【D-163】銭湯へ

毎日のようにお笑いライブの告知を見ている。行きたいライブを探すというよりはいくつかある中から選ぶことのほうが最近は多い。お笑いライブがありすぎるから。

ちなみに今は夏休みで、バイトしてない学生ぐらい暇だから、いつも見ないようなライブでも行こうかと探してみたけど、なんかイマイチ乗り気にならなかった。そのときようやく気づいたけど、たぶんライブ行きすぎててめちゃくちゃ疲れてる。なんかお笑いライブって絶対おもしろいから「お笑いライブがおもしろい=ベタ」みたいな感覚になってしまい、おもしろいことで笑うのがダルくなりかけている気がする。

最近それを無意識下では認知してたっぽくて映画とかドラマとか漫画とかで気を紛らわしてみたけど、結構それも体力使うし疲れた。そもそもわたしの好きな作品のジャンル自体が、暗いもの、バイオレンス、殺人、宗教、哲学みたいなのばっかりでメンタル消費カロリーまで暴力的なので全然気を紛らわすのに向いてない。ラブコメとかで“キュン死”できるタイプだったらよかったのだけど唯一好きなそれ系の映画が「猟奇的な彼女」なので、やっぱり1ゲロ以上ない作品は頭に入ってこないんだと思う。これ意外とゲボ吐いてますよみたいなラブコメがあったら教えてください。


そんな感じなのでもうライブの予定を入れるのをやめた。映画も、寝起きの時点では観てみようかと思って再生してみたものの、冒頭から主役が血まみれになってても話が入ってこない。別の作品に変えて、ピエール瀧がホステス役の女性の乳を鷲掴みにしてるシーンを見ても感情が動かない。これはたぶん映画がつまんないんじゃなくてわたしがつまんない日なんだと思ってそこで全部をやめてベッドに戻った。暇を味わおうと思って天井を見つめてたら、暇すぎていつもうるさい頭の中の言葉が完全に無くなった。

少し寝て起きたら銭湯に行きたい気がしてきた。歩いて10分ぐらいのとこにある銭湯で、風呂場の上についてるでっかい換気扇がスチームパンクみたいな古び方をしていたりと全体的に年季が入っている。受付で図体大きめの男の人が「こんばんはー」と抑揚ないのにデッカい声で挨拶してくるのが、なんか話通じなそうな怖さあるなという感じで「この銭湯を経営している家に生まれて一度も外の世界を知らずに育った一人息子なんだろうな」と勝手に察した。たまにシワシワすぎて折り畳めそうなぐらい小柄で客のことを基本ガン無視するおばあさんもいたりして、昔ながらの一族経営を感じる銭湯だった。基本あんま人がいなくて好きだったけど、忙しさとめんどくささで足が遠のいてしまってた。
とりあえず営業してるかを調べるために横になったまま久々にその銭湯の名前をググったら、エグいぐらいリニューアルしてた。最近のサウナブームに乗っかってめちゃくちゃオシャレな雰囲気に改装されてて、一丁前にマスコットキャラのグッズまで展開している有様だった。あまりの金の匂いにちょっと躊躇したが、このままだとベッドから2度と起き上がれないような気もして荷物をまとめた。案の定、息子さんらしき人はおらず、前髪の一部を明るく脱色して全体的に遊ばせてる色黒で顔テカテカのおじさんが受付をしていた。あまりの変化に圧倒されたものの、古き良きみたいなのを妄信してるタイプでもないから、受付でPayPayのQRコードを見つけた時点で「また来よう」と思っていた。新しくて綺麗な方が良いに決まってんだろ。


風呂場は以前の姿かたちもなくすっかり改装されてて、なんかうっすら音楽とかもかかってた。リラクゼーション系の音だった。風呂にそういう音楽がかかってることで素っ裸のまま家じゃない場所にいるということがより浮き彫りになってる感じがしてソワソワしたが、新しくなった湯船は3種類ともとても気持ちよく、特に露天みたいになってるところがかなり気に入った。わたしはサウナ(というか水風呂)が苦手なので湯船にしか入らないけど全然これあるだけでまた来る価値あるなと思えた。うれしい。

風呂浸かる前に頭を洗っていたら、鏡越しに後ろを歩いていた恰幅の良いお姉さんが見えてなんとなく目で追ってしまう。 昼間見た白石和彌の映画に出てきそうな迫力のデッカい刺青が背中に入ってたから。なんかよく分かんないけどインドの女神でモナリザをパロディしたみたいな絵柄だった。誰に対してどういう気合いの入れ方してるんだ。

一番ぬるいお湯に浸かってボーッとしてたらさっきの東洋のモナリザ姐さんが浴室から出ていく姿がバッチリ視界に入ってきた。わたしは生まれてこの方すごく視力が良いので、姐さんがうっすら水着の形に日焼けしてるのに気づいた。ビキニじゃなくて競泳用みたいなベーシックな形のやつ。なんか刺青入ってるけど銭湯とかは好きで大江戸温泉みたいな水着で入れるとことか行くの趣味とかなのかなぁなどと邪推した。どの界隈の女神なのか分からないが姐さんが人生かけて背負った彼女がわたしに微笑みかけている。もう一周湯船をローテーションして出た。


ここ最近ずっと聞いてるインテイクのラジオを聞きながら帰る。インテイクのラジオは基本的に鈴木がまえかずを説教している。おもしろいおもしろくないというよりはドキュメンタリー的な感覚で芸人の殺伐としたラジオが好きなのでめちゃくちゃハマってしまった。最近の回でも鈴木がまえかずにキレてはいるが、初期はキレすぎて無音の時間とかある。
どの回か分からないけど鈴木がブチギレてまえかずに大喜利を振り続けるも、まえかずが全く答えられない地獄の回があるらしい。早く辿り着きたい。やっぱりお笑いはおもしろい。