『かもねんしゃいん』第2話

 ○撮影スタジオ・中
 
   扉前に立つ、スーツ姿の獅子がいる。
N「とある組織に乗り込む刑事役を熱演している
 獅子」
   ガチャリと扉が開く。
N「組織の幹部に見つかってしまうシーン」
幹部「誰?」
獅子「(笑顔で)お日柄もよろしいようで」
幹部「(ニコッと)グッドラック」
   疑う様子なく去って行く幹部。
監督「カットお!」
獅子「(監督に)無理ありません? お日柄
  もよろしいようでって」
監督「(ドヤ顔で)やり過ごせる!」
 
○街路
 
獅子「(歩いている)!」
   クマのパンツを履いたサクラが、隙間で
   四つん這いになっている。
サクラ「いないなぁ」
獅子「何してる」
サクラ「(見て)エッチ!」
   履いていたスカートを直すサクラ。
獅子「どこにエロがある?」
サクラ「(スカートをチラッとさせ)ここ?」
   無視して行く獅子。
サクラ「ちょっと」
   獅子を止めるサクラ。
サクラ「(スマホ画面を見せて)手伝って!」
獅子「は?」
   スマホ画面──ブサカワいい猫の写真。
 
○マンション・まり愛の部屋
 
   ソファーに腰掛けている獅子とサクラ。
獅子「(カップに入った紅茶の匂いを嗅ぐ)
 いい香りだ」
サクラ「(クンクン嗅いでいる)」
獅子「…犬か」
女性の声「お待たせ」
   容姿端麗な女性・広瀬まり愛(40)が
   ソファーに腰掛ける。
まり愛「(サクラを見つめ)…」
サクラ「?」
まり愛「初めまして。えっと」
サクラ「冬美サクラです」
獅子「通りすがりの者です」
サクラ「売れない役者のレオンです」
獅子「おいこら」
まり愛「ふふ。私は広瀬まり愛。まり愛って呼ん
 でもらって結構よ。それにしても、まさか女性
 の探偵さんが来るなんてね」
サクラ「え」
まり愛「あいつに依頼したのに、全く」
サクラ「あいつって…社長と知り合いなんです
 か?」
まり愛「昔ね」
獅子「男女の関係だな」
サクラ「嘘!? こんな綺麗な人と?」
まり愛「ありがとう。でも違うわ。あなたたちは
 恋人?」
獅子・サクラ「違います!」
まり愛「(ニコッと)」
獅 子「…まり愛さんって出来る大人な女性って
 感じ」
サクラ「憧れます」
まり愛「刑事なの、私」
獅子・サクラ「ええッ」
まり愛「刑事が依頼なんてね」
サクラ「そうでした!(スマホの画面を出す)」
   スマホ画面──ブサカワいい猫。
サクラ「いなくなった猫ちゃん。心当たりはない
 ですか」
まり愛「(写真を見て寂しくなった)愛しのペロ
 ンちゃーん」
獅子・サクラ「…」
 
○マンション・外
 
   出てきた獅子とサクラ。
獅子「綺麗な人だな」
サクラ「まり愛さんみたいな人がタイプなんだ」
獅子「(サクラに)お子ちゃまですからね」
サクラ「ムキいッ」
   獅子のスマホが鳴る。
獅子「(出て)もしもし…今日? 了解です。詳細
 送ってください。お願いします」
   電話を切る獅子。
獅子「行くわ」
サクラ「ありがと、付き合ってくれて。
 それじゃあ(行く)」
獅子「…おい」
サクラ「(振り返る)何」
獅子「気をつけろよ」
サクラ「?」
獅子「事件に巻き込まれやすいんだろ」
サクラ「心配どうも。名俳優さん(行く)」
獅子「頑張れよ、名探偵」
 
○探偵事務所〜まり愛の部屋
 
   ソファーで寝ている冬美秀二(45)のスマホ
   が鳴る。
秀二「(出て)何だ」
   以下カットバックで──。
まり愛「何だじゃないでしょ。あんた、サクラち
 ゃんに探偵させてるの?」
秀二「お前のとこに行ったのか」
まり愛「ビックリした。まさか、あの子が」
秀二「俺がこんな仕事してるからかもな」
まり愛「…もし探偵になったのが、例の件だと
 したら」
秀二「あいつは知らない、あの事件のことは」
まり愛「だといいけど」
秀二「そんなことでわざわざ連絡よこしたのか」
まり愛「いいえ。手伝ってほしいことがあるの」
秀二「?」
 
○薄暗い路地裏
 
サクラ「(探して)ペロンちゃーん、どこです
 かぁ」
   奥から話し声が聞こえる。
サクラ「?」
     *    *    *
   2人組の男が話している。
男1「どれくらい集まる?」
   ゴミ箱の影に隠れて聞いているサクラ。
男2「20人ほど」
男1「金がいいとは言え、嫌な仕事だな」
男2「2、3人売り飛ばすだけだ」
サクラ「(えッ)」
男2「(スマホが鳴る。見て)ボスからだ」
   「にゃーん」の鳴き声──。
サクラ「(見て)!」
   ガタンとゴミ箱を蹴ってしまうサクラ。
男1・2「!」
   サクラと目が合う男2人。
サクラ「(引き攣って)どうもぉ」
   「にゃーん」と鳴く猫はペロンだった。
 
○探偵事務所〜まり愛の部屋
 
秀二「パーティー?」
   以下カットバックで──。
まり愛「潜入捜査」
秀二「は? 待て待て。俺は刑事じゃないぞ」
まり愛「問題ない」
秀二「はあ!?」
まり愛「あなたほど優秀な人を使わない手はな
 いわ」
秀二「優秀って」
まり愛「あなた暇よね」
秀二「はあ…猫探ししてりゃよかった」
 
○豪邸・入り口(夜)
 
獅子「ここか?」
   奥に大きな屋敷がそびえ立っている。
獅子「でかッ!」
 
○どこかの部屋(夜)
 
   目を覚ますサクラ。
サクラ「(起き上がり、周りを見渡す)…どこ?」
   殺風景な部屋──。
ペロン「にゃーん」
   サクラの足元で毛を繕いでいるペロン。
サクラ「ペロン!」
 
○豪邸・広間(夜)
 
   扉を開ける獅子。
獅子「(入って)すげぇ」
   豪華な装いの広間。着飾った男女20人
   ほど、それぞれ談笑してる。
   「レオン!」の声に──。
獅子「!」
   先輩俳優の知良頭川右京(しらずがわう
   きょう・38)が来る。
獅子「知良頭川さん!」
知良頭川「遅かったな。見て見ろよ」
獅子「(見る)えッ! あの子、昔話題になった
 子役じゃないですか」
   可愛い出で立ちの20代前半の女性──。
知良頭川「今は鳴かず飛ばずで、表舞台にはあま
 り出てないけどな。有名作家や監督、他の業界
 でもそれなりに名前のある人たちも来てる」
獅子「(驚いて)」
知良頭川「今夜は楽しもうぜ」
獅子「はいッ」
     *    *    *
   着飾ったまり愛と秀二が隅にいた。
秀二「ちゃんと待機してるのか?」
まり愛「ブツが出てきたら一斉検挙よ」
秀二「…」
まり愛「何」
秀二「それだけか?」
まり愛「(微笑み)さあ?(見て)!」
 
○どこかの部屋(夜)
 
   扉を開けようとするサクラ。
サクラ「(開かない)ダメか…私、あいつらに
 捕まったってことよね」
     *    *    *
   フラッシュバック──。
男2「2、3人売り飛ばすだけだ」
     *    *    *
サクラ「売られちゃうの!? 私!」
男1「(が入ってくる)起きたか」
   持っていた軽食を地べたに置く男1。
サクラ「ここから出して!」
男1「話を聞かれたんだ」
サクラ「話って?」
男1「聞いてないのか」
サクラ「ええ、人身売買の話以外は」
男1「…馬鹿か、お前」
サクラ「ああッ」
   鍵を掛けて出ていく男1。
サクラ「何て馬鹿なの、私…ん?」
   周りを見渡すサクラ。
サクラ「ペロン?」
   どこにもいないペロン。
 
○豪邸・広間(夜)
 
獅子「どこ行ったんだ、先輩」
   「ちょっと!」と腕を掴まれる獅子。
獅子「!」
   獅子の腕を掴んでいたのはまり愛。
獅子「まり愛さん?」
まり愛「どうしているの!」
秀二「誰?」
まり愛「サクラちゃんの彼氏」
獅子「は?」
秀二「ほお(詰め寄り)ツラかせや」
獅子「ええ」
まり愛「彼はペロン探しを手伝ってくれてるの」
獅子「そもそもあいつとは、前に銀行で起きた
 事件で一緒だっただけで」
秀二「お前…売れない俳優か」
獅子「その認識!」
まり愛「あの事件を解決した一般人ってサクラ
 ちゃんとあなただったの?」
獅子「(照れて)いやあ」
秀二「サクラと付き合ってるのか?」
獅子「いやだから」
秀二「あん?」
獅子のM「何、この人! 怖い!」
まり愛「そんなことより」
秀二「そんなこと?」
まり愛「何でいるの」
獅子「先輩に誘われまして」
まり愛「…あなた、何も知らないの?」
獅子「え」
秀二「逮捕だ逮捕」
獅子「ええ」
まり愛「ホントに知らないのね」
獅子「知りませんよ。ってか何をです」
秀二「サクラと知り合った罪で逮捕」
まり愛「(小声で)このパーティーは、あらゆる
 非合法なドラッグが行き交うドラッグパーティ
 ーよ」
獅子のM「ええッ」
まり愛「警察が屋敷を取り囲んでる」
獅子「どうしたら……」
秀二「逮捕だ、サクラへの破廉恥罪で」
まり愛「黙って!」
 
○同・猫宮の部屋(夜)
 
   髭モジャでアジア風の男・猫宮凶事(50)が
   いる。
猫宮「(スマホに)警察が動いてる? 
 あれが見つかるのはマズい」
 
○同・2階バルコニー(夜)
 
   バルコニーの手摺りで頬杖をついている
   獅子。
獅子「バレずに出ていけって言われても」
   見張りの黒服が彷徨いてる。
獅子「はあ……何で俺は巻き込まれちゃうかなぁ」
   「にゃーん、にゃーん」の鳴き声──。
獅子「?(目を凝らす)」
   ライトに照らせれて見える猫の姿。
獅子「猫?…ペロン!?」
   ペロンの姿──。
獅子「まり愛さんに言うか…でも戻るわけに
 は…ああ、くそッ(手摺りに足を掛ける)
 ふん!」
   2階のバルコニーから飛び降りる獅子。
   ダンッと地面に叩きつけられるが、猫
   のようなしなやかな受け身で平然と立
   ち上がる。
獅子「…」
   「にゃーん」と、ペロンが走り出す。
獅子「あ、待て!」
 
○同・地下道(夜)
 
   いくつもの格子の中にいる男女。
   ドラッグが決まっていて、様子が
   おかしい。
    コツコツと歩く音──。
猫宮「(だった)…消すしかないな」
 
                         END



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?