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コバシ君との闘い

標高1100mの高原にあり、駐車場も10台分ある当店では、除雪機が必需品です。
現在使っているのはヤナセの中古16馬力で、それに至るまでに16年間で計6台の除雪機(すべて中古)を使ってまいりました(なぜそんなに何台もの除雪機遍歴があるのかは、また別の機会に)。
そして、最初に使った初代の除雪機がコバシの20馬力で、名前を「コバシ君」と付けておりました。
さて、この初代コバシ君、わたしとの相性が最悪だったのです。

「コバシ 除雪機 20馬力」で画像検索すると、黄色い大きな除雪機が出てきます。
「20馬力」と言われても、除雪機に馴染みのない皆様にはピンとこないと思いますが、軽自動車に近いサイズです。

今思うと、除雪機初心者で二段ロータリーのこの大きさの、しかも中古を使おうなんて、その時点で何か間違っていた気がします。
当時のわたしは、除雪機を運転する作業なんて、自分の仕事じゃないと思っていたのですね。
そして、すぐに自分の仕事としてやるしかない状況に陥りました。

もともと機械音痴のわたしは、大きくて古くて、ずっしり重そうなこの鉄の塊が、なぜ動くのかすら理解不能。
でも、扱いを間違えたら超危険ということだけはわかる。
とても古い型だから、安全装置はけっこうユルユル。
だから、生まれて初めて扱う除雪機、しかも特大サイズのコバシ君を前にするだけで、もう恐ろしくて腰が引けていました。

「アンタなんかにこの俺を操作することができるのか?」

と、コバシ君に言われているような気がしたのです。
及び腰で立ち向かいながらも、そう言われるとこちらも(言われていないのですが)、

「操作したくてするんじゃないの。もっと小ぶりの新品がいいに決まってる!」

と、敬意を欠いた心持ちでエンジンキーを差し込みます。
ディーゼルだから、すぐには始動してくれません。
ヒーターが赤くなるまで、キーをひねってそのまましばらく待たないといけないのです。

わたし:「まったく年寄りはこれだから困る。エンジンかけるのにも時間がかかるなんて。寒いんだけど」
コバシ君:「そんな態度じゃ、すぐには動く気になれんな!」

こんな感じで動き出す前から小競り合い。
「ブルルン」と音がしてコバシ君がやっと体を震わせてくれたら、さて操作。
と思っても、操作パネルは古くて錆びてて、文字や数字はみんな消えています。
そこで、シーズンはじめにメモしておいた紙を取り出し、

 「これが走行レバーで、こっちがクラッチ。投雪方向操作はここで……。あれ? このレバーはなんだっけな」

と、その場で毎度復習です。
すると、コバシ君が小馬鹿にするように笑います。

 「ブルル~ン!」

やっとのことでコバシ君を操作して雪を飛ばすと、今度はトボトボトボ……と吹き出し口から力なく落ちる雪。
湿った雪が吹き出し口に詰まります。
エンジンを止めて、ロータリー(回転刃)と吹き出し口に詰まった雪を、棍棒や手で掻き出すのですが、これを5分置きにするはめに。

わたし:「何回詰まってんのよー! こんなおっきいくせに、遠くに飛ばすパワーがないなんて!」
コバシ君:「スロットルが低すぎるんだよ! この素人が! でも教えてあげないっ」

そんな調子で開店時間前に除雪が間に合わず、焦ったわたしはクラッチを使わずに強引にギアチェンジ。
ベルトが切れて、修理業者さんへ運ばれていくコバシ君……。


このように、コバシ君は、だいたい2回使うと1回動かなくなりました。
急に動かなくなって、義兄を呼んで始動してもらったら問題なく動き出したこともあります。
なんてイジワルな除雪機!
いえ、多分わたしの扱い方が悪かったんでしょう……。

エンジンがかからなくてご近所さんを呼んだら、鍵穴が凍り付いただけということもあったし、わたしがちゃんとキーを戻し切っていなかったためにバッテリー切れだったこともありました。
バッテリーとか、意味不明なんですけど。
やはり急に動かなくなって修理業者さんを呼んだら、ただの燃料切れのこともありました。
だって、燃料の残量目盛すら無いんだもの!
業者さんには「およそ6時間使ったら給油して」と言われ、「除雪機ってそういうものー?」と驚きました(新しい除雪機には残量目盛はあります)。

独りで山に暮らした3年間、除雪機にかかわることだけでも、どれだけ多くの人々に助けてもらったか……。
いや、今もですね。


除雪機を使い始めて16年。
だんだん自分で工具を使ってシャーボルト交換やヒューズの交換等ができるようになり、動かなくなった時の車での牽引方法まで教わり、現在のヤナセ16馬力に至っては、初運転から誰にも教わらずに独りで始動することができました。
そして、今は使用前には必ず「今日もよろしくね」と声をかけ、使用後には丁寧にロータリーに付着した雪を落とし、「今日も助かったよ、ありがとう」という労いの言葉を忘れません。

そんな得意げな今のわたしは、初代コバシ君に対していかにヒドイ扱いをしていたか、今更ながら反省しています。
機械に詳しい人々に言わせると、コバシ君は古くてもとんでもない名機であるとのことですから、きっと今もどこかでまだバリバリ働いているのでしょう。
黄色い大きな除雪機との格闘を、遠い目をして思い出す冬の朝です。

現在のわたしの相棒、赤い「ヤナセちゃん」です。
ヤナセちゃんによって除雪された玄関と朝陽
除雪しない裏庭。
枝に積もった雪が時おり風で舞い落ちるもいとをかし。


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