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働き方のDX

コロナ禍による社会の変化に苦しんでいる方も多いかと思いますが、このような時代の転換点だからこそしっかり前を向いて、この機会にできる進化を遂げていきたいと思っています。

その一つとしてエンジニアリング組織における「働き方のDX」に取り組んでいますので、今回はその話を。

「働き方のDX」とは何でしょうか。経産省のDXレポートによる「DX」の定義を流用して勝手に定義してみました。

パンデミックや災害などによる社会の変化に対応しつつ、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、ネットとリアルの両面で従業員エクスペリエンスの変革を図ることで、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を進め、それによって競争上の優位性を確立すること

ソフトウェア・エンジニアリングが事業の競争優位性を生み出す時代において、ソフトウェアそのものの素晴らしさが重要なのではなく、それをエンジニアリングし続ける組織、文化、人財が競争優位性の源泉だと捉えています。そのような、ソフトウェア・エンジニアリングの社会学的な側面を、デジタル化を前提に再構築することで強化できないかというのが「働き方のDX」になるという考えです。

競争優位性の源泉となる継続的なエンジニアリングが可能な組織とは何なのかは次回以降に書くとして、ここではエンジニアリング組織における働き方のDXにはどのようなことが必要となるのか考えてみたいと思います。

働き方のDXによって手に入れたいものは主に2つあります。

・共創と集中のスイッチがスムーズにできる環境
・メンバーの自律

共創と集中

エンジニアリングにおいては共創と集中の2つのモードを使い分ける必要があります。共創モードが必要になるタイミングでは、そもそも何をどのようにエンジニアリングすべきなのかも決まっていません。プロダクト責任者と共に意見を出し合いプロダクトの方向性を紡いでいきます。また、エンジニア同士で設計をしたり、ペアプロをしたり、ピアレビューをしたり、答えのないHowに試行錯誤します。この共創モードでは積極的にコミュニケーションが取れる環境が必要です。

次に何をどのようにエンジニアリングすべきか方向性が定まったあとは、集中モードが必要になります。細部に神を宿したような質の高いアウトプットには集中が欠かせません。将棋の棋士が何十手も先を読むのと同じように、思考を深く深く重ねていきます。エンジニアが嫌いなことの多くはこの集中モードを阻害されることだと考えた方がいいでしょう。そして往々にして共創モードで辿り着いたHowよりも、より良いプランが見つかることがあります。このように共創・集中を行き来しながらプロダクトを構築していきます。

次は、共創/集中モードのコントロールに大切なコミュニケーション方法と、その上で再定義する物理的なオフィスの在り方の2点について考えてみます。

同期型/非同期型のコミュニケーション

共創/集中モードを他人とのコミュニケーション/自身とのコミュニケーションという見方にすると、その鍵はコミュニケーションにありそうです。コミュニケーション方法には同期型(対面、テレビ会議、電話)と非同期型(メール、チャット)があります。同期型はリアルタイムな応答が共創のスピードを高めますし、集中を阻害します。非同期型はその逆の特性を持ち、トレードオフの関係です。そして、それぞれの方法をよりスムーズにするツールの活用によってコミュニケーションに対する距離が変わります。

同期型のコミュニケーションのもう一つの特性として、コミュニケーションできる人数、同期性の限界があります。働き方が多様化し、様々な場所で、様々な時間帯に働くと考えると同期型の限界はイメージしやすいのではないでしょうか。そして、この結果として情報の非対称性が生まれます。逆に非同期型のコミュニケーションは同期性に限界がなく、可搬性もあるため情報の透明性が高まります。この情報の透明性は自律にも大きく作用することなので後ほど取り上げます。

同期型/非同期型の特性に応じた使い分けがコミュニケーションを発生させる側には求められますが、コミュニケーションの受け手はどうでしょうか。受け手は自身の状態を表明することで、送り手への期待値を伝達することができます。状態の表明としては3つの状態、集中、オープン、共創があると考えています。集中、共創はすでに説明済みですが、オープンとはその中間の状態としていつでもコミュニケーションとっていいですよというモードです。

共創は目的を持ってスタートしますが、場合によってはフワフワした状態のものもあります。このフワフワした状態はアジェンダなき会議を誘発したり、仕事の中で非常に多く発生するにもかかわらず、扱い方を考えないといけないものです。このフワフワ状態にベクトルを与えるのが雑談・相談だったりします。雑談は相談のハードルを下げます。相談によりベクトルが加わると適切な対処に自然と動きはじめます。このような雑談・相談を生み出しやすくするモードをオープンとしています。

物理的なオフィス空間のときに自然にできて、テレワーク時のチャットやテレビ会議で埋められていないものは、このオープンな状態の可視化と雑談・相談へのスムーズな移行だと考えられます。

物理的なオフィスの価値

デジタルツール使って共創・オープン・集中をスムーズにスイッチしながら働けるとなると、物理的なオフィス空間に求められる価値も変化します。それはより高度な共創とそのための関係性や企業文化の醸成になると考えています。物理的に同一の空間でとるコミュニケーションはデジタル上のそれより情報量が多いことは明らかです。また、物理的な空間はデジタル上よりも不規則で混沌としているが故に、偶発的に接する情報量も増えます。

オフィス空間に新しいものの見方に触れるアートを置く、普段見ないジャンルの本を置く、紙や付箋、ペンなどで誰もが自由にアウトプットする場所を作る、普段接しない人とすれ違いやすい導線設計にする、より不規則で混沌とした偶発性を高めるオフィス空間が求められるのではと思います。これらのメリットを享受するために、移動というエネルギーを消費してでも物理的なオフィスに出社する必要性が求められます。

また、共創のためではなく集中のための移動というのも、主に家庭を持っている人で考えられます。上記のオフィス空間とは別要件になり、それぞれの自宅から近い場所を選べる分散型のワークプレイスが望ましいです。そして、個社で持つというより情報の秘匿性を保ちながら複数社でシェアする形が最適なのではないでしょうか。

自律と情報の透明性

続いて、働き方のDXで手に入れたいもう一つのもの、メンバーの自律についてです。事業のAgilityを獲得するために自己組織化されたチームが重要で、そのチームで求められるのが自律です。(この詳細もまた次回以降に)

一方でテレワークが主となる働き方になると、マイクロマネジメント、プロセスマネジメントはやりにくくなり、より強く個々の自律が求められます。また、自律的に動くためには各自が意思決定できるだけの十分な情報に触れられる透明性と権限委譲が必要です。非同期型のコミュニケーションは情報の透明性に寄与する書きましたが、ここで非同期型コミュニケーション→情報の透明性→自律と繋がりを持つことになります。

ここまで、働き方のDXで手に入れたいものと、その背景を示してきましたが、最後にこれらを踏まえ具体的な実現方法についても簡単に触れたいと思います。

仕事の質に合わせて出社する場所を変える

まずは今までの物理的なオフィスの代替として、Discordのボイスチャット上にバーチャルオフィスを作っています。原則バーチャルオフィス上に出社してもらい、執務スペースに自由に着席して仕事をしてもらいます。バーチャルオフィス上では常に音声だけが繋がっている状態で、同じスペースにいる人には「ねぇ、〇〇さん」といつでも気軽に雑談・相談を始められます。つまり、この状態は先に述べたオープンモードの表明となり、雑談の効果を期待して遠慮して話さないより積極的な雑談を推奨しています。

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そして、集中モードの表明には「精神と時の部屋」というスペースに着席してもらうことにしています。ここではおしゃべりは厳禁としています。オープンな執務スペースから共創が必要になると顔を見せたテレビ会議に移行したり、もっと高い共創や関係性づくりが必要であればリアルオフィスにチームで出社します。仕事の質に合わせて適切な場所(リアル/バーチャル)に出社する、言葉にするとごく当たり前の話です。このようにリアル/バーチャル上の居場所を使い分けることで3つの状態を表明しています。

なお、Discordは物理空間のリプレイスとしてフリーアドレス制のようにし、混沌や不規則性が生まれやすくことがポイントです。これをSlackのように話題別の部屋を分割すると偶発的なコミュニケーションも生まれず、かつ心地よい仕事仲間と固まり続けることとなります。オープンな執務スペースで特定のメンバーだけに相談が必要な場合も「ちょっとMTGテーブルにいい?」というオフィス同様のコミュニケーションで済みますし、Discord上の部屋の移動は非常にスムーズです。

そして、併せて非同期コミュニケーションを実現するSlackでは、各自オープンな個人部屋を持ち、自由にアウトプットできる場として分報(times-xxx)を推奨しています。分報の内容は多くの記事がありますのでそちらに譲りますが、重要なのはまず非同期型コミュニケーションありきであり、同期型コミュニケーションはその隙間を埋めるために利用するという優先順位です。

まとめ

「なぜやるか」を大事にしたいため長くなりましたが、要点をまとめると次の通りです。

・共創と集中、自律によってエンジニアリング組織を強くする
・共創と集中をバーチャル(Discord)/リアルオフィスでコントロール
・集中を支え、同期性の限界がない非同期型コミュニケーションの活用
自律に必要な情報の透明性には非同期型の情報が欠かせない

コロナ禍で痛感したことは、社会は変化し続けるということです。この変化をきっかけに自分たちの環境も変化のための素早くトライ&エラーを繰り返したいと思っています。ここに書いた内容も全社方針として整備しきっている話ではなく、デジタルへのリテラシーが比較的高い開発組織を中心に2ヶ月くらいで仮説検証を重ねて、仕組みに落としていきたいと思います。

このような変化ができる環境で働きたい、一緒に作っていきたいという方はいつでもお声掛けください。

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