自宅隔離スターゲイザー

皆さん、ニュージーランドは世界で一番星空がきれいな国ということをご存じでしょうか。

こちらは全国民自宅隔離が始まって早10日ほどが経過しました。
売れない自称アーティストのチキンは、この世で最も自主自宅隔離にいそしんできた鳥に間違いないのですが、
自主的にひきこもるのと人に言われてひきこもるのでは難易度が格段に違うことを痛感しています。
そんな中、暇を持て余した愉快な隔離仲間たちが急に言い出しました。
「庭で星を見よう!」

自宅警備上級者に告ぐ

こんな意味不明な極小ライターの記事を読んでいる読者の皆さんの大半は、良く言えばインドア派、悪く言えば引きこもりかと存じ上げるので「自宅隔離とか天国じゃん」と余裕を見せているかと思います。
まずはそこに、一言言いたい。
「外に出てはいけない」というのと、「外に出たくない・めんどうくさい」というのは全く別物です。
日本では一週間に1回くらいしかお家を出ないチキンが言うので間違いありません。
そのチキンでさえ、4日目くらいの辺りから「気が滅入る」とか言い出しているので、健常者の皆さんにはかなりつらいのでしょう。

ついに夕方ごろ、隔離場の同居人がおかしな挙動をしているのを観測しました。
何か、巨大なプラスチックのバスタブのようなものをガレージから庭に引っ張り出しているのです。
そして彼女は言いました。
「この中で星を見よう!」

星空観測inバスタブ

何を言っているかよくわからないと思うのですが、彼女曰く
小さなプールみたいなプラスチックのバスタブに布団を敷き詰めて中に入り、みんなで暖を取りつつ星を見るとのことでした。
日が落ちてから、さっそく発起人の隔離仲間カップルの二人とチキンとチキンの彼女が集結。
既にタブの中に入れていた布団が結露で湿ってしまうなどのトラブルがありましたが(今日の単語:condensation/結露)、何はともあれ体育座りをするような形で中に4人が収まりました。
体を少しでも布団の外に出してしまうと、南半球の秋の夜が襲ってくるのでみんなで布団に納まって身を寄せます。

空を見上げると、そこには見慣れない星空が広がっています
北の方にかかるオリオン座だけがかろうじて見慣れた星座。
南半球特有のことなのですが、20年以上(都会のみすぼらしい星空とはいえ)変わらずに見続けたものがないというのは、一番「遠くに来たなぁ」という感傷を呼び起こすかもしれません。
北半球にいる時はどの季節でも無意識に星座の形をなぞっていたもので、星座のない空というのはなんとも落ち着かず、時には地球によく似た地球ではないところに来てしまったような錯覚さえ憶えます。
まあ日常的に星座を確認している鳥ってチキン以外にあんまりいないらしいのですけれども……。

メルボルンでこれらのことを体験済みのチキンは、漠然とした不安から南半球の星座についても少しだけ知識を取得済みです。
オーストラリアやニュージーランドでは星座の勉強をあまりしないのか、かろうじて見えるオリオン座、南十字星、偽十字などの話をするとローカルの人も「へぇ~」とか言うので、オセアニアの教育制度について疑問符が浮かびますが……それはまぁいいでしょう。
ちなみに、南半球の星座は北半球のおまけみたいなものなので、ハトとか蠅とか帆とか特に神話もない適当な名前のものが多いです。
アボリジニは星に関して先祖がどうとかいう信仰があった気がするので、マオリ族もそんな感じなんだと思います(※チキンの予想のため要チェック)。

パーマストン・ノースの星空は、言うまでもなく東京より綺麗です。
たくさんの星々が見えますが、天の川は「うっすら白いかな?」程度。
オーストラリアのファームという名の荒野で見上げた空の方がはっきり見えていたかな、という印象です。
周りの民家の明かりや半月の兼ね合いもあるので、場所と日付を少し変えると全く違うのかもしれません。
ともあれ、星の瞬きが綺麗に見えたり、天の川の存在を感じられたりする星空は都会育ちの人間にはいつになっても感動的なものです。
どうでもいい身内の話とニュージーランドにしてはイマイチの星空を肴に、数瓶だけ残っていたお酒を飲んでいきます……。
すると突然、向かいに座るカップルの顔が一瞬何かに照らし出されました。
「流れ星!」
私もまさかとは思ったのですが、彼女たちは大きく輝く流れ星を見たようです。
見た人の表情がはっきりわかるくらい、周りが明るくなったのでそれはそれは大きなものだったのでしょう……。
ニュージーランドで暮らしてきたカップルの彼女の方も、「生まれて初めてこんな大きい流れ星見た!」と興奮していました。
その後も、ちらほらと流れていく星……。
チキンは南十字のあたりに一つと、西の空に一つ、細く光って行く星を見ました。
思えば、流れ星をしっかり見たのはこれが初めてだったかもしれません。
というか、流星群の日じゃなくてもまあまあ星が落ちてくるのを初めて知りました。
「もし神がいるのなら、ふたつ同時に星を流して存在を証明してみろ!」とかいう無茶ぶりをしたカップルの男の方。
その後無事、ほぼ同時に星が流れて神の存在は証明されました。
きっとチキンが彼女の十字架をメラミンスポンジでピカピカに磨いたからでしょうね(※暇だったので)。
まぁピカピカの十字架が見守るこの家に(チキンを含めて)キリスト教徒は一人もいないんですけど。

やがてオリオン座が落ちて、さそり座が上がってきます。
我々もさそりに追われるように、結露でしめった布団と共に店じまい。
結局かわいそうなチキンの彼女は、流れ星を見つけることができませんでした。
次回があるさ、何せ自宅隔離はあと20日もあるのだから……。

というわけで、チキンはパーマストン・ノースで一番ロマンチックな自宅隔離の日々を過ごしているのでした。
自宅隔離も5日を過ぎたあたりから、人々が結構散歩していたり、道路を歩けば「頑張ろう!」ってメッセージを掲げたぬいぐるみが木に引っかかっていたり、街が少し活気づいているのを感じます。
自宅隔離はまさに大人の夏休み
どこも行けないけれど、発想次第では楽しく刺激的な、ロマンチック経験へと早変わり。
あの頃できなかったバカな贅沢を実行するのにちょうどいいかもしれません。
もちろん安全は損なわない程度に。

さて、せっかく溜めたロマンチックポイントですが、家に戻ったら猫がカーペットに下痢うんちをぶちまけていて、プラマイゼロになってしまったのはご愛敬。

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