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ヘビに不可欠な太陽光。"時間" と "質"の管理

夜行性・昼行性を問わず、必ず欠かせないのが日中の "自然光(太陽光)" の照射です。
紫外線ライトが太陽光の代用になる、という情報がまことしやかに伝えられていますが、ヘビの健全な生育・成長を考えた時、紫外線ライトのみの照射では無理があります。
それは彼らが本能として備えている "時間の感覚" 、そして "免疫力強化(自己の治癒能力)" に太陽光が欠かせないためです。それぞれについて、詳しくご紹介しましょう。

1.ヘビのもつ "時間の感覚"

昼行性、夜行性のヘビはそれぞれどのように "昼" "夜 " を判断しているのでしょうか。
その答えの1つが "光の照射時間" と "光の質" だと考えられます。そのどちらか1つでもかけた場合、ヘビは "今は昼だ"、 "陽が沈んで夜になった" という時間の経過を把握することは難しいと考えられます。

例えば24時間、365日、紫外線ライトを照射していたらどうなるでしょうか。彼らは延々と光を感知した状態となり、日中・夜間の区別をつけることが難しくなります。
実際にこうした異常な光量の管理により拒食や繁殖スイッチが入らない、あるいは脱皮不全などの代謝異常が起きたという事例がいくつも確認できています。
 
では、紫外線ライトを日中点灯し、夜はライトを消したらどうでしょうか。それにより確かに昼夜で光量の差がつけられることでしょう。
しかし、市販の紫外線ライトと太陽光では "光の質" が異なります。具体的には、紫外線ライトの "照度" は概ね30,000〜40,000lux、一方で太陽光の照度は50,000〜100,000luxです。

時間帯によって照度に大きな振れ幅がある太陽光に対し、一定の照度で変わらない紫外線ライトでは同じような役割を果たすことができません。
もちろん太陽光では季節によってもこうした "光の質" は変化し、それによってヘビが季節の移ろいを感じ、繁殖スイッチや摂餌量を自ら調整しているものと考えられます。

人においても、光が全く入らない世界ではさまざまな形で生理現象の異常が起こることは過去に実際に行われた実験で明らかにされています。
よく知られているものとしては、1989年にアメリカで行われた実験、そして2021年にスペインで行われた実験があります。いずれも女性が検体となり、全く光の入らない洞穴内で長期間過ごすというものでした。

これら2つの実験では、全く太陽光の挿さない世界で人間が長時間過ごすことにより、時間の感覚が完全に狂ってしまうということが示されています。
紫外線ライトだけでヘビを飼育した際にしばしば起こる健康異常も、おそらく彼らが本能として持ち合わせている "時間感覚" と無関係ではないでしょう。

2.外傷の治癒と正常な脱皮

太陽光の照射は、彼らの外傷治癒の促進にも関係があります。
以前に知人から預かったとあるヘビ(ナミヘビ科のガータースネークThamnophis属の一種)は、口内に酷いマウスロットを患っていました。その症状の進行はかなり進んでいて、まともに口を閉じれないほどです。

このままでは命を落とす危険もありそうだ、と感じましたが、まずは清潔なケージにそのヘビを納入し、窓辺に設置して様子を見ることとしました。
しばらくすると、そのヘビは明確に普段よりも長く、太陽光の当たる場所でバスキングを行なうようになりました。
その結果、1週間ほどでマウスロットが回復の傾向を見せたのです。おそらく彼は太陽光の照射によって、傷口の雑菌を消毒できるということを本能的に察知していたのではないかと考えられます。

これはおそらく免疫力、自然治癒力の上昇に太陽光が関わっているのではないかと推測されます。

あるいはヘビの脱皮という生理現象も代謝活動の一種であり、太陽光が自然にさすケージでは、脱皮不全などの異常が起きたことはこれまでに一度もありません。

紫外線ライトの照射だけで飼育する中で起こる、さまざまな健康異常。こうした異常を改善するために太陽光の照射が有効である場合は少なくありません。
逆に言えばそのような健康異常に対し、動物病院での治療を受けて回復したとしても、"光の管理" の改善を行わなければ、根本的な解決にはならないということです。

治療→回復という負のサイクルが続く慢性的な健康異常。こうした場合の一番の改善方法は意外とシンプルで、日中、自然に太陽光が射す場所へとケージを移す、ということにあるかも知れません。

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