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2016.4.12 ブライアン・ウィルソン Live@東京国際フォーラム

2016年4月12日(火) @東京国際フォーラム


素晴らしいソロ・アルバム『No Pier Pressure』を出した後は、特に音沙汰なかったから、ブライアンが来日して、『Pet Sounds』再現公演をやると聞いた時はビックリした。
もうブライアンは単独ライヴはやらないのだろうと思ってたからだ。
しかも『Pet Sounds』再現...14年前にもやったじゃないか。なんでまた今さら...と思ったが、『Pet Sounds』リリースから50年という区切りのいい年だからか。
正直、『Pet Sounds』再現は14年前に観てるので、個人的には『No Pier Pressure』中心のライヴが観たいんだよなあと思いつつも、まあ、ブライアンが来日してくれるからには、観に行かないわけにはいかないわけで。

ただ、ちょっとキツかったのが日程で、クラプトンの来日とほぼ同時期。
ライヴの前の予習や、ライヴ後の復習など、僕はその世界にどっぷり浸りたい方なので、できれば、ライヴとライヴの間隔は空けたいのだけど、なんとかギリギリ1週間の間隔。
さらに、2週間前にゲスの極み乙女。を観たばかりだったし、ライヴ前に気持ちを作るのが大変なんだよね。ブライアンなのかクラプトンなのか、と。
気持ちを作ってないと、せっかくライヴを観てても集中できない、気持ちがノレない、現実感がない、といった事になってしまうので。

クラプトンのチケットは僕も先行予約で獲ったように、他のロック・ファンも早くからチケット確保に動いたらしく、早々に売り切れ。
同じくロック・レジェンドのブライアンのチケットも、早めに売り切れてしまうんじゃないかしら、とドキドキしたのだけれど、安いA席狙いの僕は、先行予約ではなく、一般発売に賭ける。
で、結局クラプトンとは大違いで(笑)、僕も楽に希望通りの席を確保する事ができた。
チケットはライヴ直前まで余ってる状態、当然当日券も出る事になり、売れ行きを心配した。
ガラガラだったらどうしよう...。
あの、ビーチ・ボーイズのブライアンが来るというのに、どうしてみんなチケットを買わないんだ?
日本のロック・ファンはそんなものなのか?
売れ行きが芳しくなくて、公演中止になるケースだって考えられる...結構ドキドキしてた。
なんとか無事に来日してくれよ、と。

チケットを確保してから、今回のライヴにはアル・ジャーディンが同行する事がわかって嬉しくなった。
2012年の再結成以降、またメンバーとは袂を分かってしまったと思ってたから、アルだけでもブライアンの力になってくれるというのは嬉しい事だ。
アルがいるとなると、ブライアンのソロと言うよりも、ビーチ・ボーイズと言ってもいいよなあという気がした。
と思ってたら、急遽3月にマイクとブルースのビーチ・ボーイズ名義でのライヴが決定したり。
そんな近い時期に日本でライヴをやるなんて当てつけかよ、とも思ったけど。
まあ、そっちのライヴは僕の苦手な会場だったし、観る気はしなかったけど。

ライヴを直前に控えて、嬉しい知らせが。
いつもブログでお世話になっているryoさんが、急遽観に行く事になった、と。
今月はクラプトンにディランと大物が立て続けにやってくるので、忙しいryoさんはとてもブライアンまでは手が回らないと思ってたのだが嬉しい誤算。
当日会場でお会いできる事になった。

ネットで、ライヴのセットリストをチェックする。
どうやら、先月オーストラリアでライヴがあったらしく、それを参照。
でも僕はちょっとガッカリした。
『Pet Sounds』再現なのはいいとしても、新作となる『No Pier Pressure』からの曲もたくさんやってくれるものと期待してたのに、『No Pier Pressure』からは1曲のみ。なんだこれは。『No Pier Pressure』が軽んじられてるようで落胆。
ブライアン・ウィルソンのソロと言うよりも、見事なまでのビーチ・ボーイズのセットリストだった。
まあ、それはいいとしても、ノリのいいヒット曲中心という感じで、僕の好きな「Please Let Me Wonder」とかのメロウなバラードが少ない気がする...。
セットリスト的には、あまり大きな期待はできないようだとわかってしまった。


ネットを見ても、「無事来日した」というニュースは見つけられなかったけど、「中止になった」というニュースもなかったので、ホッと一安心で会場へ。
東京国際フォーラムは、3年前のmiwaのライヴ以来で、14年前に初めて来た時が、初めてブライアンを観るためだった。
あの時も『Pet Sounds』再現ライヴ。どうしてもあの時の思いが重なる。

会場に着いて、頃合いを見てryoさんにメールを打とうと思ってたら、ryoさんの方から僕を見つけてくれた。待ち合わせ場所とか、なんの段取りも決めてなかったのに。バッタリ会ってしまった感覚。すごい。
ryoさんとは、中止になったポール・マッカートニーの国立競技場以来で2年振り。
それにしても、ryoさんは僕より20歳くらい若いのに、僕が好きな音楽のほとんど全部を知ってるからすごい。同世代でも、同じ趣味の人を見つけるのは難しいのに。
いつもライヴは1人で参加する僕だけど、ライヴ前に友人と楽しく話ができるというのも素敵な時間だと実感。僕は独りじゃないんだ、と。
ブログを始めてからこういう機会ができるようになった。これからもこういう機会が増えるといいなあ。細々ながらもブログやってて良かったと思える瞬間。

入場して、ryoさんと別れてから、グッズ売り場をチェック。
パンフレットはどうせ後では見ないし、グッズも大したものは売ってないからと、いつもライヴではグッズはスルーする僕だけど、今回は驚いた。
Tシャツ、タオル、バッグなどが、緑や黄色、そして黒という配色で、かなり僕の好きな配色なので心が動いた。緑や黄色というのはつまり、『Pet Sounds』だからなのだけれど、それにしても、センスが良かった。かなり欲しかった。
Tシャツが一番欲しかった。あれを着て歩きたかった。だけど4000円はね。高かった。もともと全く買う予定のなかったものに、ポンと即決で4000円払えるほどの余裕はない。
タオルは1500円とリーズナブルだったけど、たぶんもったいなくて使えない。あのサイズのタオルを使うような場面もたぶん、ない。
あとでネットでいつでも買える状態にしてくれたらなあ。余裕が出来た時に買う事ができるのに。
それくらい、レベルの高いグッズが揃ってた。
どっさり買いこんでるファンがたくさんいて、羨ましかった。

14年前のここでの思い出と言えば、萩原健太さんに遭遇して、サインをもらった事。
ブライアンのライヴだから、今回も絶対に来るだろうと思ってて、もしまた会えたらサインをもらおうと思ってた。14年前はチケットにサインを書いてもらったのだけれど、それはやはり少し失礼だったから、今度こそはと、健太さんの単行本を持参していった。
それで、前回お会いした場所で、入り待ちをしてみる事に。
開演時間ギリギリまで待ってみようかなと思ってたら、開演時間15分前くらいに健太さんらしき人を発見。エスカレーターを上ってくるのを見て、やはり健太さんだ、と。隣には奥方の能地祐子さんまで。おっとこれは想定外。前回お会いした時には能地さんはいなかったから、何を話そうかまったく考えてなかった。
でも、とりあえず単行本とサインペンを取り出して...と待ってたら、エスカレーターを上がった健太さん夫妻は左へ曲がって行ってしまった。僕はエスカレーターを上がって右手で待っていたのだ。何故かというと、前回お会いしたのがその位置だったから。だから、エスカレーターを上がったら、右に曲がってくるものだと思い込んでいた。想定外!
でもそりゃそうだよなあ。前回とまったく同じ席のはずはないんだから。その可能性も考えるべきだった。
とにかく、健太さんたちは左へ進み、どんどん人混みの中へ。混雑した中でも、正面で相対する人になら声をかけやすいが、後ろ姿に声をかけるというのはハードルが高い。知り合いならともかく。
とりあえず追いかけていって、どこかで立ち止まってくれないかと期待したのだが、健太さんたちはスルスルと進んで、次のエスカレーターを上り、サッと1階席のフロアの中へ入って行ってしまった。こうなるともう声をかけるのは無理。迷惑になってしまうので諦めた。
せっかく単行本を用意していったのに無駄になった。自分のヘタレ加減に改めて呆れた。

トイレに立ち寄って、自分の席に着いたのが開演時間5分前。
僕の席は、A席2階23列73番。
通路側の席で、目の前も通路。
他人を気にする事のない、僕にとっては希望通りの良席。
2階後方で、ステージとは距離があるからか、武道館よりも広く感じたなあ。でも左右で言えば真ん中くらいの席だったし、国際フォーラムには巨大モニターもあるから、なんの不満もない。

開場時間前に、並んでる人はえらく少なくて、マジでお客さん少ないかもと心配したのだけれど、開演時間前に徐々に混みだして、ある程度の入り。
2階席は、ポツポツと空きがあって、僕の隣も空いてたけれど、なんとかまあ、ガラガラという状態ではなく、8割くらいは入ってたかなあ。
1階席はどうだったんだろ。ライヴの3日くらい前に、当日引換券でチケットを獲ったryoさんが、1階席のかなり前の方という良席をゲットしてたくらいだから、それなりに空きがあった事は想像できるのだが。

開演時間19時。
19時ジャストに、気付いたらメンバーたちは登場していた。
これにはビックリ。
ライヴは、開演時間を何分も過ぎてから始まるもの、ましてや外国人だったら遅れて始まるのは当たり前だと思ってたから、この開演時間ピッタリの登場には意表を突かれた。
だって、まだ客席の電灯も点いたままだったんだよ。普通は客電が落ちて暗くなって、みんなの歓声が上がってから登場、という流れのはずなのに。
お客さんもまだ準備ができてないうちに始まってしまった感じだった。


(第1部 Greatest Hits & Rare Cuts)
01. Our Prayer
02. Heroes and Villains
03. California Girls
04. Dance, Dance, Dance
05. I Get Around
06. Shut Down
07. Little Deuce Coupe
08. In My Room
09. Surfer Girl
10. Don’t Worry Baby
11. Wake the World
12. Add Some Music to Your Day
13. Then He Kissed Me
14. Darlin’
15. One Kind of Love
16. Wild Honey
17. Funky Pretty
18. Sail On, Sailor
(第2部 Pet Sounds)
19. Wouldn’t It Be Nice
20. You Still Believe in Me
21. That’s Not Me
22. Don’t Talk (Put Your Head on My Shoulder)
23. I’m Waiting for the Day
24. Let’s Go Away for Awhile
25. Sloop John B
26. God Only Knows
27. I Know There’s an Answer
28. Here Today
29. I Just Wasn’t Made for These Times
30. Pet Sounds
31. Caroline, No
(Encore)
32. Good Vibrations
33. All Summer Long
34. Help Me, Rhonda
35. Barbara Ann
36. Surfin’ U.S.A.
37. Fun, Fun, Fun
38. Love and Mercy


最初に結論を言っちゃうとね。
ブライアン、かなり衰えた。
いや、10年以上前に観た時も既にお爺ちゃんで、声もしわがれて、若かりし頃の美しい声ではなかったけれど、それからさらに時を経て、生で観るブライアンはさらにお爺ちゃんになってた。
声もヨレヨレで出てないし、不安定だし。
ポール・マッカートニーと同い年だから、つい比べちゃうけど...毎年ツアーをバリバリこなしているポールとは現役感が違う。比べる相手が悪いか。
もちろん、こんなブライアンの現状は想定内だったけど、でも、そんな現実を目の当たりにしちゃうとね。
前日まで『Pet Sounds Live』とか『Live At The Roxy Theatre』とかのライヴCDを聴きこんでいってたから、それとの違いに愕然となって。
すごく複雑な思いでライヴを観てたなあ。

冒頭は、なんとも儚く美しい「Our Prayer」のハーモニー。
そして「Heroes and Villains」の混沌。
この時は意識してなかったけど、『Smile』の流れだったんだね。バンド・メンバーがとにかく頑張る。

「California Girls」って、こんなに初めの方にやるはずだったっけ?との思いで観てた。もうちょっと後の方になってからじゃなかったっけ、と...僕の思い違い。

「Shut Down」「Little Deuce Coupe」と、アルがリード・ヴォーカルをとる。
この時確信した。やはりこれはブライアンのソロ・ライヴではない。ビーチ・ボーイズと名乗るべきだった、と。
それにしても、アルの声は若々しい。ブライアンとは大違いで、往年のアルの声だ。
これは『No Pier Pressure』を聴いた時にも思ってたけれど、生で聴いて実感できるとは。

次はお楽しみのバラード・タイム。
「In My Room」「Surfer Girl」と来て、次は「Don’t Worry Baby」と思ったら、リード・ヴォーカルがブライアンじゃない!知らない人がハンド・マイク片手に歌ってる!
これにはショックだった。
今回のセットリストの中では1番と言っていいくらい楽しみにしてたのがこの曲だったので、これがブライアンのヴォーカルじゃなかったと言うのは少なからずの痛手。
もはやファルセットで歌えないブライアンと比べたら、彼の方がはるかに上手く歌えてるとは思うけど、上手い・下手じゃなくて、本人かどうかを重要視する僕としては(だから僕はカヴァー曲にあまり興味が無い)、大きな問題なのだ。
で、歌ってる彼、誰だろうと思いを巡らせた。
リードをとらせるくらいだから、それなりの人物だ。ツアー・メンバーの中に、そういえば、なんとかジャーディンという人がいたのを思い出す。ジャーディンなんて名前はそうそういるとは思えないから、アルと関係があるのだろう。息子か?それならばリード・ヴォーカルをとらせる理由にはなる。だけどあまりアルと似てない。僕の思い過ごしか。
その後は、この彼に注目していた。
前半はあまり気付かなかったけど、ライヴが進むにつれ、特に『Pet Sounds』のコーナーでは、ブライアンに代わって、ヴォーカルの一部、特にファルセットを担当していた。
これがまた結構な活躍の熱唱で、このライヴのサウンドの重要な部分を担っていた。
で、誰なんだろうとずっと思っていて、アンコール前のメンバー紹介では、やっぱり、なんとかジャーディンと紹介されてた。ファミリーという言葉も聴きとれた。
やっぱりアルの息子なのではないか?と思いを強くしたのだが、帰宅して、ネットで調べたらやっぱりその通りだったという事が判明した。

アルが歌うほんわかとした「Wake the World」、なんの曲だっけかな?としばらく考えていたけど、ああそうか、『Friends』だ!と思い出した。
次の「Add Some Music to Your Day」と続くこの流れは温かい雰囲気で良かったなあ。

またもやアルの「Then He Kissed Me」となってるけど、ビーチ・ボーイズ版は「Then I Kissed Her」だよね。
この時、どちらの歌詞で歌ってたか確認し損ねてしまった。

次の「Darlin’」は、ワンダーミンツのダリアン・サハナジャのヴォーカル。ダリアンは、14年前のライヴの時からずっとブライアンを支えていて、このバンドの核だと思っていた。
すごく信頼していたので、今回こうしてスポットライトが当たったのはいい事だと思った。

そして楽しみにしていた「One Kind of Love」。
新作『No Pier Pressure』から披露される唯一の曲だ。
もちろんいい曲なんだけど、このアルバムには他にもいい曲が一杯あって、それらをもっとたっぷり聴きたかったなあという思いが強く。
まあそれでも、ほとんどがビーチ・ボーイズのナンバーだったこのライヴで、とりあえずブライアンのソロの新曲を取り上げてくれて良かったかな。

第1部の最後でスポットライトを浴びたのがブロンディ・チャップリン。
ブロンディ在籍時代のビーチ・ボーイズには疎い僕なので、この人の事はほとんど知らなかった。ストーンズにも関わっていたって事も後で聞いてビックリ。
それで「Wild Honey」「Funky Pretty」「Sail On, Sailor」と3曲も。
ブロンディはなかなかハードなギターも弾いたりして、ちょっと空気が変わった。ブライアンの音楽とは違うなあ、と。
「Wild Honey」と「Funky Pretty」は一応CD持ってる曲のはずだけど、あまり聴きこみが足らないせいか、こういう曲だったっけ?という感じで。
ラストの「Sail On, Sailor」はちゃんと知っててなかなかのグルーヴで好感。
ほとんど知らなかったので、どうでもいいと思ってたブロンディだったけど、なかなか良かったよ。

こうして第1部終了。あっという間だった。
あれ?終わるの随分早くない?まだ3、40分しかたってないんじゃないの?と思ったけれど、きっかり1時間たっていた。

ここで20分の休憩。
ロックのライヴで休憩が入るのは結構珍しい事だと思うけれど、ブライアンのライヴは前からそうだった。
眠くなってしまうのを避けるためにも、気分転換で2階から1階まで降りて歩く。すると、ryoさんと奇跡的に再会。あんなにお客さんがいる中でバッタリ会うなんて。ここまでの感想を話したりする。

いよいよ第2部、『Pet Sounds』再現コーナー。

冒頭の「Wouldn’t It Be Nice」。
キラキラのイントロに導かれ、「♪ ウ~ッディッビ...」と始まると思ったら、ヴォーカルがブライアンじゃなくて、ガクッと来た。
なんだよ、これもブライアンじゃないのかよ。スタジオ盤の綺麗な声はもう出ないのはわかってる。しわがれちゃった声でもいいから、ブライアンの声で聴きたかった。
で、ここで不安になる。
第1部の様子といい、ブライアンがリード・ヴォーカルをとっている曲は今回かなり少ない。もしかしたら、『Pet Sounds』コーナーも、ほとんどブライアン歌わないんじゃないか?と。

でもまあ、そんな心配は杞憂に終わり、ブライアンはそれなりに歌っていた。
しかし、ブライアンの歌はとにかくおぼつかず不安定。メロディがかなり崩れていあやふや。
大丈夫かなあ、ブライアン、がんばって!

だから、ブライアンの出番のないインスト「Let’s Go Away for Awhile」「Pet Sounds」はホッと一息つけたりしたのだけど。
これらのインストに限った事ではなくて、全体的に言える事だけど、バンドの演奏力は確かなもの。変なアレンジは施さず、オリジナルの音源を忠実に再現したサウンドは、聴いてて違和感のない、素晴らしいものだった。

アルが歌う「Sloop John B」、もともとこの曲が取り上げられた経緯にアルが大きく貢献している事もあって、この曲をアルの声で聴けたと言うのは収穫。

オリジナルではカールが歌ってた「God Only Knows」だから、これもまたブライアンとは別の人物が歌うのでは?と危惧したけれど、ちゃんとブライアンが歌ってくれて安心。
この世紀の名曲は、作ったブライアンが歌い継いでいかないとね。
今回も、この曲紹介は「ポール・マッカートニーのお気に入りの曲」という言葉。これも恒例になっているけれど、よほど、ポールが気に入ってくれた事が嬉しいんだろうなあ、と。

でもやはり、『Pet Sounds』の流れは最強・最高だと改めて実感する。
この流れ・曲順で聴けると感慨もひとしお。

ラストの「Caroline, No」、歌い終わったブライアンは、まだ演奏が続いているというのに、さっさと(というか歩きはヨボヨボだけど)ステージを下りていってしまうのはウケる。もう行っちゃうの、ブライアン!

前回の『Pet Sounds』再現ライヴでは、「Caroline, No」が終わった後に、すぐ「Good Vibrations」になだれ込んだけど、今回はアルバム再現通りに「Caroline, No」で一旦終了。

アンコールでは、メンバーひとりひとりが紹介されながら出てきた。
そして「Good Vibrations」。
冒頭の「♪ Ah~」だけで歓声が凄い。

近年どんどん好きになっていく「All Summer Long」。

再びアルがパンチのある声を聴かせる「Help Me, Rhonda」。

ブライアンのライヴは以前もそうだったけど、その客層・雰囲気から、観客は座ったままで観ているものになるとわかっていた。
座って観られるのは楽な反面、眠くなってしまうのではないかという不安もあったのだが、今回はなんとか持ちこたえる事ができた。ちょっとヤバイかなあと思い始めた瞬間もあったけど、意識が飛ぶような事はなかった。
で、今まで座って観ていたお客さんたちも、このあたりでは1階席はみな立っていたようだった。2階席でも、チラホラ立っている人が増え始めた。
アンコールの定番となっている「Barbara Ann」「Surfin’ U.S.A.」「Fun, Fun, Fun」という流れでは、お客さんの興奮状態もMAXだった。
みな一様に体をフニフニさせて踊っていた。

ラストはメロウなバラード「Love and Mercy」でしっとりと。
ブライアンのソロの幕開けを飾った代表曲で〆だ。
ああ、これでブライアンを観るのは最後かもなあ、と、その姿をしっかり目に焼き付けておこうと思った。名残惜しかった。


14年前の『Pet Sounds』ツアーは、ブライアンは頑張って歌い通しだった。
いかにもブライアンのソロ・ライヴという感じで、それはライヴ盤を通しても実感できる。
しかし、今回のライヴは少し違った。ブライアンは歌い通しではなかった。
リード・ヴォーカルを完全に他人に任せてしまう曲も結構あったし、基本的にはブライアンがリードでも、ここぞという所でアルやマットにチェンジしたりと、結構ツギハギがあった。ツギハギと言うとちょっと言葉は悪いかもしれないけど、なんかそんな言葉がしっくりくる。
で、誰も歌ってないパートとかもあった。あれ?ここではヴォーカルが入るはずなんだけどなあ、と何度も思った。他のメンバーのマイクがオフになってるのかなあとも疑ったが、たぶん、ブライアンが歌い忘れているだけだろうとの結論に。
そんな感じで、ブライアンが歌い通しでなくて、他のメンバーがかなりサポートしている所もそうだし、終わってみれば、ブライアンのソロからの曲はたった2曲!で、ほとんどがビーチ・ボーイズ・ナンバーだった事もあり、今回のライヴは、ブライアンのソロと言うより、ビーチ・ボーイズだよなあ、と強く思った。

前回の『Pet Sounds』再現ライヴの時は、わずかながらも、ブライアンが立ってベースをプレイする姿を見る事ができたのだけれど、やはりと言うか、今回はベースを弾く姿は無し。キーボードを少しいじるのが精いっぱい。
ブライアンに無理させちゃダメ!という所だろうか。

ブライアンの明らかな衰えを実感させられたという意味では、やはり前回の『Pet Sounds』再現ツアーとはかなり観た感想も違う。
あの時はブライアンを観るのは初めてだったし、不安が大きかったから、思ってたよりもブライアンやるじゃん!と感動もしたのだけれど。
それで、ryoさんにも「ビーチ・ボーイズよりも感動できる事を保証しますよ」と断言してしまったのだけれど、ちょっとその発言は撤回というか、微妙な感じだな。ryoさんガッカリしてなければいいんだけど。
ryoさんに限らず、ブライアン、ビーチ・ボーイズ初心者にはお薦めできないライヴだったかもしれない。
『Pet Sounds』の伝説を期待しすぎたり、ロック・レジェンドのブライアン・ウィルソンという名前くらいしか知らない若い人たちの中には、ちょっとガッカリした人もいるかもしれない。
フロントのブライアンが、あの程度のパフォーマンスしか出来なかったという事を考えるとね。

だけどだけど。
だからと言って、ブライアンを責める気にはなれないんだよ。
だって、いろいろあったもん、ブライアン。
精神を病んで、廃人寸前までいってたんだもん。
それを思えば、こうしてある程度元気に、遠い日本までやってきてライヴをやれてるというのは奇跡なんだよね、やっぱり。
ブライアンの衰えを、バンドのメンバーが一生懸命サポートしてるのが伝わってくる。
お客さんたちも、ほとんどが、そんなブライアンをわかった上で温かく見守る。
ブライアンが人前でパフォーマンスするだけでありがたいと思える。
そんな、みんなで温かい空間を作り出しているライヴだった。
もう73歳だから、またさらに何年後かに日本に来てライヴをやるというのは考えにくい。
あったとしても、さらにまた衰えてる事だろう。
だけど、その時はまた、僕はきっと観に行くだろうと思う。

最後まで読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけましたか? もしもサポートしていただけましたら、今後もライヴをたくさん観て、がんばって感想書きたいと思います。