第11章【酸化・還元と電気化学】
●酸化と還元は反応に与る化学種のあいだで電子の増減を伴う化学反応の総称で、電気化学と密接な関連があります。化学では便宜上、酸化数を定義して電子の授受を化学量論的に記述します。なぜ酸化数を用いるとうまくいくのか最初のうちは戸惑うものですが、酸化数の割り振りはある原子種の電子数を数えることと同じことですので、正しく電子が数えられれば結果として化学反応式が矛盾なく導かれるのです。
●電池と電気分解はお互いに逆の過程として理解できます。金属の腐食や生体の呼吸といった現象も酸化過程と言えますので、酸化・還元は自然界における基本的な化学反応の型として捉えることができ、有機化学や分析化学との関連も重要です。
●近年、エネルギー分野では二次電池への期待が高く、新しいタイプの電池が入試でも頻出しています。起電力の大きさはイオン化傾向と関連付けて理解するのが基本ですが、各種の電池にはそれぞれの特徴があり、有名な半反応式は覚えておく必要があります。
それでは問題です。
【問題1】
次の問に答えよ。
①過酸化水素の酸素の酸化数を-1と定めるのが合理的である理由を述べよ。
⓶エタノール、アセトアルデヒド、酢酸において、メチル基でない側の炭素の酸化数を求めよ。
③クロム酸イオンと二クロム酸イオンのあいだの平衡について説明せよ。
④二酸化硫黄の酸化・還元反応について例示せよ。
⑤リチウムイオン電池の原理を説明せよ。
【問題2】
海域や湖沼の水質をあらわす指標のひとつとしてCOD(Chemical Oxygen Demand)がある。これは試料1 Lに含まれる有機物を酸化するのに必要な酸素のミリグラム数であり, 酸化還元滴定で求めることができる。
ある湖沼から採取した試料V mLを硫酸酸性とし, C₁ mol/L過マンガン酸カリウム水溶液M mLを加え, C₂ mol/Lシュウ酸水溶液で逆滴定したところA mLを要した。ブランク試験(空試験)として, 蒸留水を同様に処理したのち逆滴定するとB mLを要した。次の問いに答えよ。
(a) 硫酸のかわりに塩酸を用いることはできるか否か理由を付して述べよ。
(b) CODはつぎの式で表されることを示せ。
COD = C₂ × (B–A) × 16 × 1000 /V (mg/L)
(c) V = 20.00 mL, M = 10.00 mL, C₁ mol/L= 0.0020 mol/L, C₂ mol/L= 0.0050 mol/L, A = 8.00 mL, B = 10.00 mLのとき, この河川水のCODを求めよ。
【問題3】
ある銅(II)イオン水溶液5.00 mLを酢酸酸性とし, 0.500 mol/Lのヨウ化カリウム水溶液を過剰に加えると, ヨウ化銅(I)の沈殿とヨウ素が生成した。でんぷんを指示薬とし, 生成したヨウ素を0.100 mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定したところ, 7.50 mLを要した。銅(II)イオン水溶液の濃度を求めよ。なお, 酢酸はpH調整剤である。
【問題4】
マグネタイト(磁鉄鉱)は四酸化三鉄Fe₃O₄を主成分とする無機化合物であるが、その組成は必ずしも簡単な整数比では表されず、実験条件によって変化する。下記の問に答えよ。原子量についてはO = 16, S = 32, Fe = 56としてよい。
硫酸鉄(II)七水和物27.8 gを1 Lの純水に溶かし, 水酸化ナトリウムで弱塩基性とした。ガラス管から空気を吹き込みながら80℃で30分間加熱すると磁石に感応する固体粉末を得たので,これをろ過して乾燥した。乾燥させた試料のうち0.250 gを強酸性下で溶解し, 0.010 mol/Lの過マンガン酸カリウム水溶液で滴定したところ、20.00 mLを要した。このとき、マグネタイトの結晶中におけるFe²⁺とFe³⁺の数の比を求めよ。
【問題5】
銅板をニッケルでめっきするため、陽極をニッケル板、陰極を銅板として塩化ニッケルの水溶液を鉛蓄電池で電気分解した。水素発生抑制剤としてホウ酸を添加し、電流80.0 mAで1500分通電すると、面積100 cm²の銅板表面(裏面は考えなくてよい)にニッケルが一様にめっきされた。
(a) 析出したニッケルの質量とめっきの厚みを求めよ。ニッケルの原子量は 59としてよく、ニッケルの比重は8.9である。
(b) 鉛蓄電池中の水ははじめ100 gであり、硫酸の濃度は2.00 mol/kgであった。通電後の硫酸の濃度を求めよ。
(c) 実際のめっきでは水素発生抑制剤を入れないとめっき浴から水素が発生して効率が落ちるのが普通である。析出したニッケルの質量が理論上の90%であるとき、標準状態で発生する水素の体積を求めよ。
【問題6】
ダニエル電池は亜鉛と銅を電極とする古典的な一次電池である。次の問に答えよ。
(a) 正極側、負極側の電解液を具体的に示せ。また、塩橋の役割について述べよ。
(b) ダニエル電池の正極側の電解液の濃度を上げると起電力はどのように変化するか。
(c) ダニエル電池の負極側の電解液の濃度を上げると起電力はどのように変化するか。
(d) 次の熱力学的データを用いてダニエル電池の起電力を求めよ。
単位はすべてkJ/molである。
(e) 水素を鉱酸中に浸した白金電極に吹き込んだ構造の電極を標準水素電極という。亜鉛と標準水素電極を電極として起電力を測定すると0.76 Vであった。銅と標準水素電極を電極とすると起電力は何Vとなるか。ただし、亜鉛、銅側の電解液はダニエル電池の場合と同じとし、必要に応じて前問の結果を参照せよ。
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