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MAZDA3 スカイアクティブX

 今回は現行車、MAZDA3。それもスカイアクティブX搭載車なので、期待40%、意地悪技術者の興味60%で試乗に臨んだ。しかも今回は、ちょっと遠出する予定と重なったので、いつもよりじっくりと乗る機会を得た。

 車の色はイメージカラーのソウルレッド。中々深みがあって、映り込みも綺麗でいい色だと思う。それにしても、マツダ車のボデーパネルの品質向上は眼を見張るものがある。プレスも綺麗だし、チリや段差は、ここに異常なまでに拘ったDr.ピエヒが率いたアウディ並みにスッキリ出来ている。我が2003年型ロードスターと同じメーカーの製品だとはとても思えない出来栄えだ。おそらく、現在の国内メーカー車ではレクサスを含めても最もレベルが高いと思う。

 デザインはWORLD CAR DESIGN OF THE YEARを2020年に受賞するなど評価が高い。けれど、個人的にはクォーターピラー廻りの面が少し大きすぎて、保守的かもしれないがセダンの方が好きだ。
この車は当然FF車だが、フロントホィールアーチからフロントドア割線までの寸法が一般のFF車より数十ミリ長いので、フロントオーバーハングの重さを感じず優雅に見える。これはデザイン的な面も有るが、エンジンに対して後方にデフがある(即ちエンジンより後ろにタイヤがある)横置きFF車では右ハンドル車では必然的にフロントホィールアーチとアクセルペダルが干渉する為、アクセルペダルは車両センター側にオフセットしがちであるが、マツダは人車一体のコンセプトで、ドライビングポジションに拘りがあるし、昨今の高齢者のペダル踏み間違えを考えるとオフセットしたペダル配置は避けたい。またアクセルペダルはオルガンペダル(フロアにヒンジがあるペダルので、ペダル周辺に十分なスペースが必要)を採用したいとの想いでペダルレイアウトを優先した結果、フロントホィールが前に出ることになり、おまけでデザイン的にも優雅になったと筆者は推測するがどうだろうか?

 室内のデザインも最近のマツダ車は定評あるところで良く造り込まれている。ダッシュボードやドアトリムも、このクラスのトヨタ車と違って全面ソフトパットを奢っているのみならず、エンジン屋にとっては理解できないほど高価なステッチも贅沢に採用されているなど、デザインに多くのコストを掛けている。ここで一つ残念なのは、ここまで頑張っているのにドアの内側窓枠部が外板と同一の塗装となっている事だ。(写真参照)まだソウルレッドなのでそれほど気にならないが、ホワイトやシルバーと云った塗色なら興ざめだろう。やはりここはブラックのフィルムを貼って欲しかった。

高級感のあるドアトリムに対して、外板色の窓枠だ残念


 最新の車ならではの装備で良かったものが、ヘッドアップディスプレイだ。これはフロントガラス下部にスピードなどの情報が表示されるのだが、この車では、通常コンソールの上部に表示される為、視線の動きが大きくなってしまうナビの指示が表示されるのが便利だ。この装備はメーカ純正ならではの装備で、もっと採用が増えるといいと思う。

ヘッドアップディスプレイでナビが表示されるのは、とても良い装備だ。


エンジンは横置きだが、縦置きっぽく見える立派なエンジンカバー

 さてエンジンだ。マツダはエンジンについてもスカイアクティブテクノロジーと称して、モデルベース開発と呼ばれる、基礎データをみっちり取り、シミュレーション技術を駆使して開発する。と云う開発手法を用いてエンジンの開発も行っており、その一つの集大成がこのスカイアクティブXである。このエンジンの最大の特徴は、ディーゼルエンジンの様な自己着火燃焼を(HCCI:予混合圧縮着火 (Homogeneous Charge Compression Ignition)行う事で、NOx生成の少ないスーパーリーンの領域でのエンジン運転を可能としている事である。しかし、HCCI 燃焼が成立する領域はとても狭く殆ど使い物にならない。以前ダイムラーベンツがコンセププトカーを展示していたが、その後音沙汰ないのはご存知の通り。そこでマツダが考えたのは、HCCIでは禁じ手のハズのスパークプラグを用いてHCCI燃焼に近い自己着火燃焼をを成立させる事だった。筆者も初めにSPCCI(火花点火制御圧縮着火)と聞いてピンと来ず、HCCI燃焼の成立しない領域は普通にプラグ着火燃焼させる位にしか考えていなかった。HCCI 燃焼が成立する為には、負荷が低い領域では高い圧縮比(ε=20レベル)が必要な一方、ノッキングさせない為にはVVTを駆使してEGRを制御しなければならない。また、負荷が高い領域では比較的低い圧縮比(と言ってもε=15くらい) で着火できる。この極端な要求圧縮比を、点火プラグで着火する事により発生する燃焼圧力を利用する事で解決すると云うのがSPCCIのキモである。もちろん、全負荷の時のノッキング抑制やHCCIとSPCCIの時の空燃比の違い、スーパーリーン領域と理論空燃比領域の切替など、細かな制御技術がてんこ盛りなのだが、この辺は難しいので割愛する。


 以上を踏まえて早速試乗してみよう。筆者の興味は、スーパーリーンの領域と理論空燃比での運転領域の過渡域でボロが出るかどうかの一点に尽き、高速道路上では他の交通の影響がない様に注意しながら、燃費計を見ながら散々試してみた。が、この制御は見事の一言に尽きる。全くおかしなショックやモタつきなども無く自然に感じられ破綻しなかった。その一方、ルーツブロワーに依る影響か、加速の立ち上がり方には非線形な不自然さを感じることが有った。

 加速性能はディーゼル的に分厚いトルク感で加速する感じで力強いが、よく考えたらこのエンジンも2Lの排気量があるのでこの程度は当たり前かと思う。回転はガソリンエンジンらしく回るには回るが、ATがスポーツモードでも5000rpmに達する頃には自動的にシフトアップしてしまうので、特にスポーティーな感じはしない。


エンジン後方の写真。この様にエンジンは保温と遮音を兼ねて、徹底的にカプセル化されている。

 一般道での試乗では、まずアイドル振動とノイズの低さは素晴らしいものがある。ノイズに関しては、SCCIを成立させるためにエンジンブロックの保温が必要な為に、エンジンはかなりキッチリカプセル化されており、直噴エンジンに有りがちなインジェクターノイズも車の前に立って耳を澄まさないと気にならないレベルだ。また停止時に金属ベルトをプーリーの最低速側に移動させねばならないCVTと違い、ステップアップ式のATを採用しているので車速高めの18km/h付近からアイドルストップが作動する。ISG(Integrated Starter-Generator:統合 スターター・ジェネレーター)のお陰で停止直前にブレーキをアクセルに踏み換えての再始動もスムーズだし、なによりセルのピニオンが回る時の甲高いノイズが無いのが高級感があって良い。ただし、このエンジンは回すとそれなりに4気筒エンジン特有のクランク系のこもり音やメカノイズが高まってきて、特段静粛なエンジンでは無く、普通に静かなエンジンという印象だ。

 何よりも残念なのがロードノイズで、通常は大変低く抑えられているのだが、一旦コンクリートや透水性アスファルト等の粗い路面に入ると、国産車にありがちな高周波のこもり音が共振して興ざめになる。エンジン周りがかなり良く遮音されているので残念だ。

 ハンドリングは、いつもの山道を走らせてみたところでは可もなく不可もないと云ったところ。そこそこスピードは出せるが、それほどFunだったと云う印象は無かった。乗り心地は硬めだが不快感は無いのだが、タイヤが45タイヤと薄いためかハーシュネスは少し強い。それほどスポーティな味付けでも無いし、もっとソフトなタイヤが選べても良いのでは無いかと思う。また、こだわりのアクセルぺダルレアウトだが、筆者には外側過ぎで、いつの間にか踵がペダルのセンターより足幅半分くらいセンターに移動してしまっていた為、せっかくのオルガンペダルだが、正しく踏めていなかった事を告白しておく。

 期待していた燃費は、高速道路7割一般道3割位で483kmを走行し39.9Lのハイオクガソリンを消費:12.1km/Lと期待はずれの結果であった。 

 マツダ3は良い車である。特にデザインや内装はレベルが高い。しかし、巷で言われている様に、乗った感じは、良くまとまっているものの個性が弱く、印象が薄い。また、スカイアクティブXについては、困難な技術をものにした事は素晴らしい成果といえるが、技術克服するのが目的になっている様な気がしてならない。最大の目標であったのはスーパーリーンを実用化する事なのか? W to W (Well to Wheel:油井からタイヤ)までの燃費を内燃機関のみでHEV(ハイブリッド車)を凌駕する事ではなかったのか?


ホィールなどの装備以外で外観上の違いはこのエンブレムのみ

 このエンジンに織り込まれた数々のメカニズムには大変コストが掛かる事はもちろん理解出来るが、残念ながら、通常のガソリン仕様より70万円、ディーゼルより40万円も高い価格設定で、このエンジンを選ぶ価値は今のところ無いと云うのが素直な感想だ。



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