見出し画像

甘い毒とドラジェ 日記 2015 冬


某日

雨の音が激しい

「僕の美しい人だから」を観る
女性なら感情移入できるというが、全くできなかった
この映画をそのまま ハッピーエンドとして観れる人って
どんな人だろう?

確かに映画では 年上の女が17歳も年下の男性に
そんなことを言われたら さぞや嬉しいだろうという台詞で
ラストへ向かう

女「若くて可愛い新しい彼女を見つけて」
男「若くて可愛い女に興味はない  僕が欲しいのは君だけだ 愛してる」


彼女の働く店のテーブルでそのまま 彼女を押し倒しキスをする
周りの客が冷やかしながら祝福してエンドロール

なんだかしらけてしまった
純は卑屈なんだろうか

17歳も年下の男が さえないくすんだ年上の女に
そんな風に夢中になれるもの?
これは ある意味自分への嫌悪なのか

映画のような愛を否定している訳じゃない
女性のレヴューが 高評価なのもまあ理解できない訳じゃない

ただ なんか危機感の欠如のようなものを感じる

これが もしハッピーエンドでなく 若い彼が女を捨てたりしたら
それはそれで打ちのめされるのだろう

でも、やっぱり
この映画には感情移入できなかった
17歳も年下の男が そこまでその女を愛す 心のリアルな移ろいが
よく分からなかった

彼がもし これを読んだら意外に思うかも知れないけれど
純には もっと危機感がある
それは 彼に不安を感じているとか、愛が信じられないという事では無く
人生や自分 そのものへの危機感だ

どうしようもない自分を受け入れて 愛してくれている人に対して
ただ 甘んじていてはいけないと思う

誰かを思い、共に人生を歩む、というのは
簡単な事ではない

恋は理不尽なものだし、自分だってそれを受け入れるしかない時もある
それでも、自分自身は自分の想う人に対して誠実でありたい

今まで 共に暮らしてきた人がいて
彼と生きてる純が言うと、矛盾だと思われるだろうか

でも、自分の思う純粋さや誠実さは
他の人には理解できなくても、この自分自身のひとつひとつの細胞でしか
考えられないのだ

相手がどう感じ どう思っているかは
悲しくとも相手の境地だ

それでも、愛する事を諦めたりはしない

自分が愛することと、相手がそれをどう受けとめるかは
同じ融点のようなものでは同化などできないのだと思う

それが危機感であり、その危機感は善でも悪でもない
ただ、失ってはいけないものなんだ

悲観でも諦念でも無く
自分とは違う心というものを持つ人に対して真摯であること

そんな戒めを
自分のうちに持ち生きていきたい

それはいわば 短剣のようなものだ
だが、その刃は己にのみ 突き刺さるべきもの


誰かを愛するという事の尊さを
危機感を持って 人生をまっとうする

忘れてしまえば 自分の心に突き刺さる刃が
ある
純はその刃を消して捨てたりはしない



某日

愛 アムールを観る
カズオ イシグロは「人生は思ってるより短い」と説く
今の純には切実に分かるよ

映画の中で老夫婦がセピア色の食卓で食事をとるシーンが好きだ

彼と並んで食べるごはんがおいしい

パートナー つれ、恋人、夫婦
色んな言い方があるけれど
優しく肩を並べて食事をできる相手が人生では
大事な意味を占めるような気がする


この所、小説家をモチーフとした映画を幾つか観たのだけれど
作家は憧れの職業なんだろうか
特に外国では

文字を紡ぐ人には、独特の色気があるように思う
その色気とは 「知の発露」なのか

文章には その人が出る
それは化粧と違いごまかしがきかない
故に、かっこいい



某日

布団に潜りこんでいても 掌だけは きんきんと冷たい


映画を写真とするとアニスヴァルダは特別だ
今まで観てきた映像とは全く異なる
精神的なtrip感がハンパない

まるで甘い毒を孕んだドラジェのよう

生きてるうちにヴァルダを知れて良かった

こんな衝撃は初めてかも知れない
それぐらいの映像美
危うい、、、、

ソフィアローレンスのひまわりもだけど
ひまわりが明るさでなく 絶望のメタファーのように描かれる事がある


ふと、大阪の部屋を離れた日に
がらんと片づけた部屋に ひまわりだけを飾り、鍵をかけたあの日を
思い出した


あの北側のはめ殺し窓の結露のある部屋に
今は誰かが住んでいるのだろうか

窓から見える高層ビルのオフィスの人影をさえぎるように
新しいマンションが建築される看板が立ちはだかった時
自分の居場所もこれからの二人も断ち切られていく予感がしていた


たとえ一人ぽっちの部屋でも
窓の外に見える陸橋の上を無声映画のように流れていく電車を見つめる事は
必要不可欠だった

夜の藍闇を縁取るビーズを散りばめた絵画を見ることで
不確かな今を生きてる実感が得られた

そんな風に瞳に映る世界が変貌するだけで
失ってしまう氷片のような情熱もあることを知った

あの冷たいベッドの上で
ふたりが抱きあうことは無くなった


最初から自分は一人ぽっちだったとも思えるし
誰かの存在がなければ その場所に居るはずもなかったのも真実なのに
未だに、あの日々は自分の人生なのに他人事のようにも思えてしまう

暖房をかけた部屋では空気も弛緩していく

冷たい寒気のなか
息を弾ませながら 夜道を歩く、今の彼との時間を思う


吐きだす息の行方に
あたしの今が熱を帯びていくのを感じる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?