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謎の白いデザート

夫と二人で、ビュッフェスタイルの食事をした時のこと。

食事の終盤で夫が、何やら白いものをこんもりと器に載せて来ました。
固体と液体の中間の様なその白い物体を見て、わたしが「ざる豆腐?」と尋ねると、「いや、スイーツコーナーにあったから、ヨーグルトかなと思って」と夫。
よく見ると、器の底には彼の大好きなパイナップルがたっぷりと埋まっています。
(ヨーグルト? にしては、ちょっと色が濃い。杏仁豆腐かパンナコッタかなあ)とわたしは考えます。
そして夫が嬉しそうにスプーンですくう様子を眺めながら、(やけに粘りがある。トルコアイスか?)と訝しむわたし。

すると一口食べた夫がすぐにスプーンを持つ手を止めて「何だろう、コレ……」と呟きます。その白いものが何なのか、食べてみてもわからない様子で、さらには「コレ、食べても大丈夫なのかな?」と不安げにこちらに差し出します。
そこでわたしは、恐る恐るほんの少しだけ、ペロッと味見……。

なんだこれは。
確かに、不思議な味です。
甘味があるからスイーツらしいけど、妙に粉っぽくて、何よりまったく美味しくない。でも、傷んでいるというわけではなさそう。

その感想を伝えると、「傷んでないなら、まあ、いいか」とそのまま食べる夫。
「イヤ絶対止めた方がいい」と止めても夫が聞かないので、その白いブツが何なのか、わたしはスイーツコーナーに確かめに行きました。
すぐに、大きなボールに入ったその白いブツ発見。
確かにスイーツコーナーにあり、近くにはフルーツのお皿が並んでいて、夫が入れたパイナップルもある。

ただし。
白いブツ入りボールの隣には、ワッフルメーカーが鎮座していたのです。
そう、これは自分で生地を流し込み、焼きたてワッフルを作るシステム。
そして夫が食べているのは、焼く前のワッフル生地。

(わああああ! 生のワッフル生地、食べてる!)

踵を返し夫の待つテーブルへとダッシュするわたし。
これ以上食べさせてはならないという焦りと、どうにも滲み出てしまう笑いと闘いながら、家族連れでにぎわうテーブルの間をわたしは走りました。
焦りと笑い、両方を早く伝えたい思いで足がもつれそう。

そしてまだ食べている夫に、「それ、焼く前のワッフル生地! 食べちゃだめ!」と伝えると、「えええ!」とさすがに驚いた様子。

恐るべし、生の生地を食らう男。
恐るべし、ワッフルメーカーが目に入らない男。

さらに生の生地だと判明した後も、「なんかもったいないな」と手元に残った器を名残惜しそうに手にしています。
とにかく大好きなパイナップルを、グルテンの海から救い出したい模様。
それを必死で止めながらわたしは思いました。
腐ってないなら、傷んでさえいなければ、残さず食べようとするこの姿勢。
わたしの作る料理をいつもモリモリと食べてくれる夫ですが、あれは別に「美味しい」からじゃなくて、「もったいない」からなのか。
あるいは「腐っていない」からなのか。

でもまあ、妙に味にうるさいよりは楽かなあと、嬉しいような嬉しくないような、複雑な気持ちになった夜でした。

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