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第15章【生化学】

●従来から、高校化学の最終章では生化学に関する分野が集約されてきました。これらの分野は糖類をはじめとする天然物、アミノ酸やタンパク質、核酸など多岐にわたり、生命科学の発展と相まって化学の領域でも必須の知識となりつつあります。大学のカリキュラムでも化学と生物学の一部が同時に教授されるケースが増えており、化学という学問の枠組みが大きく変わりつつあるのも時代の流れと言えるでしょう。
●糖類の化学では年々かなり複雑な分子が扱われるようになり、立体化学や還元性の議論では構造を知らないと解けない問題も増えています。なかなか傾向がつかみにくい分野ではありますが、最近の教科書に記載されている分子については構造を把握しておく必要があるでしょう。
●タンパク質はアミノ酸の重合物であり、生体内では核酸の遺伝情報によって合成されます。アミノ酸は両性なので酸・塩基としての性質はなかなか複雑です。入試には頻出のテーマですので、理論的な側面をよく学習して下さい。高校化学ではタンパク質、酵素、核酸の性質についてはおおざっぱな議論しかなされないため、細かいことを気にする必要は全くありません。

それでは問題です。


【問題1】

①次の糖類のうち、還元性がないものはどれか。
   グルコース フルクトース ガラクトース マルトース
   スクロース セロビオース ラクトース トレハロース
⓶ピウレット反応で検出できないものは次のうちどれか。
   Gly  Gly-Gly  Gly-Gly-Gly  Ala-Gly-Ala  Gly-Ala-Ala-Gly
③グリシン1分子、アラニン1分子、セリン1分子から成るトリペプチドの立体異性体はいくつあるか。なお、ペプチド結合はトランス型とし、セリンの構造式はHO-CH₂-CH(NH₂)-COOHである。
④アミロース、アミロペクチン、デキストリン、グリコーゲンの違いを述べよ。
⑤レーヨンの製法について知るところを述べよ。

【問題2】

D-グルコース10.0 gを酵母の存在下で発酵させて、発生した気体をガスビュレットで捕集した。反応終了後、遠心分離した上澄みを水酸化カリウム水溶液で塩析すると1.2 mLのエタノールが得られた。
(a) 発生した気体の体積は常温でどれだけか。
(b) エタノールの収率はいくらか。ただし、エタノールの比重は0.789である。
(c) グルコースをフルクトースに変えてもほぼ同様の結果が得られたが、ガラクトースでは全く反応しなかった。この理由を分子構造の観点から説明せよ。

【問題3】

光学活性物質の中を通過する偏光の振動面が回転する現象を旋光性といい、旋光度計で回転角(旋光度)を実測することで測定できる。ショ糖(スクロース)4.0 gを0.5 mol/Lの塩酸50.0 mLに溶解し、その旋光度を時間に対してプロットすると下記の図が得られた。次の問いに答えよ。

(a) なぜ旋光度の大きさが時間とともに減少するのか理由を付して述べよ。また、反応時間があまり長くなければ反応速度が一次の速度式に従うことを示せ。
(b) ショ糖の加水分解反応の反応速度定数を求めよ。
(c) 旋光度を光学活性物質の濃度とセルの長さで割ったものを比旋光度という。スクロース水溶液の比旋光度を求めよ。ただし、セルの長さは10 cmとし、濃度の単位はg/cc、角度の単位は度(degree)、比旋光度の単位はdegree・cc/(g・dm)とせよ。ccは1立方センチメートル、dmはデシメートルを表す。
(d) 比旋光度の測定は濃度が小さいほど不正確になることを示せ。

【問題4】

アミノ酸の水溶液において、その陽イオン、双性イオン、陰イオンの電荷の総和がゼロになるpHを等電点という。また、純粋な中性アミノ酸の水溶液のpHを等イオン点という。アラニン陽イオンの酸解離指数はpK₁ = 2.34, アラニンの酸解離指数はpK₂ = 9.87である。

(a) アラニン水溶液の等電点を求めよ。
(b) アラニン水溶液の等イオン点を求めよ。
(c) 0.0100 mol/Lのアラニン塩酸塩水溶液10.00 mLを0.0100 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定すると、下図の滴定曲線が得られた。点A (V = 0), B (V = 5.00 mL), C (V = 10.00 mL), D (V = 15.00 mL), E (V = 20.00 mL)におけるpHを求めよ。

【問題5】

α-ヘリックス構造はタンパク質の二次構造の一つであり、右巻きのらせん構造をとる。図のように、円柱にらせんを巻いたとして、らせんが一周したときの円柱の高さをらせんピッチといい、個々のアミノ酸の部分を残基という。下記の問いに答えよ。

(a) X線回折からα-ヘリックス構造のらせんピッチは5.4Åで、らせん一周あたりのアミノ酸残基は3.6個であることがわかった。繊維周期(ある残基かららせん軸方向に進んで再び同じ残基にはじめて出会うまでの円柱の高さ)を求めよ。
(b) α-ヘリックス構造における水素結合はどこに形成されるか説明せよ。
(c) グリシンは光学活性ではないが、ポリグリシンは光学活性を示すのはなぜか考察せよ。
(d) α-ヘリックス構造のタンパク質をらせん軸に沿って延伸するとβ-シート構造というひだ状の二次構造になる。ひだの最短周期として最も近い値は下記のどれか。
       ①4Å  ⓶7Å  ③10Å  ④13Å  ⑤16Å

【問題6】

DNAは核酸の一つで、五炭糖、塩基、リン酸の三要素が結合したヌクレオチド構造から成る。ブロッコリー3 gを食塩水20 mLとともに乳鉢ですりつぶし、界面活性剤5 mLを添加したのち上澄みを分離してエタノールを徐々に加えると白濁としてDNAが得られた。これを乾燥させて寒天のゲル中で電気泳動させるとDNAのスポットが一方の電極側へ移動するのが観察された。

(a) この実験における界面活性剤とエタノールの役割を述べよ。
(b) 電気泳動のスポットはプラス極、マイナス極のどちらに向かうか理由を付して述べよ。
(c) 電気泳動の移動距離はどのような因子で決まるか説明せよ。
(d) ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)はDNAの一部を複製・増幅する技術である。このとき電気泳動のスポットの様子はどのように変わるか定性的に説明せよ。

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