第4章【結晶・分子間力】
●高校化学で求められる結晶の知識はそれほど難しいものではなく、単に幾何学の問題であることもあり、基本的なパターンさえ押さえておけば問題ないでしょう。配位数、充填率、結晶学的密度、イオンの限界半径比は頻出で、入試では型が出尽くした感さえありますが、型を学ぶことが学習の第一歩です。
●分子間力は奥が深い分野で、それ自体が理論的に重要であるばかりでなく、状態変化の起源でもあり、近年研究が盛んな超分子の構築にも欠かせないものです。いわゆる親水・疎水性効果もこのカテゴリーに入れてよいでしょう。
●中性の分子では分子間力はファンデルワールス力とほぼ同義と思っても差し支えないですが、通常、ファンデルワールス力は広義の分子間力からイオン間のクーロン相互作用や水素結合を除いたものを意味し、いくつかの双極子-双極子相互作用(分散力、配向力、誘起力)から成っています。
それでは問題です。
【問題1】
次の問に答えよ。
①単体の金属結晶において、面心立方格子、体心立方格子、六方最密構造の充填率を求めよ。
⓶面心立方格子、体心立方格子、六方最密構造の結晶構造をとる単体金属の結晶学的密度を求めよ。ただし、格子定数をa、アボガドロ数をN、原子量をMとせよ。
③塩化セシウム型、塩化ナトリウム型の結晶構造において、陽イオンと陰イオンの原子半径比の最小値を求めよ。ただし、陰イオンは陽イオンより大きく、互いに接しているものとする。
④最密充填構造と立方最密構造のちがいについて説明せよ。
⑤ダイアモンド型結晶格子の充填率を求めよ。
【問題2】
ダイアモンドと黒鉛の密度を求めよ。ただし、ダイアモンドにおけるC-C結合の長さをdとし、黒鉛結晶におけるC=C結合の長さをg、最隣接する炭素層のあいだの距離をhとせよ。また、アボガドロ数をN、炭素の原子量は12とせよ。
【問題3】
面心立方格子、体心立方格子において、結晶が安定に存在できる限界半径比(陽イオン半径/陰イオン半径)の範囲を求めよ。
【問題4】
下記の文章の空欄中に適切な数字、語句、記号等を記せ。
ファンデルワールスは主に19世紀後半に活躍したオランダの学者で、ファンデルワールスの名を冠した化学現象は今日まで基礎的かつ重要な意味をもっている。ファンデルワールスの状態方程式は( ① )と( ⓶ )を考慮した状態方程式で、気体・液体両方に適用できる点に特徴がある。理想気体の場合とは異なり、実在気体ではその圧縮係数(1 molの気体について圧力と体積の積を気体定数と絶対温度で割ったもの)が定数ではなくなる。圧縮係数は理想気体では( ③ )であるが、( ① )の影響で( ③ )より小さくなり、( ⓶ )の影響で( ③ )より大きくなる。ファンデルワールス力は( ① )の一種で、双極子-双極子相互作用やその量子効果によって記述される。原子量や分子量が大きくなると( ④ )の数が増えるため、ファンデルワールス力は( ⑤ )なる。また、ファンデルワールス半径というのは原子の大きさを見積もるための量で、原子間に斥力が働いてあたかも剛体のように振る舞う範囲を表現している。水素原子のファンデルワールス半径はおよそ1.2 Åである。したがって、結合がなければ分子内または分子間で水素原子同士がおよそ( ⑥ )Å以下に近づくことはない。ファンデルワールス結晶という用語はある種の分子性結晶のうち、その凝集力がファンデルワールス力に由来するものを指す。( ⑦ )結晶や( ⑧ )結晶に比べて融点が低く、しばしば常圧で昇華性がある。卑近な具体例として、たとえば( ⑨ )や( ⑩ )がある。
【問題5】
下記の文章の空欄中に適切な数字、語句、記号等を記せ。
中性分子の間に働くポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)Vは分子間距離Rの関数であるが、近似的に
V(R) = A/R¹² – B/R⁶
と表されること多い(A, B > 0)。これをLennard-Jonesポテンシャルといい、ある程度以上の分子間距離においては引力が働くが、分子間距離が非常に小さくなると電子間や核間の反発で斥力が働くようになることを示す。これを図示すると下記の( ① )のようになる。
原子、イオン、分子の間に働く引力には起源を異にする様々な種類があるが、このうち双極子-双極子相互作用に由来するものをあわせて( ② )という。上式の場合、引力のポテンシャルエネルギーは距離の( ③ )乗に比例することになる。荷電を帯びた化学種の場合にはさらにイオン-イオン相互作用が加わり、これは距離の( ④ )乗に比例するクーロン力に基づくから、そのポテンシャルエネルギーは距離の( ⑤ )乗に比例する。以上の相互作用のうち最も遠くまで到達するものは( ⑥ )である。また、上式によると、距離が非常に小さい領域における斥力のポテンシャルエネルギーは距離の( ⑦ )乗に比例することになる。
【問題6】
古典的に双極子-双極子相互作用を求めてみよう。簡単のため、一次元で考える。点A (x = 0)と点B (x = R)に電気量-eの点電荷、点C (x = x₁)と点D (x = R + x₂)に電気量+eの点電荷があるとする。クーロンの法則を用いてこの系のポテンシャルエネルギーを表せ。ただし、R >> x₁, x₂とし、必要に応じて近似式1/(1 + x) ≒ 1 – x + x²を用いよ。クーロンの法則の比例定数は1とし、電荷はすべて固定して考えてよい。
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