見出し画像

第13章【有機化学】

●高等学校で習う有機化学は内容量も覚えるべき事柄も多いように感じられる一方で、低分子に限って言えば出題のパターンはほぼ決まっており、あまり有名でない化合物をことさらに記憶する必要は全くありません。むしろ、最近では高分子化学や生化学の比重が大きくなりつつあり、有機化学の知識を関連分野へ適切に応用できることが大切です。

●有機化学では異性体の問題が必ずと言ってよいほど問われるので、構造異性体や立体異性体の基礎はしっかりと理解しておく必要があります。入試では化学というよりもパズルのような趣の問題が散見されますが、そのような奇問はあまり気にする必要はなく、むしろ官能基の性質や反応性の理解に重点を置いて、有機反応における基本的な型が見えてくるようにしましょう。

●有機工業化学の分野では覚えにくい反応や触媒が沢山あります。これらも細かいことを気にすると際限がありませんので、歴史的に重要なものに限って学習されることをお勧めします。

それでは問題です。


【問題1】

次の問に答えよ。

①アルカンの製法について述べよ。

⓶ 2-メチル-2-ブテンと塩化水素との反応における生成物の選択性について述べよ。

③けん化価が219である油脂の分子量はいくつか。また、この油脂のヨウ素価が99.3であるとき、この油脂1分子中に含まれる二重結合の数を求めよ。ただし、KOH = 56, I = 128である。

④分子式がC₅H₁₀である炭化水素の異性体は鏡像異性体も含めていくつあるか。

⑤ベンゼンからフェノールを製造する方法について述べよ。

【問題2】

分子内で水素が移動して異性体を生じる現象を(プロトン性)互変異性という。たとえば、ビニルアルコールは不安定で、つぎのように互変異性体のアセトアルデヒドに変化する。

つぎの化合物について、可能な互変異性体の構造式を一つ記せ。なるべく安定で有機化学的に見て妥当な構造式を記し、イオンやラジカル構造を含むものは含めないこと。

(a) アセトン  (b) 2-ピリドン (c) 2-アミノピリジン (d) ビグアニド (e) イソシアン酸

【問題3】

下記の文章を読んで、設問に答えよ。
カルボニル基は分極しており、電気陰性度の違いから、部分的に炭素が正、酸素が負に帯電していると考えられる。カルボニル基には二重結合があるので付加反応を起こし、これを利用すると炭素と炭素または炭素と窒素を結合する反応を構築できる。

(a) グリニャール試薬R-MgX(Rは置換基, Xはハロゲン)はMgが正、R末端の炭素が負に帯電しているため、カルボニル基へ容易に付加反応し、加水分解するとMgXの部分が水素に置き換わるので、炭素-炭素結合生成反応として多用されている。アセトンにグリニャール試薬CH₃CH₂MgBrを作用させて加水分解すると何が得られるか構造式で示せ。また、二酸化炭素にCH₃CH₂MgBrを作用させて加水分解すると何が得られるか構造式で示せ。

(b) ポリフェノールはしばしば互変異性でケト型に変化する。これを踏まえて下記の反応の機構について考察せよ。

【問題4】

次の文章を読んで問に答えよ。
化合物Aは炭素、水素、酸素から成る無色透明の液体である。その25.0 mg を燃焼させたところ、二酸化炭素が64.7 mg, 水が30.9 mg 生じた。1.0 gの化合物Aを50 gの水に溶かし、ベックマン温度計で沸点を測定すると100.10 ℃であった。化合物Aを濃硫酸存在下160℃で加熱すると化合物B、化合物C、化合物Dが生成した。化合物B, C, Dはともにクロロホルム溶液が臭素水と反応して臭素水が脱色した。化合物Bには鏡像異性体が存在する。化合物CとDはシス-トランス異性体の関係にある。化合物CまたはDをオゾンと反応させると化合物Eと化合物Fが生成した。このうち化合物Eはフェーリング反応陽性であった。なお、水のモル沸点上昇は0.515 K・kg/molとし、化合物Cと化合物Dは順不同でよい。

(a) 化合物A, B, C, D, E, Fの構造式を記せ。不斉炭素がある場合は星印で示せ。

(b) 化合物Aの立体異性体は最大でいくつあるか。

(c) 化合物B, C, Dの収率について考察せよ。

【問題5】

次の文章を読んで問に答えよ。
芳香族化合物Aは炭素、水素、酸素から成り、元素分析値は質量百分率で炭素76.36%、水素9.09 %であった。0.50 gの化合物Aを50 gのベンゼンに溶かして凝固点を測定すると5.30℃であった。化合物Aを水酸化ナトリウム存在下で加水分解し、ジエチルエーテルで抽出すると、エーテル層から化合物Bが得られ、水層を塩酸酸性にすると光学活性の化合物Cが得られた。化合物Bはヨードホルム反応を示し、混酸下でニトロ化するとモノニトロ置換体が最大で二種得られた。化合物Bは硫酸酸性下で二クロム酸カリウムと反応させると化合物Dが得られ、ヨードホルム反応を示した。なお、ベンゼンの凝固点は5.533℃、モル凝固点降下は5.12 K・kg/molである。

(a) 化合物Aの組成式と分子式を求めよ。

(b) 化合物A, B, C, Dの構造式を記せ。不斉炭素がある場合は星印で示せ。

(c) 化合物Aの立体異性体は最大でいくつあるか。

【問題6】

次の文章を読んで問に答えよ。
アニリンを発煙硫酸で処理すると主生成物として白色結晶の化合物Aが得られた。化合物Aを炭酸ナトリウム水溶液に溶かし、水冷しながら濃塩酸で処理した。さらに氷冷しながら亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下していくと、無色の結晶として化合物Bを生じた。また、ナフタレンを発煙硫酸で処理したのち、アルカリ溶融すると主生成物として化合物C、副生成物として化合物Dがそれぞれ白色結晶として得られた。化合物Dを水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとともに水に溶かし、冷却しながら化合物Bと反応させると、橙色の化合物Eが固体粉末として得られたのでこれをろ過して乾燥した。なお、ナフタレンにおける位置番号と上記の反応に関与するπ電子の密度は下記の通りである。

(a) 化合物A, B, C, D, Eの構造式を記せ。

(b) 化合物Aと亜硝酸ナトリウムとの反応においてなぜ冷却が必要であるのか説明せよ。

(c) 化合物Eを橙色の染料として用い、羊毛と木綿を染色した。より堅牢に染まるのはどちらか理由を付して述べよ。

解答・解説は有料にて公開しております。 

ここから先は

7,188字 / 22画像
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?