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ドキュメンタリーとモキュメンタリーの挾間(レビュー:『三茶のポルターガイスト』)

オススメ度:★★★★☆

東京・三軒茶屋の雑居ビル。そこにある某芸能プロダクションがレッスンスタジオとして使用しているフロアは、昼夜を問わず様々な超常現象が多発することで広く知られ、すでに数多くのメディアに取り上げられている。部屋中に漂う線香の臭い、誰もいない部屋で揺れるカーテンやスケジュール表、振動し、点滅する照明器具、ドン!ドン!と壁を激しく叩く音や声、水を吹き出す鏡…。トリックもフェイクもCGも一切なしのリアルなポルターガイスト現象、そしてカメラの前に人間の姿をした白い影が浮き上がり、人間が入れるはずのない場所から白い手が現われた!ホラードキュメンタリーの歴史を変える真実の記録!!

 ドキュメンタリーテイストの作品をモキュメンタリーと呼ぶことは、私のホラーレビューをご覧になっている皆さんなら(そしてこの映画を見ようとする人なら)当然ご承知のことと思う。

 私もモキュメンタリー作品は大好きなのだが、しかし、それは今では様式美となった感はある。私が初めてモキュメンタリー作品を見たのは、おそらく白石晃士監督の『ノロイ』なのだが、あの時はまだモキュメンタリーという言葉も知らなかったので、ドキュメンタリーテイストで描かれる作劇のリアリティは凄まじく、心底恐怖を感じたものである。

 だが、今の私がモキュメンタリーを見ても、あの時のようなリアリティは感じない。「ドキュメンタリーテイストで面白いな」と思うだけだし、モキュメンタリーに付き物のリアリティを出すための不要な日常要素(心霊スポットに行く前の車内でおにぎりを食べるなど)も、モキュメンタリーの様式として捉えるだけで、本来の狙いである「リアルさ」には寄与していない。

 そこで本作である。モキュメンタリーと銘打つことなく、あくまでドキュメンタリーの体裁を堅持した本作には、忘れかけていたかつてのリアリティがあった。実際のところ、本作が本当にドキュメンタリーなのか、モキュメンタリーなのかは未だに私も分かっていない。つまり、作中で発生する怪奇現象がガチなのかフェイクなのかということだが、9割フェイクだと思いながらも1割ガチだと思ってる自分の気持ちを大切にしたい……という感じだろうか。そのくらい本作は「ドキュメンタリーっぽかった」。

 あらすじにある通り、本作では検証中に怪奇現象がバリバリ発生する。コックリさんを行うと、さらに顕著に怪奇現象が巻き起こる。とてつもない再現性の高さだ。しかも明らかに物理的である。写真を撮ったらオーブが写っていたとか、白いモヤのようなものが……とかいう次元ではなく壁掛け時計が吹っ飛んだりする。霊だとすればとんでもない自己主張の激しさである。

 一番面白かったのは、マジシャン、元警官のカメラマン、不動産業者、内装屋などを招いての検証パートで、特に内装屋さんがスタジオ内のあちこちに探りを入れていく下りが良かった。室内の普段目を向けない裏面部分を探っていくうちに、何か呪物のようなものが見つかるのではないか、とか、逆に科学的に説明が付くのではないか、といった期待感を覚えながらドキドキしつつ見ることができた。

 リアリティへの寄与という点では、コックリさんで示される「霊からの返答」が大部分において意味不明瞭なところも良かった。考えてみれば、霊によるアンサーであれ、人間の無意識による動きであれ、そんなに明確に語句が紡げるわけない、というのはそれはそうだろう。ここであからさまな「霊からのメッセージ」的なものが来なかったのは、リアリティの底上げという点でかなり大きかったと思う。

 というわけで、本作は様式美となってしまったモキュメンタリーに、それが本来意図していたリアリティの風を再び吹き込んだ、という点で私は高く評価している。だって、途中まではリアルだと思って見てたんだもん。

「こういう現象が起こっている」という伝聞情報と検証過程まではリアルでやっても同じことなので、最初はドキュメンタリーだと疑わない。それに怪奇現象を映像に収めた後も「一度検証を行う」という過程を挟むことで、視聴者側に「さっきの現象を科学で否定しよう」という心性が働き、まだ「リアルなもの」として見ていられる。リアルからフェイクへの継ぎ目が非常に巧い作品、と評価しても良いだろう。

 なお、私が最終的に「やっぱモキュメンタリーだな」と思ったのは、あまりにも

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