見出し画像

ヘビの飼い方④セイブシシバナヘビ

シシバナヘビ(Hognose snake)の一般名が付けられたヘビは主に3種で、北米からメキシコにかけて分布域を広げるHeterodonのほか、アフリカ・マダガスカルの固有種のLeioheterodon、そしてラテンアメリカ原産のLystrophisです。いずれも形態的特徴は似通っています。

このうち、近年特にペットスネークとして人気のある種がアメリカ大陸北部〜中部を原産とするHeterodonです。(分布域により4亜種が知られています)

このヘビの形態的特徴といえば、なんと言っても吻にある "カギ状" の鱗です。この鱗は穴を掘って地中生活を送るためという用途のほか、地中の小型爬虫類を掘り出して捕食する際にも使われると説明している記事もあります。
後者(摂餌の際に利用)については実際のところは定かでありませんが、前者(穴掘り)については飼育下ではほぼ地中に潜って過ごしている様子が見られることから、間違いないと思われます。

性格は地中生の他種と同様に臆病であり、なおかつ比較的気の荒い個体が多い印象で、決して "扱いやすい" ヘビではないでしょう。
追い詰められると噴気音(Puff)を出し、それでも相手が怯まないときにはひっくりかえって "擬死" をすることもあります。

特に警戒心の強い個体はもちろん、飼育下において信頼関係が築けたとしてもハンドリングなどはもってのほかで、無理に触れようなどとした場合には頻繁に咬みついてくるものもいます。

彼らは口内奥に比較的長い牙を持っており、しっかりと咬まれた場合には当該箇所を "ホールド" されます。
こうした場合に牙を伝って注入される毒素の主成分はタンパク質分解酵素のホスホジエステラーゼ(PDE)、さらにプロテアーゼ活性を持つ出血性の毒も含まれるとされ、人体への影響は決して軽く見ることができるものではありません。

まずは何よりも咬まれるような状況を作り出さないこと、そのためには無用なハンドリングは厳禁であると承知しておくことが重要です。

以下に飼育環境および給餌、そして繁殖についての概要をご紹介します。

運動量は比較的多い、ケージもそれに合わせて

セイブシシバナヘビは、同じ地中生のヘビと比較すると運動量は少なくありません。活動時間帯は主に日中で(餌動物の活動時間帯と関係しているものと思われます)、特に気温の低い時期から高い時期へ移行して間もなくなどはケージ内の地上(壁面含む縦・横方向のいずれも)や地中を活発に動き回っている様子なども見られます。

これを考えると彼らが十分に運動できるサイズのケージを用意してあげる必要があります。
以下は "一応の目安" としてのケージサイズの参考です。

・横方向:頭胴長の2倍以上
・奥行き:頭胴長の1.5〜2倍以上
・高さ:頭胴長の1.5倍以上

しばしば間違えられやすいのですが、セイブシシバナヘビのように地中を主な活動域としているヘビであっても立体方向、ケージの壁面づたいに上方へ登ってゆくような行動も好みます。
したがって床材を深く敷くというだけでなく、地上より上の空間も十分なスペースを取る必要があります。ケージ内レイアウトはこのことを考慮した上で決定される必要があります。

床材は "潜れるもの・掘れるもの" が必須

先の通り、地中に潜ることを好むこのヘビの飼育においては "地中に潜ることのできる床材" が必須となります。
したがって床材として利用できるものは "用土" のみとなります。(https://note.com/calliophis/n/n906bb3c64d5a
用土の上にさらにチモシーなどイネ科の植物を敷くことで地中の温度・湿度の変化を防ぎ、セイブシシバナヘビが過ごしやすい地中環境を作り出すことができます。

稀にキッチンペーパーやペットシーツなどでこのヘビを飼育している様子も見られますが、こうした素材では恒常的に大きなストレス負荷をかけることへとつながり、健全な飼育環境とはなり得ません。

また、パームチップのような粒が大きく、それぞれが硬い素材も彼らが地面を掘り、潜るという行動の妨げとなりますので使用することはできません。
あくまで柔らかく、適度な通気性・排水性を備えた床材を使用することを心がける必要があります。

遊泳を目的とした水への依存度は低いが

ウォータープールは、基本的には飲用を目的としたものだけを設置することで問題ありません。セイブシシバナヘビは遊泳を好むヘビではないためです。
ただし、特に乾燥した時期には水に "浸かる" ことを好む個体がいます。これを考えると理想はケージ内に2-3つの"トレー状" のウォータープールがあった方がよいでしょう。
セイブシシバナヘビが水に浸かる、あるいは縁に身体を預けて水を飲むことなどを考慮し、水の深さは最大でも3-4㎝程度以内に留めておいた方がよいでしょう。

理想的な温度と湿度の設定

自然下で比較的乾いた場所に暮らすセイブシシバナヘビは、飼育下においても他のヘビ以上に乾燥傾向に寄った環境を好みます。
また北半球産ということもあり、低温には比較的強い傾向がありますが、高温・高湿状態が続くような環境は苦手です。
鱗に強い(粗い)キール(突起)があり、表皮組織はそれほど弱くない印象ですが、不適切な環境では拒食や排せつ障害、その延長としての脱腸などの健康異常が起こる可能性が高まります。

一応の目安としての理想的な温度、および湿度は以下の通りです。

【温度】
気温の低い時期:摂氏17,8℃~25℃
気温の高い時期:摂氏22,3℃~30℃

【湿度】
乾燥傾向の時期:20~50%
湿潤傾向の時期:40~70%

餌は変温動物を中心に

自然下においてはヒキガエルを主食としていることが知られていますが、そのほかに小型の爬虫類や両生類も食べるようです。あるいは割合としてはごくわずかですが、鳥類やげっ歯類も食べているという報告もあります。

このように自然下で外温性動物を主食としているヘビにサイズの大きなネズミ類を与えた場合、消化器系への負担が大きくなります。その結果、老化を早めることとなり、相対的に寿命を縮めることにつながります。
理想は餌用に販売されているカエル(冷凍のものでも食べる場合がほとんどです)、もしくはドジョウ。これらを冷凍→解凍して与えるとよいでしょう。

また、上記の通り "雑食性" だけに、ネズミ類に餌をリードすることを推奨する情報もありますが、もしネズミ類を与える場合には毛のないピンクマウスか、僅かに毛が生えたファジーマウスなどの場合でも毛を剃ってから与えるほうが良いでしょう。

地中生のヘビとしては比較的運動量が多い方だといえますが、餌の与えすぎは肥満につながります。
一応の目安としての理想的な給餌間隔は、
・気温の低い時期:20日〜3週間に1度
・気温の高い時期:2週間〜20日に1度

また、(成蛇に)与える餌の量は、
・気温の低い時期:ピンクマウスであれば2-3匹。できるだけアタックから嚥下までに要する時間が2分以内のサイズ。カエルやドジョウを与える場合も同様のサイズを3-4匹、冷凍→解凍して与える。
・気温の高い時期:ピンクマウスを4-5匹、サイズは同じくアタックから嚥下までの所要時間2分以内のもの。カエルやドジョウは5-6匹が目安

なお、冷凍の餌を与える場合には、必ずしっかりと解凍できていることを確認してからとします。
変温動物を主食としているヘビでは比較的消化器系が脆弱な個体が多く、解凍不十分な餌を与えた場合には食べないか、あるいは吐き戻したりする心配もあります。

繁殖行動と卵の扱い

正常な環境で飼育した場合、交尾行動は主に4月〜5月頃に行われます。
気性の荒い個体が多いですが、ケージ内の環境に問題がなければ2匹以上を同じケージで飼育しても問題が起こるようなことほぼありません。

その後1-2カ月で産卵、1度の産卵で産み落とされる卵の数は10〜20個程度のケースが多いようです。
卵の管理については特別なことはなく、他のヘビと同様に卵のサイズに合わせたタッパー内に移し替えたのち、濡れ落ち葉で包んで保存します。
*孵化までの期間は1カ月〜2カ月程度が目安です。


セイブシシバナヘビは "ただ生きているだけ" の状態ならともかく、永続的に健康・健全な飼育環境をキープするのは意外に簡単ではありません。
床材や餌などが不適切な飼育管理でも "それなりに生きてしまう" タフなヘビですが、彼らにとってベストな飼育環境を用意してあげることが健康な状態で長く生きることにつながります。

この記事が参加している募集

#ペットとの暮らし

18,517件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?