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元銀行員が63歳でパン屋を起業してわかったこと


 長年銀行に勤め60歳で定年退職し、ハローワークの職業訓練講座をきっかけに米粉パン屋を起業した。現在は野菜作りをしている。

 起業したことで、気づいたことが3つある。
・過去のビジネス経験が役に立つ
・起業はやってみないとわからない
・人との出会いが事業を広げ、人生を充実したものにする
このことを通じて働くことの意味を自分なりに理解した。

〈過去のビジネス経験が役に立つ〉

元銀行員からパン屋起業と言うと皆から驚かれる。しかし起業でやることは会社勤務と基本的に変わらない。多様な銀行業務を優先順位をつけて大量に処理した経験や修羅場での体験は、独りで何でもやる起業には得難いスキルになった。
3つの視点から考えてみる
 ・課題解決の手順
 ・コミュニケーション・スキル
 ・プロの仕事

課題解決については
  1.目標を立て、
  2.情報を集めて分析し、
  3.対策を立て、
  4.ツールを用意し、
  5.段取りをして実行する。
 その過程でさまざまな人たちと関わり、試行錯誤しながら課題を解決していく。
 会社というのは組織が既にあって、ノウハウが蓄積されていて、顧客基盤があることだが、起業はこれらを除けば会社員の時ととほぼ同じである。

コミュニケーションスキルについて
 新入社員の時は先輩や上司が居て、組織が人を育ててくれる。銀行は3年程度で転勤を繰り返すので、その都度新しい配属部署内でのコミュニケーションや、新天地での多種多様な顧客と早急に人間関係構築を求められるので、自ずと初対面の人とのコミュニケーション能力が鍛えられる。

プロの仕事について
 銀行で多種多様な業務に携わったが、同じ作業をひたすら繰り返し場数を踏んでいるいるうちに、ある時点から急激に精度が高くなってくる。別の作業でも同様に繰り返していると課題解決の方程式らしきものが身に付く。この"方程式"は業種・職種を問わず応用が利くので、畑違いの銀行員がパン屋を続けられたのだと思う。
 プロとアマチュアの力量の違いは何かと考えた時に、作業量の多寡ではないかと思う。プロは同じ作業をひたすら繰り返すので、ペースとなる基本行動に加えて異例ケースも多々出くわす。回数が多くなればパターンが把握でき、どのパターンについても安定した結果を出すことが可能となる。例えばセールス営業であれば多くの人に会い断られたケースごとに対処話法を習得するし、パン職人であれば何度も試作する過程でさまざまな不具合要因への対処方法を会得する。安易な方法で処理せずに、ひたすら同じ作業を繰り返すという時代錯誤的で愚直な非効率なやり方は、案外後から応用でき別の作業に役立つのではないかと思う。

〈起業はやってみないとわからない〉


起業して初めてわかったことは山ほどあるが、印象深いのは友人・知人の紹介による人脈連鎖(後述)と思わぬ先からのお誘いである。例えばデパート出店、小学校の総合学習協力依頼、新商品開発依頼、新聞・テレビの取材、講師や執筆依頼。
 実務面では、銀行勤務でわかっていたはずの損益分岐点の理解不足、生産能力の認識不足、固定客の確保と新規開拓の厳しさ、売れ残り商品の扱い困惑等々

〈人との出会いが事業を広げ、人生を充実したものにする〉


 銀行員時代の経験が起業の過程で役立ったことは前述したが、中でも人間関係の構築というスキルは大きい。。銀行で訓練されたおかげで、起業して出会うさまざまな人との交流がスムーズに進み、人脈連鎖が短期間で出来上がる。特に業種・職種の異なる起業では、一から始めるので業界知識やさまざまなスキルが必要になる。初対面の人と良好な人間関係を築くことで協力を得られてノウハウ習得が可能になる。また、気に入ってもらうと友人を紹介され、その友人がまた友人を紹介してくれる。やがて今度は起業を目指す人たちを応援する側になっていき、応援した人の成長を見ることが自分の喜びとなる。一般的に定年退職後は人との接点が細っていきがちだが、起業する事によって新たな異分野の人たちとの交流も生まれ、新たな刺激も得られる。

〈働くことの意味〉

 銀行に居た時は生活のために会社に労務を提供し、対価として賃金をもらうのが当たり前だと信じて疑わなかった。それは社会通念として、また法律上もそう考えるのが普通だ。しかし、会社勤めは自身の学びと成長に欠かせない体験の場だったのだと起業してから気づいた。「会社とはお金をもらって学ぶ場所」なのだと。
 起業してから働く主婦と話す機会が増え、主婦業の大変さを垣間見た。

(主婦業のスキルについての記事
〜家事・子育て・家計管理、主婦経験が起業のための武器になる理由〜はこちら)

また最近野菜作りを始めたが、気候を始めさまざま課題がある。働く内容は違ってもそれぞれの課題を解決していくには経験によって会得した"方程式"が役立つと感じている。
 定年とは、ある組織で働くことを一定の年齢で終わりにするという社会のルールだが、別の形で働くことを否定するものではない。

 働くとは、職場等で出会った人たちと関わって交流し、お互いに切磋琢磨して課題解決の方法を会得して、豊かな人生を過ごす上での、学びと成長の過程なのだと思う。

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