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共有物の分割(民法改正)

前回は共有物の変更、管理に関する改定内容を説明しました。

今回のテーマは裁判による共有物の分割です。

共有物の所有者は自由に権利を譲渡することができますが、容易に分割できるような資産であれば良いのですが、建物と言った不動産は分割が容易にできません。
また、分割することで価値が下がるようなケースもあります。

そのため、共有物の分割は当事者の協議で行われることが一般的ですが、話し合いがまとまらずに裁判になることもあります。

改定された民法では、裁判による共有物の分割についてこれまで判例を基に判決が出されたことを明文化しました。

裁判による共有物分割ができる場合

共有物分割を裁判で行うことが出来るケースを次の2つと定めました。
(新民法第258条1項)
1、共有者間に協議が調わないとき
2、協議をすることができないとき

協議をすることができないときとは協議に応じない共有者がいる場合も要件を充たす点を条文上明らかにしました。
これは従来から運用されていたケースでこれまでの運用が変わることはなく明文化されたことが改正のポイントになります。

裁判による共有物分割の方法

これまで裁判による共有物の分割の方法は、現物分割でしたが、同時に最高裁の判例による賠償分割も行われてきました。
この点を明文化したことが改正のポイントになります。
(新民法第258条2項)
1、現物分割
2、賠償分割

賠償分割とは

共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部または一部を取得させる方法のことです。

他の共有者の持分を取得したい共有者が、他の共有者にそれぞれの持分を買い取ることを提案し、買い取り金額(代償金)などにつき双方が合意に至ることで共有を解消する方法です。
例えば、共有する土地の持分に見合う現金を支払うことで権利を他の共有者が買取る方法になります。

裁判所の給付命令

しかし、これは双方の合意が可能な場合です。
合意が困難な場合については、裁判所が給付命令を行うことができることも明文化されました。

裁判所は、共有物を分割する裁判において、当事者に対し金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる
(新民法第258条第4項)

当事者による協議が成立しない場合の手段を明文化したことがポイントになります。

所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡

当事者が協議したくても相手の所在が不明な時には協議は進展しません。
共有物の変更・管理も所在等不明共有者がいる時の対応が改正されましたが、分割についても新たに法律が成立しました。

裁判所の裁定によって、申立てをした共有者に、所在等不明共有者の不動産の持分について、譲渡する権限を付与する制度が創設されました。
(新民法第262条 第3項)

これは、所在等不明共有者が所有する不動産の持分を裁判所が譲渡することができると定めていますが、所在不明以外の共有者に譲渡する訳ではなく、不動産全体を第三者に譲渡する時にだけ使用できます。

所在等不明共有者がいるために不動産の売却ができない共有者にとっては非常にありがたい法律の創設になります。

要は、居場所が不明の共有者の所有する共有物も含めて全員の資産を第三者に売り渡すことができるとしたものです。
但し、一部の共有者が持分の譲渡を拒む場合は成立しないことがポイントになります。

この時注意する点は、所在等不明共有者の持分は他の共有者に一切、譲渡されないことです。
あくまでも所在等不明共有者の持分は、直接、譲渡の相手方に移転します。

しかし、所在等不明共有者にとっては勝手に財産を処分されたことになります。
そこで所在等不明共有者は、譲渡する権限を行使した共有者に対する不動産の時価相当額のうち、持分に応じた額の支払請求権を取得します。

実際に売買が行われますが、所在等不明共有者の受取るべき金額を供託金に預け、本人から請求があった時に供託金から支払を受けます。
時価相当額が供託金を超える金額である場合には、別途、訴訟を提起するなどして請求ができるとしています。

不動産を譲渡するためには、裁判所の裁定に加えて、別途、裁判外による売買契約等の譲渡行為が必要になります。
譲渡行為は、裁判の効力が発生して(即時抗告期間の経過などによって裁判が確定した時)から、原則2か月以内に行わなければいけません。
ただし、この期間は裁判所によって伸長することが可能です。

遺産共有の共有物の分割

大前提として、相続人の間で遺産分割をすべき相続財産に属する共有物の全部またはその持分については遺産分割で行われることになります。
そのため、裁判による共有物分割をすることはできません。
(258条の2・1項)

つまり、遺産共有状態を解消するためには、遺産分割の手続によらなければならないのが原則になります。

10年経過で共有分割が可能に

民法では遺産分割を10年間行使しない状態が続くと行使の意志がないと見なされ、共有分割が可能になります。
(新民法第262条 第3項)

しかし、相続人が遺産分割を希望する時には、遺産分割の請求をした上で、共有物分割訴訟についての裁判所からの通知を受けた日から2ヶ月以内に、共有物分割への異議を申し出なければなりません。
(258条の2・2項、3項)


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