CAEエンジニアを育成するために必要な教育とは何か

私がCAEエンジニアとしてメーカー内の解析専任部署で仕事をしていると、求められることである。これまでも社内の設計者や研究者などのCAEを専門としない人たちには行ってきたことではあるが、CAEを仕事とする人たちにあえて教育をすることはなかった。それはこれまでは自分の成果のために他者に時間を使うのが惜しかったので極力避けてはきたことであり、私自身は私自身の努力で身につけてきたことなので教えるよりも自分で学ぶべきだとも思っていた。しかし、今後の自分のキャリアとしてもCAEエンジニアを育成することが自分のスキルを伸ばすことにもつながると思えるようになったため行うようにしているのでそのことを書いてみる。ちなみにここでいうCAEエンジニアとは、CAEエンジニアとは何かの記事の中で記載している人のことを指す。

まず、私はメーカー内でCAEエンジニアを育成するのではなく外から採用することがよいと思っている。CAEエンジニアのキャリアという記事でも書いたが、私の場合をもとに教育する時間を考えると、就業時間の中でしか勉強しない人はCAEエンジニアとしての必要な知識やスキルを学ぶ間に歳をとってしまい、必要な年齢において必要なスキルを身につけておくことができないと思うからである。もちろん、運よくやる気のある人がいて、自分で自ら時間外で勉強するような人がいれば可能かもしれないし、素養があり就業時間内の勉強やトレーニングだけでできる人がいれば可能かもしれない。しかしこれまでの私の経験の中では、そんなスーパーマンには出会ったことはなく、いないと思う。そうなると会社側や上司、教育担当者から時間外にも勉強するようなことを言うことはできないためである。

しかし、それを言っていてはいつまでたっても自助努力でしかCAEエンジニアは育たないことになる。これだけCAEが普及している現在において、CAEを正しく活用できる人を育成できなければ、CAE業界そのものが大きくならないし広がっていかないのは製造業においても損失ではないかと思うようになった。

そこで何を教育するのかということになるが、私はCAEエンジニアを育成するためには数値解析作業を身につける教育ではなく、次の2点を教育を通して徹底的にトレーニングすることだと思っている。一つ目は、抽象化と具象化の考え方を身につけるための教育。二つ目は、自己認識を高める教育。これらは、CAEエンジニアに限らず他の専門職種にも当てはまることではないかと思っている。

抽象化と具象化の考え方を身につける教育

他の記事でも記載しているが、下記の図の上下のプロセスである。

CAEの全体像_適応と技術的な課題

なぜこれが必要かというとメーカー内のCAEエンジニアの役割は、CAEを使って上下のプロセス(適応を要する課題に対応すること)を行うことこそがCAEエンジニアの役割だと思っているから。数値解析作業はお金を出せば社員が行うよりも安く外注できるし、解析受託会社やベンダーでも実施可能な領域である。メーカー内に特化して必要なことは上下のプロセス(適応を要する課題に対応すること)であり、これこそが社内のナレッジになる。
ではこれをどのように教育するか。私はこれを、OJTを通して徹底的に経験学習サイクルを回すことで実施している。これには、OJTのメンターの役割が大きく、当然ながらメンターが現場を見て抽象化することができ、解析結果を見て具象化ができることが前提である。

自己認識を高める教育

これは世の中にいろいろな方法があるので別途記事にしている(自己認識を高めるためのトレーニング)が、体系的な教育トレーニングとしてはTグループに参加することがよいと思っている。(TグループについてはTグループとは何かを参照のこと。)
自己認識を高めることで、自分に気づき他者との関係に気づくことでCAEを必要とするリアルな現場や設計者や技能者の真の悩みに寄り添うことにつながる。また、自己認識を高めることでOJTを通した抽象化と具象化の考え方を身につける過程においてCAEエンジニアとして必要な倫理観やマインドなども醸成されるように思う。

CAEエンジニアを育成するために、数値解析作業を教育することが多い。抽象化するためには数値解析作業を知らないことにはどのように抽象化するのかわからないし、数値解析作業ができるに越したことはない。手っ取り早く数値解析作業ができるようになれば少なくとも数値解析を作業としてはこなしていけるようになるし、世の中ではこの部分の教育はベンダーや学協会が提供しているので、教育としても手軽でとても分かりやすい。しかし、メーカーでCAEエンジニアとして仕事をするうえではこの部分が本質ではないと私は考えている。そのため、過度な数値解析作業の教育が、メーカーでのCAEエンジニアの仕事が数値解析作業であるという勘違いを生み出しているのではないかと思うことさえある。また、数値解析作業を高度にできるようになるためにはそれはそれで時間がかかるし、深く掘り下げていけばどこまででも追及することができる。しかし私は、この部分は抽象化のための最低限の知識と作業がこなせれば自宅でもトレーニングできることだし、外注で代替可能でもあるため、もし深く掘り下げたければ趣味として自分の時間を使って自宅で実施すればよいと思っている。もちろん私自身も趣味としてオープンCAEを自宅で実施しながら日々トレーニングしている。

業務時間は限られている。CAEエンジニアを育成するためには、必要な教育に絞って行うことが重要になると思う。


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