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陰謀論基礎問題50(解答編②:政治家・選挙編、歴史編)

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解説:政治家・選挙編

問11. 「バーサー」と呼ばれる人達が主張している説では、バラク・オバマ元米国大統領がアフリカのある国で生まれたことになっています。その国はどこ?
答. ケニア

バラク・オバマの国籍・出生地に関する陰謀論は以前ドナルド・トランプが主張していたこともありニュースになったため(例:日経新聞産経新聞)、知名度はかなり高い部類に入る。重要なのは、この陰謀論では「ケニアで育った」と言われているのではなく「ケニアで生まれた」と言われているということである。この説の中でも中心となっているものでは、「オバマはケニアで生まれ、直後に飛行機でハワイにやってきたのではないか」と疑われている。

時系列自体を辿れば、その最初の誤情報は1991年の紹介冊子(ケニア生まれと記載されていた)だが、これはケニア出生説が流行し始めた時期に引用されていない。この説が流行することとなった直接のきっかけは、マケインがパナマ生まれであることが大統領資格に影響するかが議論されていた時期、UCLA法学部の教授が運営するブログのコメント欄に「仮定の話」として記入された文章のようだ。

大統領資格について議論する上での仮定の話だった、「もしもオバマがケニアで生まれ、すぐに母親に米国に連れてこられたとしたら(大統領資格に影響はあるだろうか?)」という内容は保守派のブログに取り込まれて「ケニア出生説の噂」となり拡散、やがてはトランプも言及したり、オバマの大統領資格に関する数々の訴訟が提起されるまでに至った。

陰謀論の広がりを受けてオバマは出生証明書を公開、さらにはその後手書き部分が見える原本も公開されたが、どちらにもハワイ・ホノルル生まれであることが明確に記載されていた。陰謀論者は「偽造である」「フォトショップで加工されている」と反論(都合の悪い証拠を無効化するいつもの手段である)したが、さすがに数々の証拠が出された状態では分が悪く、トランプも最終的には撤回した

問12. 2023年5月のG7の際、米国大統領として来日したのはバイデン氏でしたが、一部には「実はトランプ氏なのだ」という説がありました。この説で、トランプ氏がバイデン氏として来日する際に使われたとされる手法は何?
答. ゴムマスクを被った(バイデン氏フェイスのゴムマスクでなりすました)

あまりに荒唐無稽なので「こんなことを信じる人がいるのか」と驚く人がいるだろうが、この「ゴム人間陰謀論」は(国民的人気作品と重複するので別のネーミングであって欲しかったが、これで広がってしまったのだから仕方がない)日本の陰謀論界ではかなり広まっており、特に2021年〜22年頃には天下を取っていたと言っても過言ではない。

何しろ2022年1月9日に大規模デモを行ってこの時期の反ワクチン団体としては圧倒的な最大派閥に上り詰め、後にワクチン接種会場を襲撃して逮捕者を出した神真都Qの中心人物、イチベイが陰謀論インフルエンサーとして「成り上がった」手段こそゴム人間陰謀論であり、イチベイや甲、ジョウスターといった陰謀論インフルエンサーのフォロワーの間では半ば「常識」として知られているような状態だった。

ゴム人間陰謀論が成り上がりの手段だったのにはイチベイも自覚的だ。ジョウスター周辺のYoutuberに対するインタビューが掲載されている『世界怪物大作戦Q』にはイチベイのページも存在する。イチベイはそこで、当初は紙芝居のような動画を作っていたが全く再生数が伸びなかったこと、コンテンツを陰謀論に切り替えたところ再生数が伸び、特にゴム人間陰謀論は視聴者から強く求められていることを嬉しそうに語っている(そもそもこのインタビューに付いている見出しが「『ゴム人間』でバズって一躍人気者に」である)。

殺人未遂の前科があり、Youtubeも思うように伸びなかった元役者が「ゴム人間陰謀論」によって(一部界隈ながら)人気者に上り詰め、2022年1月9日の神真都Qデモではまるでヒーローのように扱われていた。この日のデモに集まったのは全国で約6,000人。まさに陰謀論ドリームである。Netflix『サンクチュアリ』の中で、猿将親方が「土俵には全部詰まっている。金、地位、名誉……女」と主人公の小瀬に語るシーンがあるが、神真都Qの第1回デモはまさに、「陰謀論で全てが手に入る」と思えた瞬間だっただろう。しかしその結末は、再びの逮捕と有罪判決であった。

ねとらぼの記事でも書いたが、バイデン氏はゴム人間陰謀論の発端となった人物である。2020年、照明の加減で顔と首とのコントラストが目立つ瞬間が切り取られて「ゴムマスクを被った別人ではないか」と言われ始めたのが直接のルーツであり、これが日本にも流入したところでイチベイが目を付けた。もしもゴム人間陰謀論が発生していなければ、神真都Qは違う形になっていたか、存在していなかった可能性もある。陰謀論は国境を越え、多数の人間の人生を変えるのである。

問13. 2020年米国大統領選における不正選挙陰謀論で攻撃された、カナダのオンタリオ州と米国コロラド州に本社を置く投票機器メーカーの名前は?
答. ドミニオン

この陰謀論も複数メディアで報道されたため、ご存知の方も多いだろう。「民主党の票が急増した(バイデン・ジャンプ)」や「1万人もの死人が投票していた」といった話がもっともらしく語られたが、結局どれも常識的な説明が可能で、大規模な不正が行われている証拠は出てこなかった(バイデン・ジャンプは民主党支持者が多い大都市での一括集計や郵便投票の反映、死人については主に同姓同名のマッチングミスで、ネットで出回った「死者1万人リスト」のサンプル調査では、その多くは実際には生きていた)。

この中に含まれるのが「ドミニオン製の投票機によって投票結果が操作された」というものだったが、結局明確な証拠は出てこなかった。また、ドミニオンは民主党にも共和党にも献金しており、どちらかに極端に肩入れしているとは考え辛い。
この情報を流した中にはFOXニュースも入っていたため、ドミニオンはFOXを名誉毀損で提訴。両者は2023年4月に7億8750万ドルで和解している。

解説:歴史編

問14. 「明治天皇は孝明天皇の実子ではなく、山口県のとある町出身の人物と入れ替わっている。それ以来、日本はその町出身の人物によって牛耳られてきた」という陰謀論を、その町の名前にちなんで何と呼ぶ?
答. 田布施システム

これも根強い陰謀論である。2016年の参院選で真面目に言及されたこともあり(言及したのは三宅洋平氏)こともあり、今でも一部の層における影響力を保っている。

この説は元々、「祖父が明治天皇になった」という説を吹聴し、周囲では「大室天皇」と呼ばれ変わり者扱いされていた、大室近佑という人物に遡る。この大室近佑の言を地元の郷土史家だった鹿島曻や松重楊江が受け入れ、それにインスピレーションを受けたと思われる郷土史家の鬼塚英昭が600頁近い大著『日本のいちばん醜い日』で長大な陰謀史観に仕立て上げたものが、現在広まっている田布施システム陰謀論のベースになっている。

鬼塚の著書では田布施が「朝鮮部落」ということになっており、そこから生まれた数々の有力者によって日本は牛耳られて「大室王朝」「朝鮮王朝」状態ということになっている。さらに田布施はロスチャイルド家といったユダヤ金融同盟と繋がっていることになっており、ここに来てこの陰謀論は日本を飛び出し、国際的なユダヤ陰謀論の一角に位置付けられる。ここに人種蔑視があるのは明らかであり、主に欧米における代表例であるユダヤ陰謀論と、日本における朝鮮人陰謀論が、田布施を舞台にして接続されているのである。

太古から現代までを結ぶ壮大な陰謀論曼荼羅を作り上げ、その割にWebサイトの作りがしっかりしているため時折著名人に引用されてしまう「RAPT理論」(発信しているのは愛媛の宗教団体)もその中核に田布施システムを据えており、その関係については『コンスピリチュアリティ入門』に収録されている「宗教と陰謀のブリコラージュ」(清義明)に詳しい。

また、田布施システムについてウェブで読めるものとしては、ジャーナリストの安田浩一氏による記事が充実している。

問15. 本能寺の変では信長の死体が見つからず、ルイス・フロイス『日本史』では「塵になって消し飛んだ」と表現されていることから、「普通の火事でそんなことになるはずはない、当時の新型火薬を使って爆殺されたのだ」という陰謀論があります。この説で陰謀の主体とされる、カトリックの修道会といえば?
答. イエズス会

この説はややマニアックなためヒントを多くしている。というか、「信長の時代に日本に来ていた、カトリックの修道会」という情報だけで「イエズス会」が出てくる人は多いだろう。この説は歴史作家の八切止夫が『信長殺し、光秀ではない』で主張したもので、その概要は問題文の通りである。原型を留めた信長の遺体が見つからなかったのは建物の下敷きになったからで、「塵になって消し飛んだ」というのは原田実氏が「トンデモ日本史の真相」でも指摘している通り信仰上の表現(フロイスはカトリックの宣教師)だろう。

と、常識的に考えれば「そんな馬鹿な」と思える説なのだが、八切止夫が凄いのは当時の状況から考えられるシナリオを真実味迫る筆致で描写し、「もしかしたら、あり得るのではないか!?」と思わせてくれるところだ。このあたりはXの短文や、行間が異様に開いたブログで他人の説を真似し続ける陰謀論インフルエンサーとは格が違うと言えよう。

ちなみに、八切止夫の説で恐らく最も有名なのは「上杉謙信女性説」で、その根拠もまた歴史家から厳しく批判されているが、設定として使いやすいためか様々なエンタメ作品に活用されている。

問16. 本来は対立しているはずの人物を含む、明治維新の主要人物が一堂に会して写っているとされることから、「明治維新はあらかじめ主要な登場人物によって仕組まれており、その黒幕はフリーメーソンである」といった説の根拠にされる、オランダ人宣教師を中央に据えた集合写真といえば?
答. フルベッキ写真

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