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舞台『「モノクロ同盟」おとなのためのメルヘン』感想

2023/3/22〜3/26 @萬劇場(東京・大塚)
私は3/25、26の4公演鑑賞。

普段はぷらいべったーに舞台感想は書くのですが、前の記事でおすすめした手前、こっちに書くことにします。
#舞台感想 ってハッシュタグもあることですし。


『鶴の恩返し』に倣って、ネコ、ネズミ、カラスに「恩返し」をされる売れない小説家の心の葛藤を描いた、心がヒリつく「おとなのための喜劇メルヘン」。
脚本のキャラクター造形の巧みさと、それに応えた俳優陣の演技力が光っていた。

物語の中心となる小説家・岩谷役の成松さんは、心の内面を繊細かつ深い表現力で演じきっていた。
正直、岩谷は燻っている上に嫌味な物言いをしていて個人的にはあまり付き合いたい人間ではない。けれど、その鬱屈とした気持ちや苛立ちには共感できた。
それに、大家の福永に小説のあらすじを話すときに見せていた普段の陰鬱な顔とは違う柔らかな表情。元カノの伊藤が「好き」と言っていたその顔が、本来の岩谷なのだろう。

また、ネコ、ネズミ、カラス、そして岩谷の周囲の人間たちのキャラクターもそれぞれ個性豊かで、物語の世界に我々を引き込む要素の一つとなっていた。

私が一番好きだったのは主人公の友人の篠原。
彼は何度も賞の最終選考まで残る小説家だったのに筆を置き、今は塾の国語の先生になっているという役で、岩谷のif(もしも)を体現するような存在。岩谷と違ってすごく生き方も性格も器用。最後に岩谷が「小説を書く」と言ったのを聞いて「僕も……いや、僕には責任がある、子供達に」と言ったのも対照的ですごく好き。
人間だと若い作家役の岸田がギリギリまで岩谷を信じようとしていたのも好きです。
あと「好き」ではないけれど大家の福永の端々の台詞回しの既視感・リアリティがすごかった。

モノクロ同盟の3人(3匹)はそれぞれ個性が尖っていて魅力的だった。
しろいちゃんは、小説の天才で自覚のない可愛いの権化。
「天才!」って本人の前で早く言ってあげていたら岩崎さんは手っ取り早く救われていたのにとは思う。でも「天才!」とすぐ言うよりこの作品の結末の方が岩崎さんをより強く救ってくれているのでOKです。
はいじまさんは、しろいちゃんとは違う可愛さのキャラ。しろいちゃんは浮世離れしているけれどはいじまさんは地に足がついている。
ちょこまかした動きや台詞回しが確かにネズミっぽかった。
くろかわさんは、台詞回しや動きが3匹で一番「人ではない」感じがした。ロボットに近い感じ。哺乳類ではないからか。くろかわさんは声色の使い分けが好き。「岩谷の真似」で成松さんよりキレのあるイケボを聴かせてくれた。

他に特筆すべきは、舞台のセット。
岩谷の心の中を反映するかのように、暗転の度に本やゴミの配置が変化するというアイデアはとても良いと思った。
最後の配置は非常に痛々しく感じた。

欠点を挙げるとすれば、「岩谷が伊藤と付き合っていた理由」があまり明確に描かれていなかったことを取り上げたい。
伊藤が岩谷のことが好きな理由は言及されていたが、岩谷が伊藤と付き合っていた動機については、私にはよくわからなかった。

でも、メルヘンという砂糖に薄くつつまれた「誰にも思い当たるとこがあるであろう葛藤」(編集者の三上役の山沖さんが前楽のカーテンコールでそんなことを仰っていたので使わせていただく)を突きつけてきて、それを救ってくれるラストが希望を持たせてくれる良い作品でした。

【重箱の隅をつつく雑感】

  • 岩谷は「俺は本当のことしか言わない」と言ったけれど、結構嘘をついていると私は思っている。そこで気になるのは「俺は本当のこと〜」の直前の台詞が本当なのか嘘なのか? ということ。本当であってほしい。

  • 岩谷の英語、発音はともかく疑問文のイントネーション(抑揚)のつけ方が間違ってて「アラム語までマスターした人間がそれ?」とは思った

  • しろいちゃん観てたら野﨑まどさんの『小説家の作り方』(多分)を思い出した。10年近く前に読んだきりなので間違っているかもしれないけれど

  • 本作で一番罪深いのは自覚ないけど色々やらかしてしまった編集者役の三上かな

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