僕は馬刺しが食べられない。

僕は馬刺しが食べられない。
きっと美味しいのだろうし、好きなんだろうとも思う。しかし口に運ぶのはどうにも億劫になる。それはきっと私にとっての馬はこのような姿ではなく、広大な若竹色のターフを駆け抜ける秀麗な姿であるためだ。
私が競馬と出会ったのは十四の頃だったか。偶然つけたテレビで放送されていた競馬中継がきっかけだった。駿馬の迫力に心を奪われた。純粋に、そして強く、かっこいいなと思ったことを今でも鮮明に覚えている。
それからというもの、毎週日曜日の競馬中継を見ることが私の日課となり、私の生活を彩った。徐々にレース名を覚え、段々と馬に詳しくなった。今思えば、この頃が一番楽しく競馬と関わっていたのではないかと思う。その最中、私の興味の対象は騎手へも移っていった。駿馬に跨り、ゴール板までエスコートする彼らに尊敬の念を抱き、羨望の眼差しで見つめていた。
気づけば私も22になった。もう騎手にはなれない。高校に入学し、騎手になるには競馬学校に入らなければならなかったことを知った時は悲しかった。
もう叶うことのない夢。夢には賞味期限があることを知った。今私は別の夢を追っている。追えない夢を知ってから、夢を諦めることを忘れた。追えなくなるまでその夢と向き合おうと決めた。最後の直線、ゴール板まで懸命に追う騎手のように、私は今日も夢を追う。

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