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野生動物のたくらみ

都会からいらしたお客様から、たびたび聞かれることがあります。

「ここにお住まいなんですか?」

わたしが「そうです」と答えると、「お買い物はどこへ? 病院は? 学校は? さぞ不便でしょう?」と、ほとんどの方がおっしゃいます。
暮らしている身としてはさほど不便を感じていないのですが、考えてみれば信号もコンビニもない山の中、都市生活者から見れば当然の疑問です。わたし自身、東京で暮らしていた頃はずっとそう思っていたのですから。

そして、さらにお客様はおっしゃいます。

「もしかして、この辺りはキツネやタヌキもいますか?」

ええ、いますとも! わたしは答えます。
「いやもう普通にいますよ。キツネもタヌキもリスもフクロウもイノシシも、しょっちゅうその辺りをウロウロしてます」
すると、「えー!」という歓声に近い声を上げるお客様。

それから、

「まさか、クマは出ないでしょうね?」

とお客様。
わたしが、
「はい、出ます。毎年近所で目撃情報があるし、うちの庭にも来たし、お隣の木にも登っていたし、何度か見たことがあります」
と言うと、今度は悲鳴に近い「えええー!!!」という声。
大変盛り上がります。

そこで、わたしは続けて言いたくなります。
「実は、私も本当はタヌキなんです」
という一言を。
ああ、言ってみたい。

きっと森の動物たちが、そう言わせようとしているのです。人間が、動物の存在を忘れているようだから。

でも、いつも頭の片隅で考えます。
自分はこうして森に暮らしていいのだろうか。動物たちにとっては、人間なんていない方が幸せだろうなあ、と。

あ、わたしは、本当にタヌキなわけではないですよ。

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