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第7章【熱化学】

●熱化学方程式は各化学式をその物質1モルがもつエネルギー含量とみなして代数的に扱えば原理的にはほとんどの問題が解けるようになっています。しかしながら、実際の問題ではエネルギーの収支を図式的に考える方が直感的にわかりやすく、計算も簡単になることが多いため、まずはエネルギーのダイアグラムを作ることを強く推奨します。
●熱化学では物質の状態を指定しないとそのエネルギー含量が定まらないので、生成熱や反応熱、燃焼熱などはどの状態について定義されているのかよく確認する必要があります。常温における純物質の状態は問題には明示されないこともあるので、有名な化合物についてはその状態(気体・液体・固体)も常識として知っておきたいところです。
●最近は熱については国際単位系のJを用いることが多いのですが、歴史的にはカロリー(cal)が普通に使われていた時代があり、今でも栄養学では常用されています。1 calは1gの水の温度を1℃上げるに要する熱量としてなじみ深い単位ですが、現在は熱の仕事当量は定義値として1 cal = 4.184 Jとされており、熱がエネルギーの一形態であることが強調された形になっています。また、細胞活動とエネルギーの関係や代謝に関する生化学の問題もときおり出題されていますので、総合的な観点が問われる分野と言えます。

それでは問題です。


【問題1】

次の問に答えよ。
①二酸化炭素の生成熱と解離エネルギー(分子を構成原子に分解するに要するエネルギー)はそれぞれ393 kJ/mol, 1605 kJ/molであり、酸素の解離エネルギーは504 kJ/molである。黒鉛の昇華熱を求めよ。

⓶メタンの燃焼熱は891 kJ/mol, 二酸化炭素(気)、水(気)、酸素(気)の解離エネルギーはそれぞれ1605 kJ/mol, 928 kJ/mol, 504 kJ/mol、水(液)の蒸発熱は44 kJ/molである。メタンにおけるC-H結合の結合エネルギーはいくらか。

③水への溶解熱が負である物質を例示せよ。

④30.0℃の水80.0 gと70.0℃の水20.0 gを混合すると温度は何℃となるか。

⑤マグネシウムの発火による火災を水で消火してはいけない理由を説明せよ。ただし、水の生成熱を286 kJ/mol, 水酸化マグネシウムの生成熱を925 kJ/molとする。

【問題2】

希薄水溶液中で水和したイオンの生成熱を求めたい。これは単体の水和反応からは求められず、25℃の希薄溶液中で水和した水素イオンの生成熱をゼロと定義して相対的に求める。下記のデータを参考に次の問に答えよ。

(a) なぜ水和イオンの生成熱は単体の水和反応から求められないのか説明せよ。
(b) 水中での塩化物イオンと水酸化物イオンの生成熱を求めよ。
(c) 水中での水素イオンと水酸化物イオンの反応による中和熱を求めよ。ただし、水の生成熱は286 kJ/molとする。

【問題3】

次のデータを用いて塩素原子の電子親和力を求めよ。

格子エネルギーとは、1モルのイオン結晶を構成原子の気体イオンに分解するに要するエネルギーのことである。

【問題4】

断熱ボンベ型熱量計は体積一定の容器中、酸素で加圧して物質を燃焼させ、反応熱による水温変化から物質の定容燃焼熱を計測する代表的な方法である。標準物質として安息香酸が用いられ、その定容燃焼熱は3227 kJ/molである。次の問に答えよ。

(a) 安息香酸1.88 gをこの熱量計で燃焼させると2.00 kgの水の温度が25.00℃から3.85℃上昇した。この熱量計の熱容量を求めよ。熱の仕事当量は1 cal = 4.184 Jである。
(b) この熱量計で砂糖(スクロース)2.52 gを燃焼すると水の温度が25.00℃から3.22℃上昇した。この砂糖の定容燃焼熱を求めよ。
(c) 定容燃焼熱と定圧燃焼熱のちがいを述べ、その差が安息香酸およびスクロースではほとんど無視できることを示せ。

【問題5】

次の問に答えよ。
(a) シクロヘキセンの水素化熱は120 kJ/mol, ベンゼンと水素からシクロヘキサンを生じる反応の反応熱は246 kJ/molである。ベンゼンにおける電子の共役による安定化エネルギー(共鳴エネルギー)を求めよ。
(b) シクロオクテンの水素化熱は97 kJ/mol, シクロオクタテトラエンと水素からシクロオクタンを生じる反応の反応熱は410 kJ/molである。シクロオクタテトラエンに芳香族性があると言えるか検討せよ。

【問題6】

細胞活動に要するエネルギー源について次の問に答えよ。
二酸化炭素、水、グルコースの生成熱はそれぞれ393 kJ/mol, 286 kJ/mol, 1274 kJ/molである。

(a) 好気性呼吸(完全空気酸化)におけるグルコースの燃焼熱を求めよ。
(b) 嫌気性の発酵(微生物による分解)では酵素によってグルコースは乳酸に分解される(解糖)。このときのエネルギー獲得効率は好気性呼吸の場合の何%か。ただし、乳酸の燃焼熱は1344 kJ/molである。

解答・解説は有料にて公開しております。

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