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【詩】友を思う

「姉の葬儀の準備をしているのに
姉さん、受付してくれる?
って言っているんです

振り返っては
姉さん、
これはどうするの?
姉さん、あれは?
姉さん、姉さん、
と聞いてしまうんです」
と語る
喪主の、あなたの弟

「しっかり者で
責任感の強い姉は
仕事に穴を開けてしまったことを
一番悔いているでしょう」

喪主の言葉に
後ろの席の
すすり泣く声が高まる

わたしたちも
式場でうろうろしながら

何してるの
こっちでしょ
と、振り返って
あきれたように笑い
杖をつき
先を歩く
あなたの姿を見ていた

あなたの茶色いその瞳は
いつも
いたずらっ子のように
きょろきょろと
よく動き

楽しいもの
美味しいもの
美しいもの
を見つけては
わたしたちに披露してくれた

わたしたちは
いつも
あなたの世界の扉が開くのを
わくわくと待ち

子どもがお話を聞きたがるように
あなたに甘えた

あなたは
誰にでもそうだったという

「姉は旅行に行っても
自分が楽しむだけでなく
一緒に行った人を楽しませることが
好きでした

今回の旅行も
長くは歩けなくなった母を
楽しませるために
クルーズ船での旅行を計画したのだと
思います」

そう、
あなたは
そういう人

周りが進学するなか
高校を卒業して
すぐに就職したあなた

勤め始めて
1年経ったころ
あなたの足は病に蝕まれた

仕事もこれから、
という矢先
長い闘病生活が始まる

歌が好きで
ミュージカルにもとりくんでいた
あなたの落胆は
どれほどだったか

あのときも
突然の連絡に
友人と駆け付け

迷路のような大学病院のなか
案内されたのは
倉庫のような一室

空きがないという理由で
雑多な器具が置かれた一画に
横たわったあなたは
不安そうに見守る家族に囲まれ
そして
凍りついたわたしたちを見て
笑顔を見せた

見舞いに行くと
あなたはそこで出会った
たくさんのこどもたちのことを
語ってくれた

どんなことをして遊んだか
どんなお話をしたか
どんな本を一緒に読んだか

そして
あまりにも突然に
亡くなってしまうことを

そのことが
あなたに
何をもたらしたのかは
わからない

今、思うと

ともにいる人と
楽しもうとする
あなたの生き方は

眼の前の
命の儚さを
知っていたからなのだろうか

だけど
わたしたちの誰よりも早く
あなたのお母様より早く
儚くなってしまうとは
あなたも思ってなかったに違いない

「すべての日程を終え
荷物もすべて詰めて
帰港する日の朝の
突然の死でした」

それは
あなたらしさを
守るための

何者かの
はからいだったのか

残されたお母様は
周りの手に助けられて
あなたとの思い出を抱いて
無事に帰ってきていますよ

朝、目覚めないあなたを
見つけたという
お母様

どうぞ
ご自身をそんなに
責めないでください

Kは
きっと
お母様との楽しかった時間を
そのまま包み込んで
眠っただけなのです

Kを
眠らせてしまった
何者かは

せめてもの償いなのか

眠ったあとも
大切で大好きなお母様と
ともにいるように
はからっただけなのです

「大病をしたことのある姉は
いつも、わたしに
健康には気を付けるようにと
言っていました。

そう言っていた姉が
突然死だったのですが

不調があったら
仕事を休んででも
病院に行ってください

どうぞ、健康には気を付けてください」

15年ほど前には
乳がんとも闘ったあなた

検査を受けてね
少しでもおかしいと思ったら
病院に行ってねと
よく言っていたあなた

あなたの言葉
あなたの生き方
弟さんは
しっかりと伝えましたよ

K、

わたしたちは
まだ
あなたの死を
受け止めきれてはいません

でも
あなたの語った言葉
あなたの姿は
わたしたちの中で
生きていて

それらは
増えることはあっても

けして
何者であっても
失わせることは
できないのです

あなたの
言葉と姿なら

あなたの茶色い瞳とともに

胸に抱き続けていたいのです

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