最初に変化を引き起こす人に共通する「5つの要因」

5月に山水郷チャンネルという動画配信を始めた。日本各地で活躍するクリエイター、デザイナーらをゲストに呼んで、毎回1時間弱の配信を行っている。毎週やってもう12回になる。報酬があるわけでもなく、結構毎週は大変なのだが、でも、新しい出会いとたくさんの気づきがあって、まだまだ続けていきたいと思っている。

今まで気づいたことを少しまとめてみようと思った。人と人をつなぐコミュニティのデザインに何が大切なのか、自分なりに考えてみた。

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それぞれ役割を割り当てたパーツを組み合わせれば、そのパーツの内部構造や成り立ちに対して詳細な知識がなくても、システムはつくり出せる。

人の組織に置き換えると、脳の働く仕組みについて詳細を知らなくても、人の詳しい生い立ちを知らなくても、ポジションに適切な人材かを判断し、ポジションを割り当てれば、組織は人を使いこなすことができる。

プロ意識の高い組織は特にそう。たとえばサッカー──自分がそのポジションで機能しているかを自分でも、そして他人──マネージャーもチームメイトもファンもメディアも常時にチェックしている。

しかし、そういう組織の作り方は、人を機能するか否かだけで判断することになる。機能しなくなれば交換すればいいとなる。役割をこなすための合理的な判断だけが求められ、多くの感情は無視すべきものか抑制すべきものとされ、成功に導くための高揚感やプロとしてのプライドなど、人の行動を促進させる一部の感情だけが利用される。

トップダウンではない一般的な社会コミュニティのデザインだとこうはいかない。それぞれが役割以前に「自分」というものをもっている。その自分は合理性とは縁遠い存在だったりする。縄張り意識があり、認知バイアスもある。妬みや恨みの感情も心の底にもち、不安に弱い。プロ意識の強い人でも、プライベートな生活が不安定だと不合理な感情に突き動かされる。

しかし、組織をつくるのなら、必ず機能するパーツは必要だ。トップダウンの組織なら「決める人」がいる。一方、そうでないコミュニティでは、人々が自らの役割を能動的に探し出すことになる。

いまソーシャルデザインとかコミュニティデザインとかいわれる分野が扱うものはまさにそういう組織だ。そこでは構成員が、元来の不合理さを背負ったまま機能分化して自己組織化していく。

ボトムアップという言葉はトップダウンの対立項として使われ出した言い方だろうけど、トップダウンに勝るようなボトムアップの組織づくりは実際には難しい。リーダーは必要だ。だからトップダウン対ボトムアップという二項対立の枠組みで、コミュニティの問題を考えないほうがいいのではないか。

最初に化学反応を起こした人が次々と追随者(フォロワー)を生み出す。フォロワーは刺激を受けるだけでなく、自分が変化を生み出す人になって、次のフォロワーを生む。

いま山水郷チャンネルでゲストにお呼びしているいるのは「最初に変化を起こした人」だ。ディレクターとかいうと旧来のトップダウン型のニュアンスを残すし、ファシリテーターというとこの連鎖反応的なニュアンスが伝わらない。触媒とも思ったが、触媒は化学反応を引き起こすが自分自身は変化しない。「最初に変化を引き起こした人」は他人も変えるが、自分も変化し成長し続けている。

「最初に変化を引き起こした人」は連鎖反応を呼び起こし、その影響力を他の地域に波及させて、多様な物語(ナラティブ)を創出する。それを大事に育てていくと中央集権とは違う日本の新しい物語が生み出していけるのではないか。それが井上岳一さんの提唱した「山水郷」という言葉に僕が興味をもった理由である。

組織をつなぐのは「共感」と「好奇心」と「勇気」と「志」だ。この4つが変化の素といっていい。「共感」とは他人の心を理解して寄り添おうとする姿勢、「好奇心」とは興味を広くもち、知識も人脈も広げようとする姿勢、「勇気」とはやったことのないことにチャレンジする姿勢、「志」とは自分たちが住む世界をより良くしたいという思い、つまり望ましい未来を求める姿勢である。

この4つの姿勢を発揮するためには、まずはコミュニティの人たちが能動的に自らのポジションを探し出せる環境をつくらないといけない。それには①自己効力感がもてる環境。②居場所づくりができる場。③承認欲求が満たされる機会が必要になる。

「最初に変化を引き起こす人」は「自分は達成できる」という根拠のない自信というか強い自己効力感をもっている。それをフォロワーたちに伝染させる。「自分が動けば何かが変わる」という実感をみなで共有し合うことがコミュニティの変化のエンジンになる。

居場所づくりとは、他者から居場所を与えられるのでなく、既存の与えられた役割だけでない役割を自分で思い描き、それを実行に移すことである。周囲が居場所を探す人の行動をポジティブに受け入れられる関係性づくりが非常に重要だ。

創造行為には「承認」というプロセスが必要だ。自分の力を認めること、他者から結果を認められることが創造行為を活性化させる。自らの手で自分の居場所をつくり、そこで実践したことが、目に見えるかたちで評価されていくようなプログラムをつくる。適切なポジティブな評価が化学反応の連鎖を生む。まずは小さな成功で承認欲求を満たし、自己効力感を増幅させた上で、辛辣な意見や失敗に学ぶ力を磨き、大きな成功を達成すればよい。

賞とかメディア掲載とか遠くの権威を使って、身近な評価につなげてもいい。外部の評価システムと関わることは、トップダウン型のように上からの絶対的な評価がない組織にはとても重要なことである。

何がよりよいか、何が望ましいかを考えつづけること、そこには倫理の問題も生じるし、政治党派を超えて他者の考えや立場をリスペクトしながら議論を交わす場も必要となる。

山水郷チャンネルで今までゲストにお呼びした方はいずれも、共感、好奇心、勇気、志の4つの姿勢をもった方々だったと思う。

そしてもうひとつ、話していて感じたのは「愛」──人が好き、自然が好き、デザインが好き、地元が好き、それが好きを超えて愛のレベルになっている。これからも山水郷チャンネルで、これから共感、好奇心、勇気、志、愛にあふれる方々に出会えることを僕は本当に楽しみにしています。

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