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第8章【平衡】

●平衡は化学の理論上最も重要な概念の一つで、熱化学や反応速度論とも密接に関係しています。平衡定数は素反応については反応速度のつりあいから導出できますが、もっと一般的には熱力学から導かれます。
●平衡定数は濃度や分圧など、異なる形式で表すことができます。このため、高校化学では平衡定数は無次元ではなく単位をもつ量として考えます。この際、固体や液体の濃度は一定と考えられるので平衡の式から除外します。
●平衡反応では反応熱の絶対値が小さいことが多く、正反応・逆反応の進行度が拮抗するため、反応物・生成物の量や割合を求めることが重要な課題となります。とくに水溶液中でのイオンの電離の問題は基本的で重要な意味をもっており、様々な分野に応用されます。平衡定数そのものの定義は難しくありませんが、具体的な数値計算は電卓やコンピュータを使わないと非常に面倒なので、入試では計算の負担が軽減されるように問題が工夫されています。本章では数値計算ソフトを使用しないと解けないものがありますので、工夫して解いてみて下さい。

それでは問題です。

【問題1】

次の問に答えよ。
①炭酸カルシウムを350℃で密閉した反応釜で熱分解すると平衡後に圧力が0.1 atmとなった。この温度における熱分解の濃度平衡定数を求めよ。
⓶常圧で水が沸騰する過程における濃度平衡定数を求めよ。
③素反応における平衡定数と反応速度定数との関係を述べよ。
④水のイオン積は温度を上げると増加・減少どちらに変化するか理由を付して述べよ。
⑤0.010 mol/Lの塩化アルミニウム溶液に水酸化ナトリウム溶液を滴下すると水酸化アルミニウムの沈殿が生じて上澄みのpH が 5.0となった。上澄みにおけるアルミニウムイオンの残存率は何%か。水酸化アルミニウムの溶解度積は1.0×10⁻³² (mol/L)⁴である。

【問題2】

四酸化二窒素の解離は次の反応式で表される。

(a) 上記の反応における圧平衡定数がK, 系の全圧がpであるとき、四酸化二窒素の解離度αを求める式を導出せよ。

(b) 平衡定数Kの温度依存性は反応速度定数の温度依存性によく似た指数関数の形式で表され、反応熱をQ、Aを定数として

と表される。ただし、温度Tは絶対温度目盛りで測り、Rは気体定数である。上記反応の圧平衡定数は298 Kで8.3 atm, 318 Kで2.0 atmであった。反応熱Qを求めよ。

【問題3】

窒素と水素を化学量論比で反応させてアンモニアを合成する反応を考える。
(a) この反応の圧平衡定数を系の全圧とアンモニアの分圧で表す式を求めよ

(b) 反応初期において、アンモニアの分圧は近似的に全圧の2乗に比例することを示せ。

【問題4】

銅イオン(II)と亜鉛イオンを含む強酸性の水溶液があり、それぞれのイオンの濃度はともに0.010 mol/Lである。この溶液に硫化水素を吹き込んで飽和させながら水酸化ナトリウム水溶液を滴下していくとき、硫化銅(II)のみが沈殿するpHの範囲を求めよ。ただし、硫化水素の飽和水溶液の濃度は0.10 mol/L、硫化水素の第1および第2解離定数はそれぞれ1.0×10⁻⁷ mol/L, 1.0×10⁻¹⁹ mol/L, 硫化銅(II)と硫化亜鉛の溶解度積はそれぞれ6.0×10⁻³⁰ (mol/L)², 2.0×10⁻¹⁸ (mol/L)²とし、log₁₀ 2 = 0.30, log₁₀ 3 = 0.48とせよ。

【問題5】

水性ガス(合成ガス)は水素と一酸化炭素の混合ガスで、低分子有機化学工業においてきわめて重要な基幹原料である。代表的な製法として下記の水蒸気改質が知られている。

これは加圧・触媒下、メタンを水蒸気で一酸化炭素と水素に改質するプロセスであり、800℃におけるこの反応の圧平衡定数は150 atm²である。

(a) 最初にメタンと水の分圧がともに15.0 atmであった場合、800℃における平衡状態での各成分の分圧を求めよ。

(b) 実際のプラントでは下記の反応が同時に進行する。これを水性ガスシフト反応という。

この反応の800℃における圧平衡定数は2.00である。水蒸気改質において最初にメタンと水の分圧がともに15.0 atmであって、さらに水性ガスシフトも起こる場合、800℃における平衡状態で各成分の分圧を求めよ。

※この問題では高次方程式が現れるので、表計算ソフトなどを使用して数値計算せよ。

【問題6】

(a) 酢酸の電離定数をK mol/Lとする。濃度c mol/Lの酢酸水溶液の電離度αを求めよ。また、αが1に比べて十分小さいとき、その近似式を求めよ。

(b) 水銀イオン(II)と水酸化物イオンとの錯形成は

と表され、この反応の平衡定数(安定度積)をβとするとlog₁₀ β = 10.3である。水銀イオン(II)の99.9%以上がアコイオン(水分子だけを配位子とするイオン)で存在するpHの範囲を求めよ。

解答・解説は有料にて公開しております。

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