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細谷真大選手のゴール取り消しは正しい…けども。主審だけの力ではない「半自動オフサイド判定」のお話

悔しすぎる敗北。風が吹かなかった敗北。受け入れがたい敗北。いろいろな表現がある黒星。

2日に行われたスペイン代表との試合で、日本代表は0-3と敗北。パリ五輪での戦いはベスト8で幕を下ろすことになりました。その中で大きな話題になったのは、前半終盤に細谷真大選手が決めた…はずのゴールが認められなかったこと。

ポストプレーでディフェンダーを背負ってボールを受け、そこから反転してシュート。見事過ぎるゴールでしたが、それは得点として認められませんでした。パスを受ける前、細谷選手の後ろ足がわずかにディフェンダーよりも前に出ていたのです。したがってオフサイドのジャッジがくだされました。

待ち伏せを防ぐためのルールであるオフサイドが、なんとポストプレーに適応されるという…一体なんのためのルールになっちゃったのか。

誤審ではないものの、日本の選手は誰も納得できず、スペインの選手も「よく見てた!正しい判定をありがとう!」ではなく「ラッキー、助かった」くらいの反応でした。サッカーのルールは曖昧なものが多く、最終的には主審の判断が権限を持ちます。このジャッジは試合を担当したモーリタニアのダハン・ベイダ主審による独りよがりなものともネットで評価されていました。

ただ、このジャッジを「主審だけのせい」と言うのもいささか乱暴な気もするのです。いや、まぁ、最終的な権限は主審なので、責任はダハン・ベイダにあるのですが、彼にとっても絶対に抗えない部分はあったはず。パリ五輪には「半自動オフサイド判定技術」が導入されているのですから。そして機械は「間違いではない」のです。

半自動オフサイド判定技術とは?

2022年末に行われたカタールでのワールドカップで初めて本格的に使われた半自動オフサイド判定技術。正確には「SOAT(Semi-automated offside technology)」といいます。

スタジアムの屋根に配置された数多くのカメラ(種類によっても違うが10~12台といわれる)で試合の映像を毎秒50フレームで撮影し、人体の関節やポイントを29~30個判定して追跡。FIFAが使用しているシステムではそれに加えてボールに組み込まれたチップで位置を判定し、自動的にオフサイドの場面を発見する(ちなみにUEFAや今期導入予定のプレミアリーグはボールにチップを入れておらず、カメラだけで判定します)。

ボールにチップが埋め込まれている場合、選手がシュートやパスをした瞬間の力の加わりを判定できるため、より正確にオフサイドのタイミングを計測できる。

さらにその映像をAIによって解析し、オフサイドの可能性があると判定された瞬間にVAR担当レフェリーへと警告を行う。

それを受けたVAR担当レフェリーはすぐに該当の場面の映像を確認し、オフサイドがあったことを主審に通告することができる。

オフサイドの場合は判定はファクトであるため、半自動オフサイド判定技術とVARアシスタントレフェリーでオフサイドだと言われれば、主審もそれを否定することは難しいです。なにせ自分が見ていないものをシステムとVARが見ているわけで…。

今回もオンフィールドレビューではなくVARからの助言を受けてゴールを取り消しているので、主審はシステムの判定をファクトとして伝えられたのだと思います。そりゃなかなか主審側からは拒否しがたいですよね。

その前の「どう考えてもオンサイドなのにオフサイドになった」謎の誤審は何だったんだという気もしないでもないけど、副審が旗を上げてなかったところを見ればVARからの助言だったんでしょうね。どこかにオフサイドがあったのは間違いない。

「機械的判定」は、正しいけど文脈がない

正しい判定なんですよ。細谷真大選手のオフサイドは確かに足がディフェンスラインの前に出ていることは間違いない。正しい。誤審ではない。

ただ、サッカーのジャッジって文脈…というかそのプレーの意図が重要だったりするじゃないですか。

例えば「接触プレーのファウルを自動判定したらどうなるか」で考えれば。

凶悪な両足の足裏タックルをしても、足に当たっていなければファウルじゃないと判定されるかもしれない。

足を上げてトラップしたところに相手が突然頭で飛び込んできて当たったら、ハイキックでレッドカードになってしまうかもしれない。

不自然に広げているわけではない手にボールがたまたまぶつけられただけなのに、それがハンドになるかもしれない。

やっぱりサッカーとして納得される判定をするためには一つ一つのプレーの文脈を読むことが重要だと思うんです。それぞれの意図がどうだったのか。当たり方だけで判断したら誰も納得できないジャッジになってしまうかも。

そういう点にまだ「配慮」できるほど、テクノロジーは進んでいないなという印象があります。そこはVARアシスタントレフェリーがうまく「取捨選択」して主審へと伝えてほしいというのが、システム提供側の意図であるようにも感じるわけですが…。

細谷選手のゴールは確かにルールならオフサイド。それは正しく判定されました。しかし正しいことが納得を呼ぶわけではないというのが難しいところですね。

というか、これは判定としては正しいのは間違いないんだけど、もう一つの謎のオフサイドはなんだったんだ。その時の映像が出ないから…

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