【D-93】あたしのmiumiuの財布
神保町でお笑い見てラーメン食べた日があった。
めちゃくちゃ笑ったあとおいしいラーメン食べて帰るって「幸せ」の具現化だな〜と思いながら、半蔵門線のホームを歩く。
乗り換えのときに移動しやすい車両に向かっていると、エレベーターの前に何かが落ちていた。
近づいてよく見ると財布だった。淡いグリーンの小さな三つ折り財布で、表側にはmiumiuのロゴが浮き出ている。比較的新しいように見えた。
落とし物や失くし物が多いタイプで、今まで財布や携帯、家の鍵、定期入れ、社用の携帯、会社のカードキーなど、あらゆる大事なものを落としてきた。
でも、手元に戻ってこないまま紛失したことは一度もない。全部何の被害もなくそのままの姿で返ってきた。
日本に生まれてよかったとその度に思った。
だから、確実に誰かが困ってるであろう落とし物は基本的に必ず拾って届け出るようにしている。
誰かがそうしてくれたように、わたしもそうすることで、きっとまたわたしが何かを落としても返ってくるから。(これがアースサークルシンキング(※)です!!)
※「学会」より↓
ところで、こんなにも堂々と落ちていたらわたしじゃなくても誰かが拾いそうだ。落とし主はまだそんなに遠くへは行ってないんじゃないかと思いつつあたりを見回したが、財布が無さそうな人はいない。
落とし物を届けるとなると、今待っている電車には乗れない。数本逃すことになるけど、お笑いを見てラーメンを食べたわたしの心はイエスぐらい慈悲深くなっていたので全然余裕だった。
拾った財布を持ち歩くのは少し緊張感があるけど、それで誰かが助かるならと歩き出すと、近くのベンチに座っている女の子3人組がいた。
デカいキャリーケースを携えていて、旅行とかで来たのかなと思った。なんとなくその子たちの背中側を通り過ぎようとしたら、端っこの女の子が立ち上がって言った。
「待って財布ない!あたしのmiumiuの財布!」
そんなことあるんだ、と思った。ゲームだったらチュートリアル部分ぐらい簡単すぎて笑いそうになった。「あたしのmiumiuの財布」ってなんか歌詞みたいだなと思うぐらい余白あった。
財布をなくしてめちゃくちゃテンパってるお姉さんに「あのもしかしてこれですか?」と言ってさっき拾った財布を差し出した。
「え!!?!ありがとうございます!!?!」
財布があった喜びより、失くしてから見つかるまでが早すぎてそっちに驚いてる感じだった。
たしかに失くした瞬間拾われたらビビるよな、とか思ったらなんか恥ずかしくなって、落とし主の女の子の顔をもう見れなかった。
「そこに落ちてましたよ」とぎこちなく言いながら、こんなにタイミング良く渡したら待ち構えてたみたいでキモかったかな?とかネガティブな思考がぐるぐるしてめちゃくちゃ帰りたくなった。
2学期になって初めてクラスの女子に話しかけた陰キャオタクくんみたいなわたしの背中に向かって、彼女は何回もお礼を言ってくれた。素敵な女の子だった。やったことに対してのお礼が余ってる気がして申し訳なくなる。
背中越しに、女の子のツレが「なんかあげたい」て言ったのが聞こえた。
友達が財布なくして誰かが届けてくれた現場に居合わせたら、わたしも全く同じこと言うだろうなと思った。