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医科大学附属病院口腔外科

初診

歯科から帰ってきた院長は、とても悔しがっていた。院長という立場は、確かになかなか休みを取ることができない。病気がきとんと判明してからは、さすがに検査や治療で病院通いになったため、仕方なく、副院長とスタッフに動物病院を任せているが、院長でないと手に負えない外科系疾患や眼科疾患があり、また院長に見てもらいたいという飼い主さんの個人的要望も多い。やはり、院長がいないと動物病院の機能は半減するようだ。
それを分かっている院長は自分が気軽に休めないことは開業してから約30年ずっと感じていたことである。だから、動物病院を休まずに済む予約の取りやすい歯科医にかかっていたのだが、結局無駄に1ヶ月をすごしただけであり、大きく言えば命を削ったことになるのかもしれないという後悔があるようだ。
歯科医から紹介状を貰い、さっそく医科大学附属病院(通称医大)に予約を取るべく電話したが、ものすごく混んでいるようで1ヶ月先まで予約が埋まっているらしい。顎の腫れは1か月前より確実におおきくなっていたし、このままあと1ヶ月待つことは賢いこととは言えないと判断した院長はついに動物病院を休んで、朝一番で直接初診申し込みをすることにした。
朝一番に医大に行き初診受付をし、受診番号を貰い、歯科口腔外科の待合室に番号票を出して待つことになる。その日結局4時間半待つことになった。3時間くらいで若手歯科医の問診を受け、直ぐに診察かとおもったが、その後1時半ほど待ってやっと本診察となった。待合室のイスに座っていただけであるが、かなり疲れたようで、その日を境に院長は家でも仕事中でも腰痛を訴えるようになった。同じ姿勢で長時間座っていたことが腰に負担をかけただけと思っていたようだか、これが後に大変なことになるとは、この時点では院長は気がついていなかった。
市販の湿布薬や鎮痛剤で痛みを抑えて仕事していた。
話を口腔外科の診察にもどそう。担当はとても丁寧な喋り方をする優しそうな歯科医であった。紹介状の経過と腫れの初見で歯科医は直ぐに腫瘍の可能性を指摘した。今考えられるのは、「インプラント後骨髄炎」か「良性腫瘍」か「悪性腫瘍」の3つであると告げられた。それを見極めるために各種検査をしていきましょうとなり、まずは頭頸部のMRIを取り下顎の現状を見極めてから、腫れている部分の生検(病変の一部だけを採取して病理検査すること:バイオプシーとも言う)をして診断していくことになった。


MRI

初診から数日後、予約したMRI検査が実施され、また数日後歯科口腔外科の診察の日となった。その日も2時間くらい待つことになり、院長の腰の痛みがまた再燃してきたようだ。
MRIの結果は、院長をかなり動揺させるものであった。院長は医大にかかる前に高校の先輩である口腔外科医に今回の経緯と画像を送り相談していた。そこでは、おそらくインプラント後骨髄炎では無いだろうか、医大できちんと処置して貰えは治るよ、とアドバイスされていたのだ。しかし、示されたMRIの結果は悪性腫瘍の可能性と言うものであった。院長は大きくため息をつかざるを得ない落胆的な気分にさせられたのだ。これまで幾度となく飼い主さんには、悪性腫瘍の宣告はしてきたが、自分が言われる立場にはなったことがない。しかも、悪いことに、推察される腫瘍として、骨肉腫、下顎骨内癌など悪性度の高い腫瘍が羅列されていた。医学的知識のある院長は、これはただ事では無いことが身体の中で起こっているということをりかいした。同時に大きな不安と恐怖が襲ってきたのだ。死。今はガンでも治るがんは増えてきている。しかし、癌はやはり死に繋がるイメージがついてまわる病気である。この日を境に死というものが常に身近かに存在するのとして院長をくるしめていく。まだ、正確な診断がついたわけではないが、院長は感覚として死を意識しないといけない状態であることにかんずいていた。日々痛みが増していく腰痛も院長を不安にさせる要因になっていた。
口腔外科医はMRIの結果を見て、経験的には下顎骨内癌という珍しい口腔内腫瘍を疑っているようであった。一般的に癌という言葉は、体にできる悪性のものを指す言葉として使われているが、医学的に言えば、骨にできる悪性腫瘍は癌ではなく肉腫であり、白血病は血液の癌と言われるが癌ではない。分かりやすく癌という言葉を使うが、実はこの骨には癌ができないということは院長の癌と少しかかわってくるので説明しておいた。


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