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第12章【無機化学】

●高校化学における無機化学はおおむね周期表における族ごとの各論になっており、ある程度は系統的に理解することができますが、個別に覚えなければならない事項も多く、一度は教科書を精読することをお勧めします。
●無機反応には工業的に重要なものがあり、ソルベー法やハーバー・ボッシュ法、硫酸・硝酸の製法、製鉄などは基幹産業として不可欠な技術です。最近ではケイ酸塩工業、半導体や合金の知識も問われるようになっており、エネルギーや環境の観点から化学工業を考える機会も多くなっています。
●無機定性分析は昔から重要なテーマで、きわめて教育的です。現在でも未知試料の分析は化学実験の華であり、多くの学生を引き付ける魅力があります。あまりマイナーな反応を覚える必要はありませんが、沈殿の性状や溶液の色は基本的な物性であり、化学専攻でなくとも理科系ならば一度は通る学習過程です。最近はカラー写真付きの非常に優れた図録が出版されており、化学反応の理解にぜひ活用をお勧めします。

それでは問題です。

【問題1】

次の問に答えよ。

①水素化マグネシウムにおける水素の酸化数はいくつか。

②アルカリ金属のイオン化傾向の序列が原子番号の大小関係と一致しないのはなぜか。

③リン酸の製法について述べよ。

④次の合金またはめっき製品の成分と特徴を簡単に説明せよ。

黄銅 青銅 白銅 ステンレス ニクロム はんだ ジュラルミン ブリキ トタン

⑤アルミニウムが濃硝酸と反応しない理由を説明せよ。

【問題2】

ソルベー法(アンモニアソーダ法)は炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの製法として知られている。次の実験結果に関連して下記の問いに答えよ。

塩化ナトリウム23.4 gを100.0 gの水に溶かし、28重量%のアンモニア水30.0 gを混合したのち、炭酸ガスを毎分500 mL吹き込んで2時間反応させると18.48 gの炭酸水素ナトリウム粗結晶が得られた。これを350℃で15分加熱すると炭酸ナトリウムの粗結晶が10.98 g得られた。上記の熱分解で得られた試料0.106 gを適量の水に溶かし、0.100 mol/Lの塩酸で滴定したところ、第一当量点までに要した塩酸の体積が9.85 mLであった。

(a) 炭酸ナトリウム粗結晶の不純物が炭酸水素ナトリウムだけであると仮定して、その質量パーセントを求めよ。

(b) 滴定において、第二当量点までに要する塩酸の体積の総量を求めよ。

(c) 炭酸水素ナトリウム粗結晶の不純物が水だけであると仮定して、その含水率を質量パーセントで求めよ。

原子量についてはNa = 23, Cl = 35.5としてよい。

【問題3】

(a) オストワルト法は硝酸の有力な製造法で、次のステップから成る。

・アンモニアの空気酸化による一酸化窒素の合成
・一酸化窒素の空気酸化による二酸化窒素の合成
・二酸化窒素と水の反応による硝酸の合成

各段階の化学反応式を示せ。また、最初の反応で用いられる触媒の化学式を明示せよ。

(b) 接触法は硫酸の有力な製造法で、次のステップからなる。

・二酸化硫黄を酸化して三酸化硫黄とする。
・三酸化硫黄を濃硫酸中の水と反応させて硫酸を合成する。

各段階の化学反応式を示せ。また、最初の反応で用いられる触媒の化学式を明示せよ。

【問題4】

下記の文章を読んで設問に答えよ。

けい砂(二酸化ケイ素:SiO₂)に塩基を反応させるとケイ酸ナトリウムが得られ、その水溶液を加熱すると水ガラスが得られる。水ガラスを塩酸処理して加熱乾燥させるとシリカゲルが得られる。けい砂はガラスの主成分であるが、炭酸ナトリウムや石灰石を添加したソーダ石灰ガラス、二酸化ケイ素をそのまま加熱・急冷した石英ガラスなど、いろいろな種類のものがある。ガラスはおおむね安定であるが、フッ化水素酸はガラスを溶かすのでガラスの加工に用いられる。けい砂をコークスで還元するとシリコンの単体が得られる。とりわけ、高純度シリコンは太陽電池や半導体に必須の基幹原料である。

(a) けい砂と水酸化ナトリウムとの反応を化学反応式で示せ。

(b)けい砂と炭酸ナトリウムとの反応を化学反応式で示せ。

(c)二酸化ケイ素がフッ化水素酸に溶けてヘキサフルオロケイ酸が生成する反応を化学反応式で示せ。

(d) 四フッ化ケイ素とヘキサフルオロケイ酸の平衡を化学反応式で示せ。

(e) シリコンを用いたn型半導体とp型半導体の違いを説明せよ。

【問題5】

下記の文章を読んで設問に答えよ。

ミョウバン(AlK(SO₄)₂・12H₂O)の結晶0.500 gを100 mLの水に溶かし、塩化アンモニウム5 gを添加後、濃アンモニア水溶液を滴下して溶液のpHを7.0にすると白色沈殿Aが得られた。これをろ過してろ液を保存し、ろ液に0.50 mol/L 塩化バリウム水溶液を徐々に加えていくと白色沈殿Bが生じた。

(a) 沈殿Aが生じたとき、溶液中に存在するアルミニウムイオンの濃度を求めよ。

(b) 沈殿Aの質量を求めよ。

(c) 沈殿Bの理論収量を求めよ。

(d) 沈殿Bの生成反応が当量点に達したとき、溶液中の硫酸イオンの濃度を求めよ。

(e) 沈殿Bの生成反応において塩化バリウム水溶液を大量に加えていくと、溶媒が大過剰となって沈殿が再溶解するであろう。再溶解が起こるのは系の体積が理論上もとの何倍になるときか考察せよ。

ただし、沈殿Aと沈殿Bの溶解度積はそれぞれ1.0×10⁻³² (mol/L)⁴、1.3×10⁻¹⁰ (mol/L)²である。濃アンモニア水の体積は無視してよい。原子量についてはH = 1.0, Al = 27, K = 39, O = 16, S = 32, Ba = 137, Cl = 35.5とせよ。

【問題6】

いくつかの未知の金属イオンを含む水溶液がある。この試料を下記の手順で分析した。

①試料に濃塩酸を加え、沈殿Aとろ液Bに分離した。

⓶沈殿Aを熱湯で処理してろ過し、白色沈殿Cとろ液Dに分離した。

③沈殿Cは過剰のアンモニア水に溶解し、硝酸酸性にすると白濁した。

③ろ液Dにクロム酸カリウム水溶液を加えると黄色沈殿Eを生じた。

④ろ液Bに硫化水素を吹き込み、黒色沈殿Fとろ液Gに分離した。

⑤沈殿Fを硝酸と硫酸で処理し、これに過剰のアンモニア水を加えると濃青色を示した。これを酢酸酸性とし、フェロシアン化カリウム水溶液を加えると赤褐色沈殿Hを生じた。

⑥ろ液Gを加熱後、塩化アンモニウム水溶液とアンモニア水を加え、沈殿Iとろ液Jに分離した。

⑦沈殿Iを塩酸で溶解後、過剰の水酸化ナトリウム水溶液を加え、沈殿Kとろ液Lに分離した。

⑧沈殿Kを水洗し、水酸化ナトリウム水溶液と過酸化水素を加えて加熱後、赤褐色沈殿Mとろ液Nに分離した。

⑧沈殿Mを濃塩酸に溶解し、チオシアン酸カリウム水溶液を加えると血赤色の溶液Oが得られた。

⑨ろ液Nを酢酸酸性とし、酢酸鉛水溶液を加えると黄色沈殿Pを生じた。

⑩ろ液Lを塩酸酸性として再びアンモニア水を加えるとゲル状白色沈殿Qを生じた。これに酢酸アンモニウム溶液とアルミノン試薬を加えると赤色のゲルが生じた。

⑪ろ液Jに硫化水素を吹き込み、白色沈殿Rとろ液Sに分離した。

⑫沈殿Rは塩酸で溶解した。加熱後、過剰の水酸化ナトリウムで処理して酢酸酸性で硫化水素を吹き込むと白濁した。

⑬ろ液Sを加熱後、アンモニア水で塩基性とし、炭酸アンモニウム水溶液を加えると白色沈殿Tを生じたので、ろ過してろ液Uと分離した。

⑭沈殿Tは酢酸水溶液に溶解し、その炎色反応は橙色であった。

⑮ろ液Uからは水酸化物の沈殿もリン酸アンモニウム塩の沈殿も生じなかったが、炎色反応は赤紫色を示した。

はじめの未知試料中に存在している金属イオンをすべて示せ。


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