CAEにかかわる仕事

CAEエンジニアとは何か

CAEに関わる仕事

私は数値解析を生業としており、CAEエンジニアを呼称している。CAEに関わる仕事はいくつかあると思うが、私は次のように分類している。

CAEにかかわる仕事

・研究:数値解析に関わる新規のアルゴリズムや手法を開発する
・ハード:数値計算をするためのハードウェアを開発する
・ソフト:数値計算をするためのソフトウェアを開発する
・ユーザー:ハードウェアとソフトウェアを使って新たなものを開発する

この分類において私はユーザーに属する。CAEをユーザーの立場で使い、特にエンジニアリングに活用する人をCAEエンジニアと呼ぶ。

CAEのプロセス

CAEエンジニアが何をするかというと、特にメーカーのモノづくりにおいては、エンジニアリングチェーンやサプライチェーンの各プロセスにCAEを使ってモノづくりを支援する。全体像としては下記のように一般化できると考えている。

CAEの全体像_適応と技術的な課題

ここで、大きく2つのプロセスがある。
一つ目はエンジニアリングチェーンやサプライチェーンで実際に行われているリアルと数値計算の世界であるバーチャルをつなぐこと。(上図で言うところの上下のプロセス:適応を要する課題)
二つ目はバーチャルの中で行われるいわゆる数値解析作業。(上図青枠部:バーチャルでの左から右のプロセス:技術的な課題)
広義にはともにCAEエンジニアに分類されると思うが、狭義にはそれぞれの仕事をする人を私は次のように分類している。
・CAEエンジニア:リアルとバーチャルを写像する人(上図で言うところの上下のプロセスに関わる:適応を要する課題)
・CAEオペレーター:数値解析作業を実施する人(上図青枠部:バーチャルでの左から右のプロセス:技術的な課題)
CAEエンジニアは主にメーカー内でCAEを専任で仕事をしている人が担い、CAEオペレーターはCAEを専門とした会社や派遣社員が担うことが多い。断っておくが、これはあくまでも役割の違いであり、どちらが優れているとか優秀とかということではない。

数値解析作業の流れ

数値解析作業は下記のプロセスで実施する。

解析作業

基本的には、初期値、境界値(ここで言う初期値、境界値とは、初期値:形状、初期条件等、境界値:解析条件)が与えられればそれに基づき
・メッシュ作成
・解析設定
・解析実行
・解析結果表示
という定型の作業を実施する。もちろん解析する対象の形状や条件により、メッシュ形状や大きさが変わってくるが、作業のくくりで見れば上記の作業に該当する。経験のあるCAEオペレーターであれば、初期値、境界値が与えられれば、メッシュ形状や大きさは感覚的にイメージできる。どのようにメッシュを作成するか、解析のパラメータを設定するかは、どの程度の時間で解析結果を出す必要があるのか、どの程度の解析精度が必要かにより決まる。また、出てきた結果についてもどこに着目し、どの物理量をどのように見てどう判断すればよいかも感覚的にイメージできる。
これは技術的な課題であり、行う人によっても異なるが、概ね誰が行ったとしてもほぼ同じ結果を得ることができる。ここで”ほぼ”と言っているのは数値的に完全一致した解を出すためには、すべてのデータが完全に一致していなければならないため、そのようなデータを全員が同じように作成することはほぼ不可能なためである。

CAEエンジニアが担う業務

私はCAEエンジニアに求められるのは、単に解析作業をすることではなく、如何にバーチャルとリアルをつなぐかであると考えている。そのためには、現実の要求に合わせて現象を抽象化、単純化すること。そして数値解析を通して得られた結果を具象化し、現実の要求事項を満たすことが必要である。特にメーカーにおいてはCAEで利益や効果を上げることが求められる。CAEを単に実施するだけでなく、得られた結果を如何に利益(QCDの改善)に結びつけるかが重要であり、そのための説明責任を果たすことが必要である。ちなみに、この点が欠けると単なる作業者でしかなく、経営者や管理者、現業部門から必要とされることがなく、単なるコストセンターに成り下がる。
これは適応を要する課題であり、行う人によってどのような価値観、考え方を持っているかで結果が異なる。

技術的な課題と適応を要する課題

これは「リーダーシップとは何か?」(ロナルド・A・ハイフェッツ 著)に書かれているもので詳細は別のページを参照されたい。
https://takoume.co.jp/tenshu/1930.html

学会や業界団体で議論されること

ちなみにCAE関連の学会や業界団体で議論されることはほぼ技術的な課題をどうCAEで取り扱うかに終始しており、適応を要する課題についての方法や考え方が話し合われることはないし、教えてもらえることはまずない。それは、CAE関連の学会や業界団体が研究者やソフト・ハードベンダーが主催または中心的な役割を果たしているからである。
適応を要する課題はあくまでもユーザーの課題であり、かつユーザー毎に異なるため一般的に議論されることはまずない。

クライアントからの相談を受ける時

クライアントからの相談を受けるとき、この技術的な課題と適応を要する課題を分離する必要がある。よくありがちなものは、クライアントの悩みや相談に対し、技術的な課題で解決を図ろうとすることである。クライアントがCAEに精通していれば、技術的な解決方法を提示したとしてもクライアントが補ってくれる。しかし、大抵の場合はそうではない。クライアントにとってみればCAEは手段に過ぎない。その手段であるCAEの方法論をいくら説明してもクライアントに理解されることはまずないし、クライアントの悩みや課題は解決することはない。

如何にクライアントの悩みに寄り添うか

CAEエンジニアとして如何にクライアントの悩みに寄り添うかが一番重要であると考えている。そのためには、バーチャルを熟知し、クライアントの真の課題を把握した上で、リアルとバーチャルを写像するスキルが求められる。具体的には、
・バーチャルを熟知する:対象とする現象の一連の数値解析作業が実施できる
・クライアントの真の課題を把握する:傾聴スキルを持ち、リアルなモノづくりのプロセスがわかっている
・リアルとバーチャルを写像する:リアルとバーチャルをつなぎ自由に行き来することができる
が必要と考えている。

CAE技術に対する説明責任を果たす

技術者倫理の観点からすればCAEエンジニアであれば自分の技術領域における説明責任を果たす必要がある。それはCAEに対する説明責任であり、適用したCAE解析について、クライアントや経営者が理解できる形できちんと説明できなければならない。特に経営者に対しては経営者が興味・関心のあるところであるCAEによる費用対効果は必須であり、経営者から信頼を得て継続的に投資してもらうためには必須の事柄である。これを怠ると、会社の業績が悪くなったとたんコストカットとして切り捨てられることになる。



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