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分譲マンション管理組合の監事って何するの?(6)監査の役目

監事って期末前に管理会社から送られてくる書類にハンコを押すだけって聞いたけど。
・・・・そう思っている皆さん。

もしかすると・・・
組合員から叱責されることになるかもしれません。

監事はそれほど重要な役職だと言うことです。

監事の仕事は会計監査と業務監査

これまで説明したように監事の仕事は理事会の業務監査と会計監査です。
実際にはどのような業務を行う必要があるのでしょうか。
業務監査から考えてみましょう。

業務監査

理事会の運営状況が組合員に不利益を与えていないかを確認する業務です。

1、理事会の開催をチェックする

理事会の開催義務は規約に定めてあります。

コロナ禍になり国土交通省も理事会や総会の開催の延期を認めるコメントを出していますが、現在ではどのマンション管理組合も感染防止対策をした上で対面方式の理事会や総会を開催しています。

監事の重要な役目のひとつに理事会が一定期間内に開催されていることを確認することにあります。

組合の規模やその時々の案件によって開催回数は変わりますが、少なくとも3カ月に1度の開催はすべきでしょう。

半年も1年も理由なく、理事会が開催されていない場合は、理事長に開催しない理由を確認した上で、その内容に違和感があれば理事会の開催を促すべきです。

2、理事会の活動をチェックする

理事会の活動をチェックするためには理事会への参加が必要になります。

理事長が適正に理事会を運営しているかを知ることができる機会は理事会です。

監事に理事会への参加義務はありませんが、出席して意見を言う権利は認められています。

理事会に参加しなくても理事会議事録で大丈夫と言う方もいますが、何か起きた時に監事は事前に確認できなかったことに対して批判されることがあります。 

多くの方が「大丈夫、何も起きないから」と高を括っている点が大きな問題です。

ちゃんとやってくれていると思っていても修繕積立金を理事会議決で使用したり、理事会活動費を私的活動に使用したり、これまで理事会の逸脱した行為はたくさん報告されています。

管理組合の意志決定には細かなルールがあり、その点で一定の知識が必要になることは確かです。

しかし、「これで良いの?」「おかしくない?」と思った時は、マンション管理士会等の専門機関に無料で相談することもできます。

何もしないこと、無関心でいることがもっとも無責任な行動です。 

3、自主管理の監事の重要性

自主管理組合が委託管理組合に劣っているとは思いません。

しかし、一方で法的なルールの徹底が求められる管理会社に管理を委託しているケースでは理事会の活動は、管理会社によって担保されている面があります。

これ対して自主管理は、ルールに精通した者の指導や助言を受ける機会が少なく、ともするとルールを逸脱した運用がされてしまう可能性が高い危うさがあります。 

標準管理規約は指針であり管理組合にルール変更の猶予がありますが、区分所有法やマンション管理適正化法で定められているルールは、管理組合が自由に変えることができません。 

監事はこのことを十分に理解する必要があります。 

自主管理では管理者(理事長)に強いリーダーシップが求められる分、度を過ぎた強権的な運用が行われていることもあります。

その運用が法的に違法である時に指摘する役目が監事になります。 

また、理事会は組合員の代表であり、組合員の利益を守ることが大きな役目です。 

一部の組合員だけの利益を与えるような運用は決して行うべきではありません。

そのような事態が発生した時に警鐘を鳴らす役目も監事になります。

委託管理では管理会社が理事会の暴走の歯止めになっていると言えます。

そのため、監事の役目が形骸化しているとも言われます。 

第三者の目がない自主管理はこの点で危険性があり、これを防止する役目が監事であることを忘れてはいけません。

4、管理会社を過信しないこと

多くの管理会社が理事会の暴走の歯止めになっていることは事実です。

ただし、管理会社が絶対的に信頼できるとも言えません。

フロントは業務管理のプロですが、管理組合の運用のプロではありません。 

間違いとも知らずに区分所有法に違反した運用を説明するフロントはいます。

管理会社がすべて正しいとは思わず、運営に不信や不安を感じた時には、中立的な第三者に相談することをお勧めします。

各自治体やマンション管理センターでは無料で相談を受けることができます。

「こんなこと聞いても良いの?」と思わず相談することが大切です。

 匿名でも相談に対応してくれます。
会計監査

出納の記録が正しく行われていること、不明瞭な支出がないこと、管理組合の資産が帳簿と整合性があることを確認する業務になります。

会計の知識は必要

監事の期末前の仕事はかなりの労力が必要になります。

管理会社に委託している場合はシステムで管理されていることが一般的ですが、各出納への請求書、領収書はペーパーで管理しています。

そのため、期末前に帳簿と請求書、領収書の金額が一致していることをすべて確認する必要があります。

1円単位まで合っていること確認します。

規模の大きな管理組合ではボリュームも多く、作業は大変です。 

帳簿の整合性を確認した後に収支計画に対する収支決算に間違いがないことを確認します。

また、賃借対照表の金額の整合性を確認します。

この時、賃借対照表に記載されている預貯金、有価証券が各銀行口座の残高と一致していることを確認します。

有価証券はその存在を確認します。(管理会社が保管している時) 

最後に現在の資産残高の整合性を確認します。

すべてが終了した段階で記名、押印を行います。

形骸化する監事

委託管理を行う管理組合の監事の形骸化が進んでいると言われています。

理由のひとつは監事役員の認識の甘さにありますが、管理会社側にも大きな問題があります。

「うちの会社は、きちんとやってますから、精査の必要はありません、印鑑だけください。」

こんなことを平気で言うフロントはたくさんいます。

大抵、このような言うフロントは総会も甘く考えています。

「儀礼的な総会です。説明後はちゃんちゃんって終わります。」

おいおい、舐めたこと言いやがって。

この言葉に激怒して理事長に立候補、管理会社のリプレースまで行った方もいます。 

「あんたにとっては仕事のひとつだろうが、ここに住み人たちにとっては1年に一度の結果報告会だぞ!!!」

期末前に帳簿類も渡さず、監事監査報告書に記名押印を求めてくるフロントには注意してください。 

とは言え、一番の問題は監事役員の認識の甘さです。

管理会社が監事を蔑ろにしても「精査します!」と言えば、フロントも従うしかありません。 

監事になった場合には、是非とも管理組合の会計の精査を行って欲しいと思います。

安易な押印は賠償責任になる

監事なんて責任を問われることないでしょう!!

いえいえ、そんなことはありません。

理事長が管理費等を着服した管理組合の事例では、偽造した書類を見抜けなかった会計監査役員が組合から善管注意義務違反として損害賠償を求められ裁判で認められたことがあります。

東京地裁平成27年3月30日判決

詳しく知りたい方はgoogleで「マンション 監事 損害賠償」と検索するとすぐに見つかります。

これだけでも監事の重要性はわかりますよね。

年に数件発覚するフロントの横領

会社ぐるみの管理費の横領は法整備が整った後は発生は減少し、最近ではまったくなくなりました。

しかし、残念な話ですがフロントが管理費を横領する事件は年間数件程度あります。

発覚は管理会社内がほとんどですが、監事からの問合せで表面化することもあります。

システム化されている管理会社で口座残高と1円でも違えば大きな問題になります。

横領のほとんどがマンション内で現金を扱っている管理組合です。

そのため、管理会社はマンション内での現金の取扱いを辞める方針の会社が多く、今後はSUICAに代表されるカード決済は進むと思います。

高齢者が多いマンションでもマイナンバーカードなどを利用する方が増加したことでカード決済への抵抗感が薄れてきたこともカード決済が進んでいる理由のひとつです。 

いずれにしても監事の会計監査は絶対に必要な業務だと理解してください。

自主管理では会計監査がより大事

特に自主管理の会計監査は委託管理よりも重要性が増します。

管理口座や修繕積立口座の入出金を管理者(理事長)にすべて任せている管理組合では、日々の出納を監視する機能がありません。 

「ちょっと10万円を借りて、後で返せば大丈夫!!」

このケースは例え10万円を返却したとしても善管注意義務の違反になります。 

通帳に記帳された出納履歴の説明ができません。

もちろん、帳簿上も使途不明金の支出、入金となります。 

しかし、このようなお金の流れは、誰かが帳簿をチェックしなければ発覚しません。

最終的に「50万円を借りて・・・返せない」事態になり、管理組合として大きな損失を招くことになります。
自主管理の管理組合では少なくとも通帳は監事が保管していつでも現在の貯蓄残高を確認できる状況にしておくべきです。

その上で、各出納のひとつひとつを管理者(理事長)に確認することが横領や不正運用を防止する方法です。


監事の仕事を業務監査と会計監査に分けて説明しました。
監事の仕事の大切さと大変さを感じて頂ければ幸いです。 

輪番制であろうと監事に任命された以上は、責任がある役職であることを認識した上で業務にあたる必要があります。

管理会社から「これに記名押印をお願いします。」と言われた時に自分できちんと精査した結果として記名押印をすることの大切さを忘れないでください。 

次回は監事の強い権限について実例で説明します。

 

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