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第6章【溶液の性質】

●溶液の性質として最も重要な項目は、不揮発性物質の希薄溶液が示す束一的性質といわれる現象で、凝固点降下、沸点上昇、浸透圧が代表的です。蒸気圧降下もこれに含める場合がありますが、これは沸点上昇と同じ機構で起こります。束一的性質は同温同圧では物質量のみに依存し、物質の種類には依らないので、これらはすべて熱力学から一般的に導出できます。高校化学の範囲では法則そのものを経験側として理解しておけば十分でしょう。
●入試ではかなり凝った設定が見られ、面倒な計算問題も出題されますが、基本的な原理は変わらないので、見かけの煩雑さよりむしろ、問題の本質を見抜くことが大切です。
●最近の傾向として、溶媒の拡散、逆浸透、医薬の話題などが応用としてしばしば出題されています。扱う問題によって適切な単位が異なるのがこの分野の特徴で、単位の換算にも十分習熟しておきたいところです。また、ヘンリーの法則は束一的性質ではなく、揮発性物質の溶解度の問題であることに留意しましょう。近年は圧力の単位としてPaが多用されるようになりましたが、現在でもatm単位や圧力の液面高さ換算(水柱や水銀柱)はよく理解しておく必要があります。

それでは問題です。


【問題1】

次の問に答えよ。
①濃度未知の食塩水溶液の凝固点降下を測定すると2.00 ℃であった。この食塩水の重量%濃度を求めよ。水のモル凝固点降下は1.86 ℃kg/molとし、原子量はNa = 23, Cl = 35.5とせよ。
⓶ある炭酸飲料の開封前のボトルの重さがw₁ g, 開封後十分時間が経過したのちの重さがw₂ g, 飲料の体積がv mLであった。開封前の炭酸ガスの圧力を求めよ。炭酸ガスに関するヘンリーの法則の定数は0.03 (mol/L)atm⁻¹であり、常圧での残留炭酸ガスは無視してよい。
③一定量の溶媒に溶解する気体の体積はその気体の圧力に依存しないことを示せ。
④不揮発性物質の希薄溶液における蒸気圧降下と沸点上昇の関係を述べよ。⑤生理食塩水(0.90 重量% NaCl aq., 比重1.005)の37℃における浸透圧を求めよ。

【問題2】

(a) ある容器に水が張ってあり、容器中に揮発性の気体を封入して密閉した。このとき、空間部分の体積をV₁、水の体積をV₂、気体の圧力をP、温度をTとし、気体の溶解度はヘンリーの法則に従うものとする。温度をT’に変えたとき、平衡時に気体が示す圧力P’はいくらか。また、このときに溶解している気体の物質量ははじめの何倍になるか。ただし、水の蒸気圧は相対的に無視してよく、気体定数をR、ヘンリーの法則の定数を温度T, T’でそれぞれK, K’とせよ。

(b) 硫酸銅(II)の溶解度は水100 gに対し、60℃で40.0 g, 10℃で17.0 gである。硫酸銅(II)の飽和溶液100 gを60℃から10℃に冷却するとき、析出する硫酸銅(II)五水和物の質量を求めよ。原子量はCu = 64, S = 32, O = 16, H =1とせよ。

【問題3】

不揮発性物質の希薄溶液を冷却し、時間tとともに温度Tを記録すると、一般的には下記のような図が得られる。次の問に答えよ。

(a) 溶液が最初に凝固する温度である凝固点Tfは図に示したような外挿によって求めるのが一般的である。なぜこれで良いのか説明せよ。

(b) 十分に長い時間が経つと系の温度はどうなるか、理由を付して説明せよ。

【問題4】

(a) 小さい容器に濃度c mol/Lの不揮発性物質Aの溶液が体積v Lだけ入っており、大きな容器に濃度C mol/Lで同じ物質の溶液が体積V Lだけ入っている。それぞれの容器には蓋をせず、容器二つを密閉したデシケーター中におく。十分長い時間が経過すると、各々の容器中の溶液の濃度はいくらになるか。ただし、C > cとする。

(b) 前問において、はじめに小さい容器の溶液の中にさらに別の不揮発性物質Bを添加して溶解させた。それぞれの容器には蓋をせず、容器二つを密閉したデシケーター中において十分長い時間が経過したとき、物質Bが再結晶されるために最小限必要なモル数nを求めよ。ただし、物質Bの溶解度はs mol/Lで物質Aの量によらず一定とし、溶質の体積は無視するものとする。

【問題5】

(a) U字管を半透膜で二つの空間に隔離し、一方に不揮発性の溶質をある溶媒に溶かした希薄溶液、もう一方に溶媒だけを等しい体積で注入すると、十分時間が経過したのちに溶液側の液面高さがhだけ溶媒側より高くなった。溶液にかかる浸透圧を求める式を誘導せよ。ただし、溶液の密度をρ、重力加速度をgとする。

(b) オリゴ糖0.10 gを1 Lの水(25℃)に溶かして半透膜付きのU字管で浸透圧を測ると液面差が5.4 cmであった。このオリゴ糖の平均重合度を求めよ。オリゴ糖はグルコースの縮合体とみなしてよく、溶液の比重は1.0としてよい。

(c) 組成式がn個のイオンから成る塩がある。この塩を濃度cで水に溶解すると電離度がαであった。この水溶液のファントホッフ係数を求めよ。なお、ファントホッフ係数とは実際の浸透圧を、電離を考えない場合の浸透圧で割った比のことである。

【問題6】

(a) 逆浸透は不揮発性物質の溶液にその浸透圧以上の圧力をかけて純溶媒を抽出する技術で、海水の脱塩に用いられる。25℃の海水を0.70 mol/LのNaCl水溶液とみなすと、逆浸透に要する最低限の圧力はいくらか。

(b) 半透膜で一端をふさいだ長い管を海水に沈めるとき、純水が浸透しはじめる水深はいくらか。ただし、常温(25℃)で海水の組成は前問と同じものとし、比重は1としてよい。

解答・解説は有料にて公開しております。

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