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自家焙煎珈琲店でペットボトル入りコーヒーを作るには


毎年ゴールデンウィークが終わると気分が沈みはじめる。
この時期から売上が落ち込んでくるからだ。
毎年のように「今年こそは夏の売り上げを挽回するぞ!」と意気込んでいるが、いまだに効果的な策は見つかっていない。

去年からパフェを始めた。
今まで「この顔でパフェを出すってのもなぁ、、」と踏み込めないでいたが、スタッフも増え(固定費激増!)危機感が増したのも後押しした。
幸いパティシエのNさんが考えてくれるパフェはどれも魅力的で、今まで若い人のスイーツというイメージを持っていけど、ウチらしい(?)ちょっと大人のスイーツになっている。
お客さんからの評判も良く、決断して良かったと思う。

しかし、まだまだ繁忙期の売り上げに比べ落ち込みは大きく、その差を埋めるまでには至っていない。
これに満足せず第2第3の策を講じなくてはと目をつけたのが、やはりアイスコーヒーである。

そもそも季節を通じて客単価に変化はそれほどない。
客数が大きく減っているのだ。
特に影響するのはコーヒー豆を買いにくる人と、焼き菓子を買いにくる人が激減するので持ち帰り消費分が無くなり、全体の売り上げを落としているのだ。
夏にアイスコーヒーはよく売れる。ただし、これは店内消費分の割合での話だ。相対的に夏のお客さんが増えるわけでは決してないのである。
さらにご家庭に目を向けると豆を買って帰り、ドリップして氷で冷やしてアイスコーヒーを作る人はほとんどいない。
これはホットコーヒーと比べても圧倒的に少ない。
その気持ちはよくわかる。
クソ暑い日に汗をかいて喉はカラカラ、「さあ、お湯を沸かしてアイスコーヒーを淹れよう」なんて思うヤツはどうかしている。
冷蔵庫をガバッと開けて冷えた飲み物を一気に飲み干すのが通常だろう。
この時、冷やしてあったアイスコーヒーを飲む人ももちろん多くいるだろう。しかし、このほとんどはリキットのアイスコーヒーだ。
そして冷蔵庫にはお茶にカルピス、お中元で頂いたジュースなどがひしめいており、この戦いの競争は実に激しい、、、。

されど!
夏の水分補給の多さを考えれば需要はあるはず!
飲んでも飲んでも汗となって消費されていく、この無限ループにウチのアイスコーヒーが潜り込めれば一気に夏は繁忙期へと変わる!
そう考えると胃か腸のあたりがキュッとなる。


「アイスコーヒーなんてペットボトルに詰めて、冷蔵庫で冷やして売ったらいいだけじゃないの?」(想像の世間の声)
これだから素人は困る。っていうか私も最初はシンプルにそう考えていた。
しかしここで疑問が湧いてきた。
提供方法と許可についてはどうなっているんだろう?
オーダーが通ってからドリップして容器に入れて提供するのは「テイクアウト」、これはどこでもやっている。
実際に飲食店営業の許可で可能な範囲だ。
では、あらかじめペットボトルに詰めて用意したものを冷蔵保存して販売するのはOKか?
不安に思ったので役所に電話で問い合わせてみた。
すると、「う〜んそれは誤解をまねきやすいですよね〜」という回答。
「あの、良いのか悪いのか聞いてるんですけど、、、」
「いや、そういうのに入っていたら日持ちがすると思われて食中毒にでもなったらどうします?」
(ダメだこいつは。そんな主観的なことを聞いてるんじゃない。ルールとして良いのか悪いのかを聞いてるんだ。)

ということで、後日役所に行って直接聞いてみた。
すると、容器自体はプラカップであれペットボトルであれ問題はない。
ただし、ペットボトルの場合は誤解を生みやすいので、わかりやすく賞味期限表示など付けた方が好ましい。(義務ではない)
作り置きも問題はないそうだ。
「だって喫茶店のアイスコーヒーなんて冷蔵庫に作っておいたやつをグラスに注いで出しているじゃないですか?」(対応した役所の人)
なかなか物分かりが良いが最近じゃそんなお店も減ってるぜ、と思ったが口にはしなかった、大人の対応というやつだ。
しかし、ここで注意がつく。
「これはあくまで対面販売のケースです。オンラインでの販売や卸販売等は不可です。それをするには清涼飲料水製造の許可が必要になります。」
、、、清涼飲料水?反射的にポカリのCMを思い浮かべた。
なぜスポーツドリンクの話をここで?と思った方は私と一緒で視野が狭い。
アルコールや乳飲料を除く飲み物はだいたいこれに含まれるのである。

しかし困った。テイクアウトは以前からやっているが大した売り上げにはなっていない。今回は売り上げを伸ばすためにも新しい販路が必要だと考えている。
前述した通り、いつも冷蔵庫の中でスタンバイしており、喉がカラカラのタイミングでゴクゴクいってもらう。この状態に持って行きたいのである。
京都の夏は暑い。35度を超えれば店の前の人通りもほとんどなくなる。
なんせニュースでは「危険な暑さなので外出は控えるようにしてください」なんて言ってるもんだから、われわれ待ちの商売には営業妨害なんじゃないかと思えてしまう。
「暑いとアイスコーヒーがよく売れるでしょ?」と言われることがあるが、実際には危険な暑さを省みず、わざわざアイスコーヒーを飲みに行くなんてことはない。涼しい家でじっとしてれば大して喉も乾かずにすむのである。
それが通用するのはショッピングのついでに立ち寄ってもらえる繁華街のお店だけだ。
だからなんとしても『家庭内ですぐ飲めるアイスコーヒー』が必要なのだ!

清涼飲料水製造を検討してみよう。
家に帰ってからそういう気持ちが湧いてきた。
周りでこの許可を取って商売をしている人はいない。おそらくハードルが高いのだろう。
しかし昨今、クラフトビールなんかは個人で製造販売している人も見受けられる。ハードルが高いということは参入障壁も高い。うまくいけば市場を取れるのではないか?そんな期待が高まってくる。
ちなみに私はハードルが高ければ高いほど燃えるタチだ!!という事は全くない。

役所に清涼飲料水製造の許可を取るにはどのような設備が必要か聞いてみた。すると意外なことにそれほどハードルは高くないような感じだった。
ウチでは製菓製造業の許可を取っているが、それと同等の設備があればいいらしい。
ただし、製菓との共有はできないので新たに場所が必要となる。
製造するだけであれば立地を気にする必要もないので家賃の安いところを見つければいけるんじゃないか、淡い期待がふくらむ。
同時にOEMでリキットコーヒーを作っている企業の方にも問い合わせてみた。するとこのような回答が帰ってきた。



ネット販売などをするとなると、食品製造の営業許可が必要になると思います。 加工食品を製造販売するという考え方になるのでいろいろと厳しい条件が出てきます。まずは、最寄りの保健所にご相談して頂きどのような免許を取得すればよいかを確認したほうが良いと思います。

必要な機材類ですが、ボトルに充填してキャップをする工程を手動で行う前提であれば下記のようなものがあれば出来ると思います。

●抽出したコーヒーを入れる寸胴、煮詰めるガス台、ボトル充填装置、キャップ巻締装置、冷却槽(充填したボトルを冷却出来ればよい)。

(中略)

●作業環境は、保健所に指導して頂いたほうが良いと思います。最終的には保健所の確認が必要になります。

※抽出したコーヒー液→加熱殺菌→ボトル充填→キャップ巻締→冷却→水切り→ラベル貼りという工程の場合です。
※加熱殺菌は、食品衛生法上では、アイスコーヒーはPHが4.6以上ありますので一番厳しい殺菌条件となります。

添付の資料の8ページをご参照下さい。100°で400分というのが条件となります。そのため、煮詰めると味が相当悪くなるかと思います。他の方法での殺菌となりますとそれなりの殺菌装置が必要になりますのでその場合は、殺菌装置だけでなく殺菌装置に必要な熱源も用意しなければなりません。そうなりますと相当な初期投資が必要となります。
いずれにしましても、まずは最寄りの保健所に行ってどのようなものを作りたいか相談して頂いたほうが良いと思います。

、、、なんか役所の回答とだいぶ違ってないか?
これはかなりハードルが高い。仮にできたとしてもコストに対して収益の見込みがよほど大きくないと回収できない。
暇な夏場だけスポット的にやろうと思っていたらまず無理だろう。
なぜこんなダブルスタンダードが存在するのか?
調べてみるとこういう事のようだ。
まず、役所の人が教えてくれたのは「設備基準」。これは各自治体が設けている基準だ。
そして企業の方から教えてもらったのは「製造基準」。これは国が設けている基準らしい。そして設備基準はあくまで製造基準を満たした上での話になるようだ。(この辺は私が理解した限りで、厳密には違うのかもしれません)
、、、だからみんなやらないのね、なっとく。

まとめると、私がやりたかった『家庭内ですぐ飲めるアイスコーヒー』は長期保存を考えると清涼飲料水製造許可が必要。
しかし投資額が大きく、個人の自家焙煎店では難しい。
OEMでオリジナルリキットコーヒーもできるが、ロットが大きいのと殺菌による経時変化でお店で出すような味が再現しにくい。
自分のお店で一杯ずつペットボトルに入れて販売はできるが、こちらも経時変化は免れない。(体感だと冷やして保存しておいても半日ほどで風味が悪くなる)
一回で飲み切れる分量を窒素充填して、ペットボトルに詰めて販売するのが現実的ラインに思えた。(これはまだ実験していない)

う〜ん、夏の売り上げ挽回はまだまだ難しそうだ。

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