ゼロテラ/001+ 『新約クラド』感想(2024/07/12 19:00 配信)
2024年6月26日(水)に正式情報が発表されたゼロテラ/001+ 『新約クラド』。
発表の約2週間後の7月11日(木)が初日という、あまりに直前の情報公開でした。
行ける日に行こうとしたら、日帰りだとあまりに直近すぎて、飛行機代が6万円を超えていました。
結局、6月27日に急遽実施された推しのSHOWROOM生配信の内容、そしてそれ以上にこれまでゼロテラの通販遅延(※残念ながら1つは現在進行形)などを考慮して、今回は現地で観劇せず配信で様子見をすることにしました。
で、15日にようやく配信を見たのですが、ちょっと自分でもびっくりするくらい合わなかったです。
推しが「出たい」と直談判したくらいだからもうちょっと面白いかクるものがあるだろうと思っていたのですが、私には刺さりせんでした。
作品全体の印象
去年から推しの成松さんが赤星ユウ先生の作品によく出演しており、そのため赤星先生関連作品を4本(脚本・演出をされているゼロテラの作品が3本と脚本のみの第五舞台Ep4)見ています。
が、今回の『新約クラド』は私にとって最も合わない作品でした。
観劇にあたって、連休最終日の夜に気力体力を万全にして臨みましたが、約2時間の本編がとても長く感じました。
前半もまあまあ長く感じましたが、特に後半1時間がすごく長く感じて、集中力を保てませんでした。
ストーリーの概要(ここから軽くネタバレあり)
経産省の職員、新國(にっくに)アラトは、不祥事に巻き込まれて島根経済特区「出雲水都(いずもすいと)」へ左遷されることになる。
しかし、アラトの上司である鳹束(ひめづか)シオンが中央の腐敗を払拭するために任侠「八戸掛(やとかけ)組」が支配する「出雲水都」の調査の密命をアラトに与える。
出雲水都に着いたアラトは、自らを「テネシー」と名乗る少年と出会い「ニック」という名前をつけられる。
神在月の満月の夜に行われる出雲水都の祝祭では、リゾートカジノ「クラド」で「メ神」に祝福され勝ち続けた勝者がクラドの全権力を与えられるという。
八戸掛組、八戸掛組の分派である北九州の任侠「五狼会(ごろうかい)」、出雲日ノ出教、警察行政機関「山陰特殊警ら局」通称「S.A.S.P.A.D.E.(サスペード)」らが暗躍する中、アラト=ニックは「メ神」に祝福され祝祭に勝利し東京に戻ることができるのか?
脚本・演出
まず、赤星先生の脚本や演出には独特のスタイルがあり、時系列が頻繁に前後する構成や、キャラクターの入れ替わりの激しさに戸惑いました。
特に時系列や舞台上の登場人物が頻繁に変わり、いつの/誰視点の話なのかが分からなくなり「私は今一体何を見ているんだ?」となることが多々ありました。
また、素性が明かされないキャラクターが思わせぶりなセリフを残して去る場面が多く、物語の全ては追いきれませんでした。
過去の作品『見世物革命ゴウマちゃん』や『矯正ドールのお仕事』はまだ理解しやすい方でしたが、今回の『新約クラド』については正直「???」と、ついていけませんでした。
特に、主人公のアラト(ニック)の目標である「東京へ戻って腐敗を正す」→そのために勝負に勝って「クラドの全権力」を手にする、という動機に対する必死さが伝わってこなかったのと、クラドでの勝負、特に後半の「祝祭」での勝負がカジノ要素がなくて、見ても心が沸かなかったです。
舞台美術・音響
音響については、一部でホワイトノイズ(海の音)が入っており、セリフが聞き取りづらい場面がありました。
これは意図的な演出だと思うのですが、私にとってはストレスの原因となりました。
セットは時間がなかったのはわかるのですが、「毒々しくも絢爛豪華なネオン街【出雲水都】」を表現するには流石に寂しい感じがしました。
特にネオンサインが貧相でした。
「北九州の糸島」?
私は生まれも育ちも福岡県福岡市なのですが、北九州の任侠「五狼会」の進堂がケイリー(貴井ショウカク)に自分の出身地について「北九州の糸島」と言うシーンには強い違和感を覚えました。
1.「北九州の糸島」という言い方は普通しない
まず糸島の人は「北九州の糸島」という言い方は普通しないと思います。
福岡県は通常「北九州」「福岡」「筑後」「筑豊」の4つの地方に分けられます。進堂が出身地として言っている「糸島」(糸島市・糸島半島)は北九州地方(福岡県北東部、北九州市などで知られる)ではなく、福岡地方(福岡県北西部、福岡市などで知られる)にあります。
糸島市は福岡県の西端に位置し、北東にある北九州市とはかなり距離があります。
出身地の言い方としては
する:糸島、福岡の糸島、北九州の小倉/八幡/門司/若松/戸畑など
可能だが微妙:北部九州の糸島
しない:北九州の糸島
といったところです。
どのくらい「北九州の糸島」という言い方が変かを例えるなら、神奈川県の箱根町出身の人が「横浜の箱根出身」というくらいでしょうか。
きっと「今は北九州の任侠で、北九州への思いが強くて、ちょっと話を盛った」くらいの認識なんでしょうけど、そうすると「なぜわざわざ北九州ではない糸島にしたのか?」という疑問が出てきます。
2.出身地をわざわざ「糸島」にした理由が本作だけではわからない
進堂の出身が「糸島」ならそれでいいのですが、何故あえて出身を「糸島」としたのかが本作では全くわかりませんでした。
進堂が本作で出身地の糸島について語っていることは「大っ嫌い」という言葉だけです。その理由は、彼の家が貧乏で父親に毎日暴力を振るわれていたからで、生まれた場所があえて北九州ではない糸島である必要は特にありません。
些細なことと思われるでしょうが、こういう細かなところの不整合で「詰めの甘さ」を感じてしまいました。
観客の反応/回がわりのネタ
配信で観たため、観客の反応や会場の雰囲気を直接感じることはできませんでしたが、回がわりのネタで客席の笑い声が聞こえる場面がありました。
ところが、そのネタが私は笑えず、共感できない部分が多かったです。
日ノ出モノザネがSiriに祝詞を読ませるのはまだ笑えるとわかるのですが、最初の方の経産省の仲間がアラトにチキン南蛮の話をするやつはつまらなさすぎて実際に頭を捻ってしまいました。
推しの演技
今回の推し、成松さんの役「新國キミヒコ」は主人公の新國アラトの父親(故人)の役でした。ちょっと浮世離れした性格ながら妻のトウコのことを愛していたと思われましたが、トウコと共に殺害されてしまいます。
トウコやアラトと一緒にいる時の表情は柔らかく、「こういう推しも見たかった」とは思いました。そこは赤星先生と趣味が合っていました。
ただ出番がすごく短かったです。
スマホのストップウォッチを使って計りながら見たのですが、舞台上に推しがいた時間は恐らく6分前後(配信だから映ってないこともままある)。
「今作にわざわざ『新國キミヒコ』として出演している必要性はあったか?」と考えるとちょっと疑問符がつく感じでした。
あと「新國キミヒコ」とは全く関係ない場面で一回推しのものと思しき声が流れた気がするのですが、あれは一体なんだったのでしょう。
良かった探し
主人公のアラトとテネシーが出会った時、二人の縁を結ぶように背後でテラダイバー(アンサンブル)の方たちが赤い布を引いたところは好きでした。
この演出は視覚的に非常に美しく、二人の結びつきを象徴する良いシーンでした。
今作で新たに追加された登場人物の一人、不破タイラ。私は好きでない設定はあるけれど、動き・仕草でああまでぶっ飛んだ役を納得させる井川さんの演技がすごかったです。
キャラクターの立ち具合だったら、日ノ出モノザネもまあ好きです。
あと、OPも歌込みで良かったと思います。
総評
全体的に見て、赤星先生の作品は私の趣味や感性とは合わないことが改めて分かりました。
時系列の飛び方やキャラクターの入れ替わり、理解しづらいセリフや場面が多く、2時間という時間が非常に長く感じました。
他の人が観て賞賛している『新約クラド』と私が観たものが同じ作品なのかを疑うほどです。
通販の遅延の件もあるので、今後、ゼロテラ作品はできれば遠慮したいです。
それにしても『フェティシズム蒐集・いち』(昨年末注文した時には今年4月下旬発送予定だった)の円盤はいつになったら発送されるんですかね?
おまけ1:クラドシリーズの役名とキャスト一覧
この記事を書くために作った、これまでのクラド3作の役名とキャストさんのお名前の一覧です。
おまけ2:赤星先生の同時視聴&解説スペースも聴いた
ここまで書いた後、赤星先生の新約クラド配信同時視聴&解説の約3時間20分のスペースも聴きました。
一言、「それだけの情報を省略されたら分かる訳がない!」です。
「北九州の糸島」については先生は特にフォローの言葉がなかったので本当に「北九州の糸島」と思っているっぽいです。出雲現地取材はわかるしした方がいいんですが、北九州の取材も地図見るとかネットで調べるとかでいいからしてほしかったです。