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ヘビの"視力"と"咬みつき行動"

今日はちょっと変わったネタとしてヘビの視力、そしてそれに伴う彼らの ”咬みつき行動” についてご紹介しましょう。

視力への依存という点においても、ヘビの種類によってだいぶ偏りがあります。樹上性のヘビは視力が良い、という情報もありますが、これは本当でしょうか。

頭部との比較における "眼の位置(頭部の前方についている:樹上生, 頭部の側方についている:地上徘徊生・地中生, 頭部の上方についている:一部の水生)"、がヘビの視力を知る一つのカギになることは確かだと思いますが、それによって(前方に眼がある樹上性のヘビが) ”視力が良い” とするのは少し乱暴な気がします。

対象物との距離を正確に近い形で知覚できるという点においては、樹上生のヘビが一定のレベルにあるのは確かだと思いますが、対象物の種類や造形、動きなど総合的な意味においての ”視覚” という点では、樹上性のヘビであっても決して高いとは言えないように感じます。

私のうちで飼育している、ヤモリに餌の嗜好が寄ったヘビにおいても、餌の探索には主に嗅覚(舌:ヤコブソン器官)を利用している様子がわかりますし、活動時間帯が夜に寄っていること、日中はほぼ地中に潜っていることなどを考えても視覚に依存するような行動嗜好があるかと言われると疑問符がつきます。

一方で、活動場所がどこであっても対象物の "動き"、具体的には上下・左右の動きを知覚するという点においては視覚の正確さ・敏感さは十分に信頼に足るものだと思います。
以前の記事(飼育管理の作業において意識すべきこと|cobra_thief (note.com))でもご紹介しましたが、人の "素早い動き" にはヘビは非常に敏感で、自然下・野生下問わずうっかり素早い動きで近づこうなどとしようものならすぐに逃げ出してしまうか、深呼吸をして緊張状態にある様子を示します。

(同種のヘビを含めて)その対象物が何であれ、素早い動きをするものからは一定の距離を置くということが彼らの本能に備わっているのではないか。そんな風に感じさせる瞬間が、ヘビの飼育管理の中では多々見られます。

視覚という点においてはもう1つ、興味深いこととして ”色覚” があります。こちらは捕食・被食との関係の深い要素で、自然下で ”ヘビを食べるヘビ" が多いことを考えると彼らが "何らかの形" で、"いくつかの色" を見分けられるのであろうと考えられます(とある研究では人よりも知覚できる光の波長は多いともしているようですので、色覚のセンスにおいては人を超える能力をもつ可能性があります)。
色覚についてのお話しについては、また改めて詳しくご紹介することとして、次に咬みつき行動についてもご紹介しましょう。

とある記事はヘビの "咬みつき行動" には2種類あると紹介しています。すなわち、"捕食のための咬みつき" と "威嚇、あるいは排除のための咬みつき" です。

前者については、対象物に確実にヒットさせる必要があります。 すなわち餌動物を食べ、飲み込む、あるいは有毒種であれば毒牙をヒットさせて餌動物を確実に弱らせる必要があるためです。
ヘビは本来、人を餌動物としていませんので(絶滅したヘビの前身の古生物が霊長類を餌としていた可能性はあるかもしれませんが)、こちらの攻撃をヘビが人に仕掛けてくることはありません。

一方で、後者は ”怖い” という感情、あるいは自分の "なわばり" から "邪魔だと思われる" 動物を排除することが目的ですから、必ずしも牙を相手にヒットさせる必要はありません。
そのため口腔を開かず、頭を投げ出すようにして威嚇するだけの行動を取るヘビも少なくありません。その上でも相手が逃避行動を行わないような場合に、次の手段として口を開いて牙を見せる、という個体も多いようです。

なお、しばしば ”ドライバイト” などと言って有毒種が毒腺から毒液を発射せずに行う咬みつき行動について紹介されている記事を見る場合があります。
しかし、ヘビの行動学あるいは解剖学・形態学の研究者に聞いてみると、特に牙が蝶番形式となっているクサリヘビの仲間では、口腔を開いた瞬間に毒は輸送されるという話しでした。全く毒が発射されないドライバイト、などというものはにわかには信じられないとのことです。

ではコブラ類ではどうだろう、という話しですが、いわゆる ”溝” を伝って毒を輸送する彼らでは毒がうまく対象動物に注入されない可能性はあるということでした。
実際に彼らは、クサリヘビと異なり ”何度も” 咬みつき行動を行おうとします。何度も咬むことで、確実に毒を相手に注入しようという意図があるのでしょう。

こうしたヘビの咬みつき行動の特徴を見ると、"威嚇のための咬みつき" に限定される ”対ヒト” では無理に追い詰めなければヘビから咬みつかれることは少ないですし、ましてや毒を頂戴する可能性も少ないと考えられます。

ヘビの咬傷事故の多くは彼らを執拗に構った結果起きています。
ヘビにとっての人は、人から見たヘビ以上に恐怖の対象になると考えられます。
どんなに危険なヘビであっても、遭遇した際には決して構うことなく、"そっとやり過ごす" のが得策であると言えると思います。


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