「信頼できない」情報の正体(2022年 読後所感 その2 『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』林智裕 著)

この本を知るきっかけになったのは、Twitterで著者の林智裕さんのアカウントをフォローしていたことにある。

私自身は福島県を訪ねる機会がなく今に至っているが、11年前の3.11東日本大震災、直後の東京電力福島第一原子力発電所の事故直後から数多の「正確さを担保しない」言説がネットを中心に飛び交う中、当時「日本はチェルノブイリになる」(!)と狂気に取り憑かれたように叫んで、他人にも押し付けてくる人がリアルのかなり近い人間関係にいて、非常に嫌な思いをした経験がある。
3.11の前から「自民党政権で改憲したら徴兵制が始まる」「原発みたいな危険なものは一切不要」「憲法9条は絶対に変えてはいけない」等とことある度聞かされてきたので心のどこかで『またか…』とウンザリしていたのもあるが、今は疎遠になった。
正直な気持ちとしてはもう近付きたくない。

その経験が元となり自称リベラルとする人々の情緒的言説には常に何かしらの疑問を持っているため、SNSでは様々な視点から多岐に渡って物事を判断している・建設的な見解を提言される方(各界著名人)を幅広くフォローするようにしている。

林さんは事故後も福島に住み続け、言われのない原発をめぐる数多の各種風評と対峙されてきた。
今までも、一つ一つ丁寧にそれらの根拠となる確かな文献が反原発界隈から提示されない点や原発をめぐる諸問題が政治的に利用されて人々を分断している点等を鋭くネット上で指摘してきた。

この本では、なぜ「風評加害」が起きどのように社会的に影響があるのか、ネガティブで不確かな情報を流し続ける人々は実は被災地の真の復興は願っておらず悲劇の舞台は悲劇のままあり続けなけてほしいと願っているのではなかろうか、など視座に富んだ論点が多く書かれている。読み進めながら思わず膝を打つ箇所が多くあった。

原発は人間の手に負えない危険なものだから今すぐにでも全て廃炉にすべき!!等の言説を見聞きする度に、原子力発電=核=戦争!(絶対悪)といった図式が人々に広く根付いているのだろうなと感じる。
核を戦争で使うことは当然のことながら愚かな行為である。だが、原子力のみならず各種軍事技術が平和的に応用され様々な形で人々の生活に変化をもたらしている現実(今こうして文章を入力しているものがネットを通じて多くの人へと共有されるのも一例として)を誰人も否定はできないはずである。

人間は不安になると、ふと心の隙間に入ってくる耳心地の良い言説に靡いてしまいがちである。偏った情報だけが流れてきやすく情緒的な情報が拡散されやすい。
だからこそ、普段から「この情報は本当に正確なのか」「論拠はどこにあるのか」「情緒的な言説だけを信じたりそれらに安易に流されない」ように常に自分をアップデートしなければならないと自戒する。

「福島は人の住めない土地」と11年経っても尚未だに声高に叫び必要以上に忌み嫌い、福島を故郷とし今も尚その土地で生きる人々を足蹴にしても平気な人間にはなりたくは無い。
大切なことは人々がもっと広く深く視座を持ち、より多くの人々が真の意味で復興できるかを考え行動実践し、イデオロギーに拘泥することなく現実をどう変えていくかだと考える。過去は変えられなくても未来は変えることができる。それが今を生きる人間の責務の一つである。

大変読み応えのある本に出会えたことに感謝。


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