生きるためのカレー
過去10年で最大の危機だ。
大阪の八尾で10年間、飲食店を営んできた。名前はCafeBarDonna。業務形態は「バー」。一言だけ言わせてほしい。
「コロナウィルスのくそったれ」
4月13日、大阪府は新型コロナウィルス対応の緊急事態宣言を受けて、娯楽施設などの休業要請などを請け負うことを正式に発表した。対象はキャバレー、ナイトクラブ、カラオケボックス、そしてバー。僕たちのことだ。
14日の午前0時からの休業が求められた。つまり、今日から僕たち「バー」は、店を開けることができない。にも関わらず、国はそのための資金を用意してはくれない。東京都はその休業要請に従って、実際に休業した店舗に対しては協力金(感染拡大防止協力金)として、1店舗50万円を支払うと発表した。
ところがの吉村府知事は「大阪府にはそのようなお金はない」と言った。つまり、休業している間、店の収入は0ということだ。まじめに税金を納めてきたのに、誰も助けてくれない。家賃、人件費だけで簡単に潰れる。そんな中、安倍さんはアーティストの音楽をBGMに、優雅に犬を撫で、茶を飲み、本を読んで、国民の自粛協力に対して心より感謝申し上げていた。
これは想像力の問題だ。明日の生活がどうなるのかわからない人たちの前で、(決して狭いとは言えない)広い部屋で、優雅に過ごす映像を流すことがどういうことなのか。彼は国民の生活を想像したことがないのだろう。
踏みにじられたような気分になった国民は山ほどいる。明日、路頭に迷う可能性がある中、汗をかいて生活している人間なんて存在しないことになっている。くそったれはコロナウィルスだけにしてほしい。
一先ず、言いたいことは言った。ここからは建設的に考えていかなくちゃいけない。弱音ばかりを吐いていてもどうにもならない。府を頼ることも、国を頼ることもできない僕たちは、自分たちの力で生きていかなくちゃいけないんだ。
2月から客足は遠のき、赤字が続く中で店の体力は削られていく。死ぬわけじゃない。でも、僕たちはたくましく生きていかなければならない。ずっと店を守ってきた店長の伊藤充は、昨日、電話の向こうで声を震わせて「こわいです」と言って泣いていた。
店が潰れたわけじゃない。最悪、ダメなら潰せばいい。別の方法を考えるしかない。生きていくために。まずは、できることから形にしていく。テイクアウトや宅配で酒を提供するのは難しい。ならばいっそのこと酒はあきらめる。バーがダメなら、昼間の時間に別の何かを提供しよう。
そこで、僕たちはカレーを出すことにした。昨日から伊藤は一睡もせずにカレーを試作を続けている。優秀なバーテンダーだからおいしいカレーができるはずだ。同時に、このカレーはあのくそったれコロナのせいでできた特別な商品だから、10年間バーを営んできた僕たちの矜持で最高においしく仕上げてやれ、と思った。
ネーミングはどうしよう。
コンロの火を見つめながら、カレーがぐつぐつ泡を吹く音を聴きながら、そして、この文章を書きながら思った。カクテルをつくったり、料理したりする中で、言葉では理解できていても、今までは実感としてなかった。今、目の前で起きていることは、生活を続けるための行為だ。そう、これは「生きるためのカレー」だ。それをそのまま名前にすればいい。
ただ、一つ重要な問題が発覚した。なんて僕たちは愚かなんだ!こんなことに気付かなかったなんて!
炊飯器がない。
もし、「炊飯器を譲ってくれてもいい」という人がいたら連絡をください。お返しは、感謝の言葉と今のところ「生きるためのカレー」を贈ることしかできない状況です。ごめんなさい!
CafeBarDonnaと店長の伊藤充を少しでも応援してくれる人は、サポートをいただけるとありがたいです。店の運営資金と店長の伊藤充に渡させていただきます。
僕たちは、飲食店としてコロナと闘います。
(※この文章はCafeBarDonnaの嶋津亮太が書いています)
【追記】
この投稿を見て、ふむふむさんがアドバイスをくださり、別の支援のページのつくり方も教えていただきました。そちらの方からもご支援いただけます。ふむふむさんが代行して案内をしてくださっています。みなさん、本当にありがとうございます。
店の運営資金と店長の伊藤充へ渡します。