村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。村上春樹さんにしては感情的でびっくりした。だからこそ響くものがある。 「人の心と人の心は調和だけで結びついているのではない。…悲痛な叫びを含まない静けさはなく、血を地面に流さない赦しはなく、痛切な喪失を通り抜けない受容はない。」

村上春樹さんは言葉で人を語ることがどこまで可能なのか確かめたいのだろう。物語で人を語るつもりはなかったのだ。だからこそ彼の頭の中にはそれぞれの色彩を持った具体的な現代人が明確にある。例えばアカで象徴されるような人間、シロで色彩を無くしていくような女というように。

もう一つ響いたセンテンスは嫉妬についてだ。「嫉妬とは…世界で最も絶望的な牢獄だった。なぜならそれは囚人が自らを閉じ込めた牢獄であるからだ」。実際、ひがみ根性を隠せない、あるいは行動に結びつける回路を完成させている人にはひどく疲れる。

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