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部屋とケージの温湿度操作①加温と保温

原産地の気候とは無関係に、部屋の中の最も寒い場所の温度が摂氏20℃を下回るようになれば、部屋とケージを加温用具で温める必要があります。

室内であれば、極端に寒い地域でない限り自然のままにしておいても(熱帯・亜熱帯原産の種であっても)命にかかわるような温度まで下がるようなことはほぼ考えられませんが、ストレス負荷、ひいては寿命の延長を考えるとある程度の温度操作をした方がよいと言えます。

温度の高低にかかわらず、ヘビがもっともストレスを感じるのは "急激な温度変化" です。短時間で急に温める、急に冷やすなどの温度操作は一時的なストレス負荷だけでなく、彼らの自律神経に異常をきたし繁殖スイッチの異常や拒食の原因となることもあります。

加温(保温)、冷却ともに基本は "エアコンの稼働" による温度調整ですが、これに加えてそれぞれのケージについて、設置場所(部屋の場所による温度傾向を確認)やヘビの種(高温より or 低温より)にあった "ソフトな温度操作" が必要になります。

こうした "ソフトな温度操作" を考えるとき、現在市販されている爬虫類用の加温器具は残念ながら使用に耐えうるものではありません。
いずれの製品も短時間で急激な温度上昇が起こり、なおかつ最高温度が非常に高くなることから生体の健康へのストレス負荷が大きいためです。

例えば赤外線ライトですが、接続してまもなくソケットが手で触れないくらいの高温となります。
これは非常に危険なことで、火災の問題だけでなく、冬場にスポット的に暖かい日などにはヘビが "冬場の熱中症" を起こすリスクもあります。

また、熱がケージ内にまんべんなく行き渡らないため、一部は非常に暑い、一方で一部はまったく温まらないというようなことも少なくありません(狭いケージでは全体に暑くなりすぎる)。

ケージ内にある程度の温度勾配をつけることは、彼らが居場所を自由に選べるという点を考えるとよいですが、ケージ内で場所により極端な温度差があるなどという場合にはヘビの行動範囲を狭める原因となります。

市販の "爬虫類用の加温用具" が抱えるこのような問題点を解消できるヘビの加温・保温用具として、有効なものを以下にいくつかご紹介しましょう。

1.ヒト用のホットラグ(電気ひざ掛け)やホットマット(電気座布団)

このアイテムの一番良いところは、ソフトな加温ができること、および弱~強の出力調整を比較的細かく設定できることです。急激な温度上昇が起きないので、生体にやさしい加熱が期待できますし、暖かい日には出力を ”弱" に寄せることで温度が上がりすぎるということもありません。

また、表面に起毛素材を使用している製品が多いので、熱を効率よく使用できる。そして加熱部分が柔らかく、ケージの "温めたい部分" に重点的に熱を伝えられると同時に、ケージ内にまんべんなく熱を伝えることができるという点も大きなメリットと言えるでしょう。

使用にあたってはケージの上から被せるか、ケージの下に敷く、あるいは温めたいエリアにテープやロープなどで巻き付けて使うという方法もあります。先に記したように、このような使用方法の自在性も大きなメリットと言えるでしょう。

以下に、代表的な製品(のリンク)をご紹介しましょう。価格的にもそれほど高価でなく、洗濯・洗浄ができるものも多いので衛生面(ほこりが過剰に積もる)の心配もありません。

Sugiyama 洗える電気ひざ掛け

電気ホットマット

2.充電式湯たんぽ

ケージのサイズが大きくない場合には、充電式の湯たんぽが利用できます。計画停電の際など、一時的に電気が使えなくなる際にもあらかじめ充電しておけば安心です(複数を用意しておけば広いケージにも利用できます)。
また、効果が10-12h続く製品もありますので、保温の継続性という点においても心配は少ないと言えます。
後に紹介する "毛布" などと一緒に使用することで保温の持続性、熱効率をさらに高めることができます。

Zoyobave 充電式 湯たんぽ


3.鍋に張った熱湯

急な停電時など、予期せず完全に電気が使えなくなった場合に有効なのが ”熱湯” です。簡易コンロなどを準備しておけば、ガスカートリッジでお湯を作れますので電気を使用せずに部屋を暖められます。

熱湯による温度上昇は意外に侮れず、狭い部屋で比較的大きな鍋(煮物やパスタなどに使用する鍋。部屋の複数個所に複数使用するとさらに効果が高い)で湯を沸かすと最大で摂氏5℃近くの温度上昇が期待できます。

また、熱湯にタオルを浸し(作業用手袋をするとやけどを予防できます)、上下させる(熱湯にタオルを浸けたり出したりする)と温かい蒸気が部屋全体に行き渡り、より効果的な加温ができます。

継続的な加温のためには何度かお湯をわかし続けなければならず、効率的な加温というわけにはいきませんが、停電などの緊急時、一時的な加温や保温の手段としては非常に有効な方法です。

 4.毛布

ここまでは ”それ自体” が熱を出すものをご紹介してまいりましたが、熱を効率的に使用するためのアイテムもいくつかご紹介しましょう。

代表的なものは毛布です。先にご紹介したホットラグやホットマットに、さらに毛布を掛けて使用することで熱を逃がさず、ケージ内を継続的に暖かい状態に保つことができます。

その効果は絶大で、加温器具の出力を上げすぎると逆に暑くなりすぎることもありますので、最初に保温効果がどれくらいあるのかを必ず確認する必要があります。
また、火災の原因となる可能性が高いため、絶対に爬虫類用の赤外線ライトと併用することは避けてください。

5.エマージェンシーブランケット(マージェンシーシート)

登山用品やアウトドア用品のお店で売っているアイテムで、これも自ら熱を発することはありませんが、保温効果という意味では毛布以上の優れものだと言えます。

構造を簡単に言うとアルミ箔を人工素材に圧着したもので、内部の熱を反射し、こもらせるという効果があります。
先の通り自ら熱を発することはありませんが、内部の熱を閉じ込める効果は絶大で、身体に巻き付けると冬でさえかなりの汗をかくほどです。

ケージに使用する際には底面、または壁面に加温用具を設置し、内部に熱を発生させたうえでエマージェンシーブランケットでケージを覆うという方法が有効です。

ただし保温性の高さとは別に、湿気も籠らせる性質がありますので、必ず空気の通り道は作ったうえで使用するという点には注意が必要です。


意外に誤解されやすいですが、ヘビは低温より高温の方が圧倒的に弱い動物です。
また、先にも記したように無理な加温はヘビの神経系、あるいは繁殖スイッチや食欲といった本能に異常をきたすことにもつながりかねません。

"このヘビの適正温度は摂氏〇〇℃である”という数字に惑わされ、無理な加温によって飼育個体に著しいストレスをかけている例も数多く見てまいりましたが(その結果異常な時期に繁殖スイッチが入ったり、拒食や皮膚疾患、消化器系疾患の発生が起こるなど)、あくまで柔らかい加温を心がけることが何より重要です。

また、季節による自然な温度上昇・降下はヘビの健康にむしろ良い影響を与える(正常な繁殖スイッチや健全な成長カーブ)ということを把握したうえで、適切な加温・保温用具の使用を心がけていただくとよいでしょう。

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