて
禁断の呪術の名前
「愛執呪法(あいしゅうじゅほう)」
詳しい説明
発動条件:
使用者が特定の相手に対する強い恋愛感情を抱いていること。
概要: 愛執呪法は、恋愛に関する強い思いを具現化する呪術で、特に相手への執着や愛情が強くなるほど効果が増す。呪術を発動するためには、強い感情と自己の意志が不可欠であり、使用者の心の中にある感情が直接的に影響を与える。
相手への思いが深まるほど、呪術の力は増加する。反対に、その思いが不安や嫉妬に変わると、呪術は制御が難しくなり、使用者自身に負担をかける。
呪術の効果:
感情の具現化: 使用者の心の中の愛情や執着が、周囲のエネルギーを吸収して具現化する。この具現化した感情は、相手に強い影響を与える。
闇の増幅: 相手が他の人に興味を持つと、使用者の嫉妬心や闇が増し、その闇が呪術の力を強化する。しかし、闇が深まるとともに、使用者の精神状態も不安定になり、制御が難しくなる。
感情の交換: 使い手と対象者の感情が反応し合い、互いの思いを通じて強化される。これにより、片思いの相手にも自分の感情が伝わる可能性があるが、相手の意志に反して強い影響を与えることもあるため、注意が必要。
リスク:
使用者が持つ愛情や嫉妬心が強ければ強いほど、呪術の効果は増すが、同時に心の闇も深まる。最終的には、呪術に振り回され、自身が思い描く「愛」が歪んでしまう危険性がある。
繰り返し使用することで、心身に負担をかけ、使用者自身の人間関係に悪影響を及ぼすこともある。
背景: 乙骨憂太に重い愛を抱いていたひなこが、伏黒恵の強い愛情に影響されて覚醒することで、愛執呪法が発動する。ひなこの心の中で、乙骨に対する思いと伏黒の嫉妬心が交錯し、呪術が複雑な情念を生むことで、禁断の力を持つこの呪術が形成された。
このような設定で、禁断の呪術のテーマが「恋」に基づいていることが強調され、キャラクターたちの感情が複雑に絡み合う展開が可能になります。
【プロローグ】
“推しは推し、現実じゃ会えないからこそ美しいの。”
私――野々村ひなこ、陰キャの高校1年生。友達なんていないし、他人と比べられることが嫌いだから、常に一人でいる。特に「同担拒否」という言葉が私の全てを表している。誰かが私の推しを好きだなんて知ったら、もうその人とは二度と口をきかないだろう。推しは私だけのもの。それが鉄則。
私の推しは、呪術廻戦の乙骨憂太。彼は繊細で優しすぎる心を持ちながらも、圧倒的な力を秘めたイケメン。誰よりも強く、それでも誰よりも優しいその姿に、私の心は捕らわれていた。乙骨くんが大好きで、毎晩彼のことを考えながら眠りにつくのが日課だった。
けれど、ある日、その幻想が現実になってしまう。
【第1章:非現実が現実に】
いつも通り、学校の帰り道、私はふとした違和感を感じた。周囲が急に静まり返り、背筋に冷たいものが走る。何かがおかしい。
「……えっ?」
目の前に立っていたのは――乙骨憂太だった。あの白いシャツ、黒髪に優しい目元。そして、どこか悲しそうな表情。それは間違いなく私がずっと推してきた乙骨くんその人だった。
「君、危ないところだったね。」
彼が静かにそう言いながら、私を見つめている。まるで何かから私を守るかのように、その目は真剣そのもの。
「乙骨、憂太……」
信じられない。こんなことがあり得るはずがないのに、彼は現実に存在している。
【第2章:リアルな推しとの出会い】
私は何を言うべきかも分からず、ただ茫然としていた。乙骨くんが目の前にいるという事実が、頭の中で混乱を引き起こしていた。
「どうして、ここに……?」
やっとの思いで声を出すと、彼は少し戸惑ったような表情を浮かべた。
「うん……僕もよく分からないんだけど、君が僕を呼び出したみたいなんだ。」
その言葉に、私は驚愕した。私が彼を? そんなことができるはずがない……でも、彼の言葉には嘘がない。彼はいつものように、真っ直ぐな目で私を見ていた。
「君、呪術とか、知ってるよね?」
乙骨くんがそう尋ねてくる。私はもちろん知っている。呪術廻戦の世界、呪霊や呪術師、そして乙骨くんがその中でどれだけ強力な存在かも。
「知ってるよ、乙骨くんのことも……全部……」
それでも、この現実が信じられない。大好きな推しが、私の目の前にいるなんて。心の中で何度も繰り返した妄想が、現実に形を変えて現れていた。
【第3章:新たな日常】
その日から、私の生活は一変した。乙骨くんが現実に存在するなんて、ありえないはずだったのに、彼は毎日のように私の前に現れるようになった。
「君、危険なことに巻き込まれてるみたいだね……僕が守るよ。」
彼はいつも優しく、そして決して距離を詰めすぎることはなかった。だけど、その存在感は圧倒的だった。乙骨くんがそばにいるだけで、私は心の中で感じていた孤独が和らぐのを感じた。
しかし、同時に彼の存在が私に問いを投げかける。
「推しが現実に現れたら、私はどうすればいいんだろう?」
乙骨くんは現実でも私のヒーローだけれど、私が彼を独り占めしてしまっていいのだろうか。そんな悩みが私の中で渦巻いていた。
【エピローグ】
乙骨憂太が私のそばにいる。それは夢のようで、時に怖ささえ感じる現実だった。彼は何も言わないけれど、私の心の中を全て見透かしているような気がした。
「君が僕を呼んでくれたんだよ。だから、僕はここにいる。」
彼のその一言に、私は心を揺さぶられた。これから、私と乙骨くんがどうなるのか、それは誰にも分からない。
でも、彼がそばにいるというだけで、私は少しだけ強くなれた気がする。
【次回予告】
乙骨憂太との奇妙な日常が始まる。彼との距離が徐々に縮まる中、私は彼に何を望み、彼は私に何を求めているのか?
【第3話:呪術師と呪われた日常】
乙骨くんが私の生活に溶け込んできた。彼は不思議と自然な存在だった。けれど、その裏には常に緊張感が漂っていた。
「ひなこ、君はまだ気づいていないかもしれないけど、呪いが君にまとわりついてる。」
放課後、乙骨くんが学校の裏庭でそう告げてきた。私は呪術廻戦の世界を知っているから、呪いという言葉の重みも理解している。でも、まさか自分が呪われているなんて想像もしなかった。
「え、呪いって……私に?」
「うん、少しずつだけど強まってる。今は僕が抑えてるけど、危険だ。」
乙骨くんの顔はいつになく真剣で、その優しい瞳の奥に不安が揺れていた。私は一瞬戸惑ったが、彼がそばにいてくれるという事実が、私の恐怖を和らげた。
「大丈夫。僕が必ず守るから。」
彼が私の手を取る。温かい。私の推しだった彼が、現実に私を守ろうとしている。だけど、それと同時に、私は少し罪悪感を感じていた。乙骨くんを私だけのためにこんな危険な目に合わせていいのだろうか?
「乙骨くん、私のせいで……ごめんね……」
「謝る必要なんてないよ。君は何も悪くない。それに、僕は自分の意志でここにいるんだ。」
彼は微笑んで私の不安を払ってくれた。だが、その微笑みの背後には、彼自身が背負っている呪いが見え隠れしているような気がした。
【第4話:リカの影】
乙骨くんとの生活が始まってから数日が経った。学校では普通の生活を送りつつも、彼の存在がどこか非日常を感じさせる。そんな日々の中で、私は彼が抱えている大きな影に気づき始めていた。
「リカ……」
乙骨くんが夜、ふと呟いた名前。それは、呪術廻戦のストーリーの中でも重要な存在、彼の大切な人――リカちゃんの名前だった。私はアニメや漫画で彼とリカちゃんの強い絆を知っていたが、現実の彼がリカを口にするのを聞くと、何とも言えない感情が湧き上がった。
「リカちゃんのこと……忘れられないんだよね?」
私がそう尋ねると、乙骨くんは驚いたように私を見つめた後、静かに頷いた。
「うん……リカは僕の一部だから。でも、今は君を守らなきゃいけないって思ってる。」
彼のその言葉が嬉しかった反面、私はどこか心に引っかかるものを感じた。乙骨くんにとって、私はただ守られる存在なのか、それとも――。
「乙骨くんは、どうして私をこんなに気にかけてくれるの?」
正直に聞いてみた。すると、彼は少し困ったように眉を寄せながら、言葉を探しているようだった。
「君には……分からないかもしれないけど、君が僕を呼び出してくれたおかげで、僕はここにいる。そして、君を守りたいって思ったんだ。……リカもきっと、そう思ってる。」
彼の言葉は真摯だった。でも、その裏にリカの存在が常にあることが、私にとっては少し苦しかった。
「君がいなかったら、僕は今も迷子のままだったかもしれない。でも、君がいるから、僕は進むべき道が見えるんだ。」
乙骨くんは私の目を真っ直ぐ見つめていた。その優しさと強さに、私は心が震えた。
「私も……乙骨くんを助けたい。何かできることがあるなら、教えてほしい。」
そう告げると、彼は微笑み、少しだけ驚いた表情を浮かべた。そして、優しく頷いた。
「ありがとう、ひなこ。君がいるだけで十分だよ。でも、危険が迫ったらすぐに僕に言ってね。」
乙骨くんと私の奇妙で特別な日常は、こうして少しずつ進んでいった。だけど、その背後には、リカの影と、私に迫りつつある呪いの気配が強まっていくのを感じていた。
次回、呪いとの戦いが本格化し、ひなこは自分の意志で乙骨を助ける決意をする。しかし、乙骨が抱える過去がさらに彼らの関係に波乱を巻き起こすことに――。
【第3話:呪術師と呪われた日常】
乙骨くんが私の生活に溶け込んできた。彼は不思議と自然な存在だった。けれど、その裏には常に緊張感が漂っていた。
「ひなこ、君はまだ気づいていないかもしれないけど、呪いが君にまとわりついてる。」
放課後、乙骨くんが学校の裏庭でそう告げてきた。私は呪術廻戦の世界を知っているから、呪いという言葉の重みも理解している。でも、まさか自分が呪われているなんて想像もしなかった。
「え、呪いって……私に?」
「うん、少しずつだけど強まってる。今は僕が抑えてるけど、危険だ。」
乙骨くんの顔はいつになく真剣で、その優しい瞳の奥に不安が揺れていた。私は一瞬戸惑ったが、彼がそばにいてくれるという事実が、私の恐怖を和らげた。
「大丈夫。僕が必ず守るから。」
彼が私の手を取る。温かい。私の推しだった彼が、現実に私を守ろうとしている。だけど、それと同時に、私は少し罪悪感を感じていた。乙骨くんを私だけのためにこんな危険な目に合わせていいのだろうか?
「乙骨くん、私のせいで……ごめんね……」
「謝る必要なんてないよ。君は何も悪くない。それに、僕は自分の意志でここにいるんだ。」
彼は微笑んで私の不安を払ってくれた。だが、その微笑みの背後には、彼自身が背負っている呪いが見え隠れしているような気がした。
【第5話:呪いとの対峙】
放課後、いつものように乙骨くんと一緒に帰る途中、周囲の空気が急に変わったのを感じた。夕暮れの光が沈み、まるで時間が止まったかのような不気味な静寂が訪れる。何かが来る――それは本能的に分かった。
「乙骨くん……」
声をかけると、乙骨くんもすぐにその異変に気づいた。彼の目が鋭く光り、周囲を見回す。
「ひなこ、後ろに下がって。」
乙骨くんが私をかばうように前に出ると、その瞬間、視界の隅に黒いモヤのようなものが揺れ動いた。それは、人の形をしていない、異形の呪霊だった。
「やっぱり……君に取り憑いていたんだ。」
乙骨くんは一瞬にしてその状況を理解したようだった。呪霊は私に向かって不気味な声をあげながら、じわじわと近づいてくる。恐怖で体が固まる。
「乙骨くん、どうしよう……」
私は震えながらも、彼の背中にすがりつくように立っていた。乙骨くんは振り返り、優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫。僕が君を守るって言っただろ?」
彼の言葉はいつも通り穏やかだったけれど、目の前の呪霊は簡単に倒せるような相手ではなさそうだ。黒いオーラをまとい、私にまとわりつく呪いの塊が、乙骨くんに向かって襲いかかってきた。
「リカ!」
乙骨くんが名前を呼んだ瞬間、周囲の空気が一変した。乙骨くんの背後に、巨大な呪い――リカが現れた。彼女は巨大で恐ろしい存在だが、その姿は乙骨くんを守るように私たちの前に立ちはだかる。
「リカ、お願い!」
乙骨くんの叫びに応じて、リカが目の前の呪霊に襲いかかった。圧倒的な力で呪霊を押さえつけ、粉々に打ち砕く。あっという間だった。その光景に私は息を呑んだ。
「すごい……」
乙骨くんは平然としていたが、その表情にはどこか疲労の色が浮かんでいた。リカが消えた後、彼はゆっくりと私の方に戻ってきた。
「ひなこ、もう大丈夫だよ。」
そう言われても、心臓はまだバクバクしていた。乙骨くんが私を守るために全力を尽くしてくれたことが、痛いほど伝わってくる。
「ありがとう、乙骨くん……私、助けられてばかりだね……」
呟くと、彼は少し微笑んで頭を振った。
「そんなことないよ。君がそばにいてくれるだけで、僕も強くなれるんだ。」
彼の言葉はいつも通り優しくて、私の心にしみる。でも、その裏には彼が背負う重いものがあることも感じ取っていた。リカという存在、そして彼の過去――。
その夜、私はベッドに横になりながら考え込んでいた。乙骨くんは本当に優しくて、いつも私を守ってくれる。でも、彼にはリカという特別な存在がいる。彼にとって、私はただ守られるだけの存在でしかないのだろうか。
「私も、乙骨くんの力になりたい……」
心の中でそう誓った。これからは彼に守られるだけじゃなく、私自身も何かできるようにならなきゃ。呪術の知識を身につけるか、彼の力になれる別の方法を見つけたい。
そして、乙骨くんの心にもう少し近づくために、私は自分の思いをしっかり伝えようと決意した。彼の強さに頼るばかりではなく、私も彼の支えになれるように――。
次回、ひなこは乙骨くんの過去と向き合い、自らの力で彼に寄り添う方法を模索する。リカの存在がさらに二人の間に大きな影を落とし始めるが、それでもひなこは乙骨くんとの絆を強くするために新たな決意を固める。
【第6話:覚醒の兆し】
それは突然だった。
学校が終わり、乙骨くんと一緒に帰るいつもの道。平穏な日常が続くはずだった。しかし、再び呪霊の気配が私たちを包んだ。
「またか……」
乙骨くんが緊張した表情で前に出た。しかし、今回はいつもと違う。呪霊の力が格段に強く、今までの敵とは比べ物にならないほどの邪悪さを感じる。
「乙骨くん、気をつけて!」
私は叫んだが、何もできずにその場で固まってしまう。いつも乙骨くんに守られるだけの自分が、嫌だった。そんな無力感に苛まれながらも、乙骨くんが全力で呪霊と戦う姿を見守っていた。
しかし――その瞬間だった。
「乙骨くん!危ない!」
乙骨くんに向かって呪霊の攻撃が迫ったその刹那、体が勝手に動いた。私は無意識のうちに彼の前に飛び出していた。
「ひなこ!ダメだ、下がって!」
彼の声が聞こえた瞬間、私の体から突如として温かい力が溢れ出た。まるで目に見えない何かが私を包み込み、呪霊の攻撃を弾き返していた。
「……え?」
自分でも信じられなかった。呪霊の攻撃が私を通り抜けることなく、逆に私の手のひらから放たれたエネルギーが呪霊を後退させたのだ。
「ひなこ……君……」
驚いた乙骨くんが私を見つめている。その顔には、戸惑いと驚き、そして何か希望のようなものが混ざっていた。
「私……これ、なに?」
自分でも何が起こったのか理解できない。ただ、感じるのは体の中に渦巻く不思議な力――呪力。まさか、自分にこんな力が宿っているとは夢にも思わなかった。
「ひなこ、君も……呪力を使えるんだ。」
乙骨くんはゆっくりと私の肩に手を置き、私を見つめた。その目は今まで以上に真剣だった。
「どうして……こんなことが……」
私は混乱していた。呪術師なんて、乙骨くんのような特別な人だけのものだと思っていたからだ。しかし、乙骨くんは首を振った。
「もしかしたら、君も呪術に関係する素質が元々あったのかもしれない。これまで気づかなかっただけで、君を狙っていた呪霊たちが君の力を引き出したんだ。」
彼の説明に、少しずつ自分の現状が理解できてきた。私はただの一般人だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。呪術廻戦の世界が現実となり、私もその一部に関わることになったのだ。
「でも、どうすればいいの?」
私は戸惑いながらも、乙骨くんの手を握りしめた。彼のぬくもりが、私に少しの安心感を与えてくれる。
「まずは落ち着いて。今はまだ力を完全にコントロールできていないみたいだけど、僕が教えるよ。君が覚醒したということは、それだけ強力な呪霊が君を狙ってくるということだからね。」
「うん……」
私は深く息を吸い込み、覚悟を決めた。これからは乙骨くんに守られるだけじゃなく、自分も戦う力を身につける。そして、彼と共に戦っていく。
その夜、乙骨くんは私の家に残り、呪術の基本的な知識と技術を教えてくれた。彼の指導はとても分かりやすく、呪力の流れを感じる方法やそれを制御する練習を始めた。
「こうして、自分の呪力を意識的にコントロールするんだ。焦らず、力を自分の中に留めて……そう、いい感じだよ。」
乙骨くんの指示通りにやってみると、体の中にあるエネルギーがゆっくりと静かに流れ始めるのを感じた。私は次第にその感覚に慣れていった。
「乙骨くん、ありがとう。私、もっと強くなりたい。」
彼に教わりながら、私は決意を新たにした。乙骨くんのそばで彼を守るためにも、私自身が強くならなければいけない。
次回、ひなこは呪術師としての修行を本格的に始める。しかし、力を得たことで彼女の中に新たな葛藤が芽生え始める。乙骨くんとリカとの関係、そして彼の過去との対峙が、二人の関係を大きく揺さぶることに――。
【第7話:伏黒恵の片思い】
日常が戻ってきたかのように思えた。しかし、私の心はまだ呪術師としての自覚を持ち始めたばかりの不安と、乙骨くんとの特別な時間への戸惑いで揺れていた。私が覚醒して以来、乙骨くんは私に呪術の使い方を丁寧に教えてくれているが、彼のそばにいるときは、いつも緊張感で胸がいっぱいになる。
そんなある日、放課後に乙骨くんと一緒に訓練をしていた時のことだった。ふとした瞬間、もう一人の影が現れた。
「乙骨先輩、今日は訓練を見ているだけですか?」
その声に振り返ると、伏黒恵が無表情で立っていた。彼は乙骨くんの後輩であり、私のクラスメイトでもある。普段は冷静で寡黙な彼だが、目が合った瞬間、ほんの少しだけ顔が硬くなったのを見逃さなかった。
「伏黒くん、お疲れさま。今日は見学?」
私は軽く声をかける。彼の返事は短くそっけなかった。
「まぁ、そんなところだ。」
それから、伏黒くんはじっと私と乙骨くんの様子を観察していた。何か言いたげな雰囲気を感じたが、彼は何も言わないまま訓練が進んだ。
数日後、私は伏黒くんと二人で会うことになった。乙骨くんは用事があり、今日は一緒に訓練ができないと言われたため、仕方なく一人で練習をするつもりだったが、伏黒くんが突然「手伝おうか?」と声をかけてくれたのだ。
「え? 伏黒くんが?」
彼が手伝ってくれるなんて意外だった。普段はあまり話すことがなかったからだ。
「お前、最近呪術の訓練を始めたんだろ? 少しは俺も力になれる。」
伏黒くんはいつもの冷静な態度で言ったが、その瞳にはどこか優しさが感じられた。私は少し戸惑いながらも、彼に手伝ってもらうことにした。
練習を始めると、伏黒くんは思った以上に丁寧に指導してくれた。呪力の使い方や体の動かし方について、的確なアドバイスをくれる。真剣に取り組んでいる彼の姿に、私は少しずつ引き込まれていった。
「伏黒くん、ありがとう。あなたのおかげで、少しずつわかってきた気がする。」
私は汗を拭きながら感謝の言葉を口にした。伏黒くんは、ちらりと私を見てから視線を外し、短く「大したことない」とだけ言ったが、その言葉の裏には彼の優しさが隠れているように感じた。
「ひなこ、最近、乙骨先輩と仲が良いみたいだな。」
突然、伏黒くんがぽつりと呟いた。その言葉に驚いて振り返ると、彼はいつもと変わらない表情で空を見つめていた。
「うん。乙骨くんが、色々教えてくれてるから……すごく感謝してる。」
私は素直に答えたが、伏黒くんはそれを聞いても何も言わなかった。ただ、どこか寂しそうな横顔を見せた。
「乙骨先輩は強い。だけど……君も、もっと自分を信じていいと思う。」
彼の言葉に、私は一瞬息を呑んだ。伏黒くんの声は静かだったが、その言葉には深い思いが込められているように感じた。
「伏黒くん……?」
「……いや、何でもない。」
伏黒くんはそれ以上何も言わず、訓練を続けようと促した。私は心の中で彼が何を思っていたのかを考えながら、彼の言葉に感謝し、訓練を続けた。
訓練が終わる頃、ふと伏黒くんが小さく呟いた。
「もし、何か困ったことがあったら……俺にも言えよ。」
その言葉はとても静かで、聞き逃してしまいそうなほどだった。でも、その瞬間、私の胸の奥に温かいものが広がった。
伏黒くんは、私のことをいつも気にかけてくれていたのかもしれない。乙骨くんとの関係に意識を向けていたのも、きっと彼なりの感情があったからだろう。私はそんな伏黒くんの思いに、気づかないふりをしてしまっていた。
「ありがとう、伏黒くん。」
私は彼に微笑みながら言った。伏黒くんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに視線をそらし、そっけなく「気にするな」と答えた。
その夜、私は伏黒くんのことを考えていた。いつも冷静で距離を取る彼が、少しずつ私に心を開いてくれているのを感じる。乙骨くんとは違う、静かで強い優しさを持つ彼。私の心の中に、彼の存在が少しずつ大きくなっていくのを感じていた。
でも――乙骨くんのことも、やはり大切だ。二人の間で揺れる自分に、私はどう向き合えばいいのだろう。
次回、ひなこは乙骨くんとの訓練中に、伏黒くんとの関係に迷いを感じ始める。一方で、伏黒くんの思いがさらに強くなり、彼の内に秘めた感情が爆発する瞬間が訪れる――。
【第8話:禁断の呪術と片思いの爆発】
訓練を重ねる中で、私は徐々に自分の力を理解し始めていた。乙骨くんの指導の下、呪術の使い方は少しずつマスターしてきたが、その力の根源が「禁断の呪術」であることを理解したのは、つい最近のことだった。一般的な呪術とは異なり、その危険性は高く、制御を誤れば自分自身を傷つける可能性もある。
そのことを知った時、私の心には恐れが芽生えた。しかし、乙骨くんはその恐れを乗り越え、自分の力を信じることが大切だと言った。その言葉に勇気をもらい、私は自分の運命を受け入れることに決めた。
その日、私は再び訓練に向かった。伏黒くんが一緒に来ることになり、少し緊張していた。彼の存在は心地よいが、その一方で、何か特別な感情が生まれているのを感じる。乙骨くんとの関係と同じように、彼もまた私の心の中に入り込んでいた。
「ひなこ、今日の訓練は特に重要だから、集中しよう。」
伏黒くんが真剣な眼差しで言う。その言葉には、いつもの冷静さだけでなく、少しだけの優しさが滲んでいた。私は頷き、心を引き締めた。
訓練を始めると、伏黒くんは私に「禁断の呪術」の扱い方を教えてくれた。それは非常に高度な技術で、力を引き出すためには心の状態を整え、意志を強く保つ必要があった。
「力を信じろ、ひなこ。自分の中にあるものを恐れないで。」
彼の声が私の心に響く。私は彼の言葉を反芻しながら、ゆっくりと呪術を発動させる。すると、私の手の中で禁断の呪術が渦を巻き始めた。強いエネルギーが流れ込み、身体が熱くなり、まるで別の存在になったかのようだった。
しかし、その瞬間、私の心の奥底に潜む不安が一気に溢れ出した。力が暴走しそうになり、身体が震える。私は自分の意志を保とうとしたが、恐れが支配し始める。
「ひなこ、冷静になれ!」
伏黒くんが私に近づき、手を伸ばす。彼の目が真剣そのもので、私を見つめている。私は彼の声に導かれ、何とか意識を集中させた。
「大丈夫、私はできる!」
自分の中の力をしっかりと感じながら、私は再び呪術を発動させる。禁断の呪術が私の手の中で形を成し、私を包み込む。全身に流れるエネルギーを感じ、私は自分の力を確信した。
訓練が終わり、息を切らしながら伏黒くんと一緒に休んでいると、彼の様子がいつもと違うことに気づいた。彼の目は私をじっと見つめていて、その表情には言葉にできない感情が溢れていた。
「ひなこ、お前の力は本当にすごい。でも、禁断の呪術は危険だ。お前が心配だ。」
その言葉に、私は彼の思いを感じ取った。彼は私を心配し、守りたいと思っているのだ。少し前の彼とは違って、今の彼は私に特別な思いを抱いているように見えた。
「ありがとう、伏黒くん。でも私は大丈夫だよ。あなたがいるから、力を信じることができる。」
私の言葉に彼は少し驚いたように目を見開いたが、その後、微かに頷いてくれた。
「俺は……ひなこを助けたいだけだ。」
その言葉が重く響く。彼の思いが、確かに私に伝わってきた。私の心の中で、伏黒くんの存在が大きくなっていくのを感じる。
その夜、私は自分の心の中で彼の思いを考え続けていた。乙骨くんとの関係、そして伏黒くんの特別な感情。その二つが、私の心の中でせめぎ合っていた。
「私、どうするべきなんだろう。」
悩みながら眠りについたが、夢の中には不思議な光景が広がっていた。私は訓練をしている自分と、優しく見守る伏黒くんの姿が重なり合う。彼の存在が、私の心を温かく包んでいた。
次の日、私は新たな決意を胸に秘め、訓練場に向かう。伏黒くんが待っていてくれることを信じて、彼に自分の気持ちを伝える勇気を持とうと思った。
心の中の葛藤は続いていたが、彼と一緒にいることで、少しずつ自分の本当の気持ちに気づき始めていた。禁断の呪術を使いこなし、強くなることは、私のためだけではなく、彼のためでもあるのだと感じたからだ。
次回、ひなこは自分の気持ちを整理し、伏黒くんとの関係を一歩進める決意をする。そして、彼の片思いも新たな展開を迎えることに……。
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