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2020年に読んでグッときた本~エッセイ/ノンフィクション~

私が個人的に今年読んだ本というだけなので、発表されたのが2020年ではない作品もあるのですが、読んでいる最中に思考が止まらなかったり、素直に最高だなって思えた作品を紹介します。

ブレイディみかこ『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』

この作品はたぶんnoteを書いている人や読んでる人だったら、ああ、この本が良いことならもう知ってるっていうかんじだとは思うのですが。。。。

英国で暮らすある一家とその周辺のできごとが綴られている「親子の成長物語」で、帯に「一生モノの課題図書」と書いてあるのですが、まさに!といったかんじです。語彙力皆無な表現ですが、「まじで全文良い!」です。良すぎます。一瞬でこの家族の虜になりました。

なんといっても「ぼく」が最高なんです。なかでも「エンパシー」についてぼく(息子)が話すシーンが印象的です。

英国の公立学校教育では、シティズンシップ・エデュケーションというカリキュラムがあるそうで、「デモクラシーと政府、法の制定と順守に対する生徒たちの強い認識と理解を育むもの」といことで、日本でいうと政経と現代社会を道徳や倫理的な観点も含めて学ぶもということなのかなと私は解釈しました。

ぼくは、「エンパシーとは何か」という問題に「自分で誰かの靴を履いてみること」と答えたと。

エンパシーとは、「自分と違う理念や信念を持つ人や、別にかわいそうだとは思えない立場の人々が何を考えているのだろうと想像する力のこと」だと。

この編を読んで、Black Lives Matterのムーブメントでも自分をエデュケーションすることが大切だと言われていたことを思い出しました。

一部を除く大多数の人間は差別しようと思って差別しているわけではない。

だけど固定概念やステレオタイプに無意識に囚われて、結果として差別してしまっていることがあるんだと思います。

ビリーアイリッシュが発表したメッセージに「YOU ARE PRIVILEGED WHETHER YOU LIKE IT OR NOT. SOCIETY GIVES YOU PTIVILEGE JUST FOR BEING WHITE.... 」という言葉があって、これがこういった潜在的にある差別の問題の的を得ていると思うのです。

白人がどうとかではなく、全ての人に言えることだけれども。。。

差別していない、下に見ていないといくら自分で思っていても、生まれた時から社会が、システムがそういう構造をもっていたらどうでしょうか。

自分は人に対して偏見を持っていないなんて、絶対的に言える人なんてだれ一人いないのではないかと。

やっぱりそれを変えられるのって教育なのかもしれない、ぼくのような考え方をする子がたくさん育つ未来は明るいかもしれないと希望を抱いてもいいのではないかと思いました。

みんながわかりあう必要なんてないと思っています。むしろそんなの不可能だと思っています。親子だってわかりあえないことばかりなのに。それぞれ違った環境で生まれ育ち、それぞれの視点でものごとに触れ、考え方や価値観は人の数だけあります。

それでも、認め合うことはできる。ひとつにならなくても、認め合うことができれば、それで素晴らしい。

まさにMr. Childrenの「掌」の歌詞のように。

加藤シゲアキ『できることならスティードで』

デビュー作『ピンクとグレー』から直木賞候補になった『オルタネート』(めでたい!)まで全ての作品を読んできましたが、一番好きな作品は『できることならスティードで』かもしれません。

アイドル加藤シゲアキを知ってしまっているがゆえに、どうしたってアイドルがこんなこと書くのか(驚嘆).......という逆の意味での色眼鏡をかけて読んでしまうことはよくあり、これは作者への冒涜だとわかっていても知らない頃には戻れないのでこればかりはとても歯がゆいです。。。

旅がテーマのエッセイが15編入っていて、どれもグッときたり読み手に思考を促すものばかりなのですが、中でも好きなのは下記の1編です。

Trip 6 ニューヨーク

加藤さんが仕事で訪れた2018年のグラミー賞受賞式で感じたことが書かれていて、当時のアメリカは#MeTooやタイムズ・アップというムーブメントが盛んに行われていた頃で、多くの人が胸元に白いバラを飾り付けていたり、スピーチでジャネール・モネイが「Time's Up」と何度も言葉にし、セクシャルハラスメント被害を告白したケシャを呼び込みパフォーマンスするなどたくさんの印象的なできごとがあったと。

※白いバラは歴史的に希望、平和、連帯、抵抗を象徴している(本文より引用)

これもまた「まじで全文良い!」です。一文一文から著者の想いが伝わってきて、そこから私たちが生きている社会が抱えている問題の大きさを実感し、頭を抱えてしまいそうになります。

変えたい、変わらなきゃいけないとわかっているのになぜこんなにも難しく複雑で目を背けたくなることばかりなのだろうかと。

それでも著者の言葉から未来への希望をもてるパワーをもらえるそんな一遍です。

「グラミー賞授賞式で僕が受け取ったものは、重く、苦しく、燻んだ「現在」ではあったが、磨けばやがて虹色に輝く「未来」の原石だという可能性を信じたい。」

本当に全編良いです。私にとって宝物となる本がまた一冊増えたなと、読了後そんな気持ちになりました。

ペク・セヒ(山口ミル訳)『死にたいけどトッポッキは食べたい』

軽度のうつ病(気分変調症)と不安障害持つパク・セヒさん(著者)と彼女が通う精神科における先生との会話、カウンセリングの内容を綴ったエッセイです。

まずタイトルがすごく良いなあと思います。人の感情って多面的じゃないですか。。どんなに悲しいことがあってもお腹は空くし、どれだけ腹立たしいことがあっても眠くもなる。

そういう一筋縄ではいかない、矛盾しているようで矛盾していない感情が表れているタイトルで大好きです。

先生が良い意味で淡々としていて、ただただ相談者の気持ちに寄り添うだけではなく、時と場合によっては著者の考え方を否定することもあったり、また考え方をただ否定するのではなく誰にだってそういう時期はあるよ、あなた一人が変わっているわけではないよ、みんな同じだよと伝えてくれるんですよね。

救いの本だと思います。「私のように表面的には元気に見えて、内側に膿を抱えているような、中途半端な人が気になる。」と著者が導入で書いているように、みんな多かれ少なかれ精神的な痛みを抱えて生きているのだと思います。でも、それは目に見えない。親しい友人でさえ気づけないことの方が多いんだろうなと最近よく思います。

今年、著名人が自ら命を絶ったという報道を耳にすることが多くあり、私はそのことを考えたり友人がその話題に触れたりすると考えているうちに泣いてしまいます。

わからない、わからない。人の気持ちって本当にわからない。土足でズカズカと踏み込んでいくのも良くないと思うけれど、でも遠慮して踏み込まずにいると取り返しのつかないことが突然起きてしまったりします。

正しい答えなんてどこにもないので、ひとまず私は私を愛してくれる人にはそれに見合う、いやそれ以上の愛を返していきたいと思っています。

#読書感想文

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