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日本で食べるマクルーバ②東京・十条「ビサン」

先週から始めたマクルーバの食べ歩き、2回目は東京・十条の「ビサン」に行った。夜6時頃、十条駅を降りると、蜘蛛の巣のように伸びている商店街は、買い物客でにぎわっていた。ネパール、バングラデシュ、ガチっぽい中華料理の店なども多く。伝統的日本と外国が混在している不思議な街だ。ビサンも、なかなか個性的な店構え。オーナーシェフのスドゥキさんはヨルダン川西岸ラマッラ近郊の村出身なので「パレスチナ料理店」といっていいだろう。ビサンは、スドゥキさんが、風景が好きだという現イスラエル領の地名だそうだ。

食べた順番とは違うが、まず、マクルーベのことから。ワインを飲みながら前菜をつまんでいると、厨房から「マクルーバできたよ」という声が響く。この日のメンバーの4人は浮足立つ。比呂啓さんは動画、私はスチールと撮影の役割分担を決める。マクルーバが入った鍋に、皿がかぶせられて登場。中身は野菜、肉と一緒に炊いたご飯。テーブル上でひっくり返す店員さん。マクルーバはアラビア語で「ひっくり返されたもの」の意味でもあり、やはりこの瞬間が、ある意味クライマックス。

ビサンのマクルーバ

使っている肉は鶏。ご飯をほぐすと中からデカいもも肉がごろごろ出てくる。米にも鶏ダシが浸透していて味わい深い。食べ歩き第1回目の「ザハラー」は長粒米だったが、ここは日本米を使用。粘り気があるので、皿に乗せられたマクルーバは、ケーキのように固形化している。スパイスはほとんど使っていないようで、柔らかな鶏と野菜のダシがきいた味わいは、まさに炊き込みご飯を思わせる食感と味わいだ。鍋の底、つまり料理の表面には、スライスしたナスがびっしりはりついている。内部にじゃがいも、ニンジンなど。ひっくり返したあとで、スライスアーモンドをシェフみずから振りかけてくれた。

大きな鶏肉が中からゴロゴロと

マクルーバの前に食べた冷前菜も充実していた。ひよこ豆ペーストの「ホンモス」、ナスを使った「ババガヌーシュ」と「ムタッバル」。さらにバルカン半島の「アイバル」を思わせる赤パプリカを使ったペースト。唐辛子、キュウリのピクルス。オリーブ漬けなども小皿に盛られて登場。これでもか、とという感じ。薄型パンですくって食べた。

バラエティーに富んだ前菜

サラダは、パレスチナを含むシリア地方でポピュラーな「ファットゥーシュ」だった。大きめの揚げパンがてっぺんにのっていて、ザクロの粒も散りばめられていた。前菜のババガヌーシュ(ナスのディップ)にもザクロが散らしてあった。現地感を醸し出すための、細かな、心にくい演出だ。

ファットゥーシュサラダ

ヨーグルトの酸味がきいたスープに餃子のような具が入っている料理は「シシバラク」。トルコのマントゥにも似ているが、「餃子」が大きい。これを日本で食べられるところは、それほどないのではないか。

シシバラク

デザートは4人でワンプレートだった。真ん中の楕円球の麺のかたまりには、中にとろーりとしたチーズが入っていた。やはり中東のお菓子である「クナーファ」に似ているが、そうではないという。まわりには、バクラヴァとデーツあん入りの「マアムール」が脇を固める。見た目にも楽しい一品だった。

4人で食べたデザート

食後のドリンクはセージ茶。すこし苦味のある味が、満腹のお腹にやさしかった。砂糖なしで飲んだ。

セージ茶

店内インテリアも凝っている。アラファト議長の写真などパレスチナに関係したものや、世界各国の紙幣などがところ狭しと展示されていて、客を飽きさせない工夫が凝らされている。兄が営んでいた埼玉・西川口の店から合わせると、20年近くにわたって日本でレストラン業を続けている秘密は、料理とインテリアの創意工夫をみると納得できる気がする。

ビサンの店内

さいごに。日本のアラブ料理レストランでマクルーバを食べるには、少なくとも4人以上のまとまった人数で行く必要がある。1回目の「ザハラー」は5人、今回は4人で行った。食べ歩きを今後、持続させていくためには、「マクルーバを食べてみたい」という人を募る必要がある。参加してみたい、という方は、メールやDMで、気軽にご連絡ください。

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