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研究書評

これから2024年度春学期上久保ゼミでまとめた研究書評をnoteに投稿していきます!


2024/07/18

高田光雄(2022)
「京町家の保全・継承に向けた動向調査」
『公共財団法人京都市景観・まちづくりセンター』公益財団法人アーバンハウジング,1-229頁

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、公共財団法人京都市景観・まちづくりセンターの「京町家の保全・継承に向けた動向調査」である。以前の期末報告会で資料を纏めている際に、誰を顧客にVRでビジネス商法を行うのか考えていなかった。そのため、円安が進む今日に焦点を当てて、海外顧客向けにするのはどうかと思い、京町家を通した国際交流事業の展開を望む。「和」や「わびさび」といった日本の歴史に興味深く、関心を持つ海外の人には何を事業展開として行うのか最善か考えるため、今回の文献を選んだ主な理由である。
 
〈内容〉
 近年、国際的に京町家の保全・継承の取組への関心は高まっており、まちセンにおいても海外の研究者への協力や国際交流事業に取組んでいる。ここでは、国際交流事業の中から、京町家アーティスト・イン・レジデンスと各種団体の視察受け入れについて述べる。
 
①京町家アーティスト・イン・レジデンス(以下、京町家AIR)
・概要:京町家AIR は、オランダ、アムステルダムを拠点とする非営利の日本文化センター(Stichting't Japans Cultureel Centrum、以下JCC とする)西郡賢代表(当時)の日蘭国際交流と京町家の保全・再生に寄与できればとの発案および出資のもと、まちセンとの共催によって平成23 年度から始まり、平成27 年度までに4 回開催した国際交流事業である。招聘した参加者はアーティスト、建築家、研究者など11 組(12 名)。滞在に使用された京町家は、延11 軒であった。京町家AIR では、オランダからの来日アーティストが京町家に滞在し、特色ある創作活動や、京町家に関する調査・研究などを実施した。また、在日中に成果発表会や展示を行い、帰国後はアムステルダムのJCC においても成果を報告した。ここでは、平成26、27 年度の取組を紹介する。
・目的:京町家AIR のテーマは、オランダのアーティストが、京町家に滞在して京都の伝統文化や京町家での生活を体験し、二国間の文化交流が生み出されることを通じて、「地域社会に何を提供できるのか」であった。期待される効果は以下に表記する。
 
①まちづくり:地域まちづくりの観点から、国際的な芸術・文化交流、アイデア交流を通じて、地域の魅力を再発見する機会とし、まちづくりの機運を高める。
②京町家:アーティストが伝統的都市住宅である京町家に滞在することによって、京町家の現状を見つめ、生活を体感し、暮らしの文化を海外へ発信する。京都においては、国際交流に積極的な京町家所有者・居住者および団体の協力を得て、京町家の活用を促進する。
③パートナーシップ:京都からオランダ、世界へ、国際交流の橋渡しとなる人的ネットワークづくりを進める。

・実施プログラム:京町家AIR では、伝統工芸家などの個人、団体の元で研修するプログラム(Kyoto Study)、並びに京町家での生活体験を通じて、建築や都市研究、活用方法や地域活性化のためのプロジェクトを提案するプログラム(Machiya Study)の2 つのプログラムからアーティストが選択した。
 
①Kyoto Study (伝統・文化・工芸を知る、学ぶ)
(例)西陣織、京友禅、清水焼、和紙、伝統音楽、京町家に関わる技術職、文化財修復など
②Machiya Study(京町家の生活から見える提案と実践)
(例)京町家の再生、リノベーションアイデア、コミュニティプロジェクト、アートツーリズムなど
 
・協力体制:京町家AIR の実施にあたっては、第一にホームステイ先である京町家所有者・居住者の協力が欠かせなかった。当初より京町家まちづくりファンドの改修助成町家にも滞在の協力をもらったが、平成26、27 年度は米田家、特定非営利活動法人ANEWAL Gallery を滞在先とした
・その後の展開:京町家AIRを経て、オランダで活躍するアーティストの取組みと展開について紹介する。デルフト工科大学の准教授で建築家のビルギット・ユルゲンハーケ氏(平成23 年度)は、京町家について都市住宅の観点から継続的に研究を続け、国際学会で発表を行った。また、日本建築専門ツアーのガイドとしても来日し、「京都生活工藝館 無名舎」を度々訪れて交流を続けている。その後、まちセンでは、デルフト工科大学の研究者に対して継続して研究協力を行った。ハニー・ヴァン・デン・ベルグ氏とエリー・ダンカー氏(平成23 年度)は、京町家AIR の体験を通じてオランダで日本のアーティストを受け入れる活動を実施している。リス・フェルデニウス氏(平成24 年度)は日本の技に触れてもらうための和紙のワークショップの開催、他のアーティストも京都にちなんだ展覧会などを展開している。
 また、平成30 年、フランスの建築家グループAparts はANEWAL Gallery によるAIR に参加した。京町家を建築の観点から研究し、展覧会「町家の教え」を開催した。まちセンでも彼らの研究に協力し、令和4 年には書籍の発行を予定している。まちセンにとっても、アーティストの受け入れに協力をいただいた京町家所有者・居住者及び団体との協働が現在でも貴重な財産となっている。
 
〈総評〉
 実際に体験を交えた文化交流は一つの機会で長年続く国際交流の架け橋ともなり得ることがわかる。ただし、情勢的に日本に来ることは出来ないけど、体験してみたいという声を拾い上げなければならない。そこから仮想現実は海外向けでもより関心を持って貰える機会創りになり得るかも知れない。

2024/07/11

石村尚也,間宮大輔,加藤靖隆(2021)
「AR/VRをめぐるプラットフォーム競争における日本企業の挑戦」
『株式会社日本政策投資銀行』354巻1号.

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、株式会社日本政策投資銀行の「AR/VRをめぐるプラットフォーム競争における日本企業の挑戦」である。以前の期末報告会で、VRのビジネス商法について考えてみると継承について深く考えることが出来るのではないか、とコメントを頂き、それを参考にプラットフォームを研究することから始めようと思った。システムと人との関係性に変革をもたらす技術の一つであると言われているが、どの部分から変革に繋がるのか関心があった。今回は特に日本企業で導入されているVR技法について概要を調査することが文献の主な選択理由である。
 
〈内容〉
要旨:ARとVRについて
①AR:Augmented Realityの略であり、「絵の前にある現実世界にコンピュータで作られた映像や画像を重ね合わせ、現実世界を拡張する技術」のこと。
②VR:Virtual Realityの略であり、「現実にない世界、または体験し難い状況をCGによって仮想空間上に作り出す技術」のこと。
・AR,VRはあらゆる産業において成長が見込まれており、次世代の情報伝達手段として、生活やコミュニケーションのあり方、さらに人とシステムの関係性に変革をもたらすと考えられている。
・デバイスの性能面で多くの課題を抱えており、一般消費者への普及は道半ばである。
・日本企業としてはデバイスを構成する要素技術の開発や人々が生活や経済活動を行うバーチャル空間「メタバース」の構築において、独自の観点から世界に存在を示していく。
 
 まず、AR/VRはゲームなどのエンターテイメント分野を想像しがちだが、製造業・医療・教育・観光などのあらゆる分野で利用が可能である。市場の成長を推進する要因として、設計やプロトタイピングにおける活用の拡大が挙がられている。ARは特に「Pokémon Go」などのスマホアプリから社会に通じるようになったが、近年ではBtoBの利用が拡大している(本稿では特にBtoCに目を向けたいため、事例挙げないでおく)。
 VRの最も特徴的な点は体験者に対し、バーチャル空間への深い「没入感」を与えることである。例を挙げると、MESONでは2021年に「Project PLATEAU」を活用し、東京都渋谷区神南エリアを舞台としたAR/VRの周遊体験の実証実験を行った。これは遠隔地のVRユーザーと現地のARユーザーとが「街歩き」体験を共有できるサービスである。周囲にAR/VRコンテンツを配置することで、街に関する発見や町の魅力向上に繋がることが望まれる。
 両者の利点として大きく挙げられるのは、人間が生来持つ五感を用いることで、限りなく「体験そのもの」を相手に伝えることが出来る。それにより、相手に伝えられる情報量が格段に増えることとなり、ミスコミュニケーションの解消にも繋がる。また、360度ビューとなるため、「人がシステムに入り込む」感覚となり、「対面的」なものから「包括的」なものへと変化する。

上:体面的,下:包括的

 では、次にメタバース空間についてである。現時点では「誰もが現実世界と同等のコミュニケーションや経済活動を行うことが出来るオンライン上のバーチャル空間」と考えているが、真にメタバースのプラットフォームは存在していないと仮定されている。現在ではゲームやアパレル業界で幅広く導入されつつある。国土交通省や各自治体が上記の方法で主導する3D都市モデルの整備・活用が進めば、「リアル志向」のプラットフォームも確立されるだろう。
 最後に今後の課題について調査する。AR/VR・バーチャル空間は前述のとおり、あらゆる分野で成長が見込まれているが、デバイスの個人保有率が少ない。スマートフォンが約7割程度であるのに対し、家庭用VR機器はいまだ1割にも満たない。認知率は約9割を突破しているのに対し、同じく利用しているのが5%と差が激しい。ここから関係者の多くはAR/VRは認知率が上がったが、初期段階の市場であると考えており、メインストリーム市場に移行する、「いわゆるキャズムを越える」ためには多くの課題がある。特に大きな課題としては、デバイス性能である。誰もが気軽に使うには、依然として重く、操作方法がわかりづらい。また視野角も人間と同様ではないため、身体的負荷もありうる。長時間使用できるスマートフォンと比べると、短時間の使用になるため、利用が制限されてしまうことが一般普及の促進低下に繋がりかねない。
 上記から、今後、利用目的に応じた複数のプラットフォームが並立し、発展していくことが予想される。一方で一般消費者への普及を行うためにも性能の良さを上げる他、国や地方自治体も協力する体制を整えることでより、促進に繋がると思われる。

〈総評〉
 一般消費者への普及という面が、ビジネス商法で扱えるか重要な論点になる論文であった。認知度は高いが、スマホのように普及していないのは、性能面ももちろんありうるが、国などの認知度の低さなどの諸々の要因があると考えられた。まだVRについて知らない部分が多いため、まずは知識をつけていきたい。また、メタバース空間についても同じようなことが可能であるかもしれないため、そちらの面も調査を引き続き行っていく。

2024/07/04

古賀元也, 鵤心治, 多田村克己, 大貝彰, 松尾学(2008)
「景観まちづくりにおける空間イメージ共有手法に関する研究」
『日本建築学会計画系論文集』73巻633号. 2409-2416頁.

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、日本建築学会計画系論文集の「景観まちづくりにおける空間イメージ共有手法に関する研究」である。この前はVR手法を取り入れる理由である、科学的可視化を着目してきた。では実際に景観まちづくりにおける空間イメージ戸は何か。また、空間イメージを持たすことにより、改善できる点はあるのかを調査することが文献の主な選択理由である。
 
〈内容〉
 景観まちづくりは町並み景観の目標蔵に対して合意形成を図りながら、視覚的立体的にイメージのしやすさが求められ、近年では、VR技術が使われるようになった。本研究では、地域住民自らが環境や建物整備などから町並み空間に与える影響を認識し、まちづくりを行うワークショップ(以下WSと表記)とVR技法の両面からまちづくりに関する課題を研究していく。
 まず、WSでは①対象地域を歩いて、まちの魅力と課題を発見する,②対象地の全体模型とCCDカメラを援用し、課題に対する対策を提案する,③全グループの提案を項目ごとに整理した「景観データベース」を作成する,といった用法で重要度の高い対策を抽出していく。次に課題解決の為、模型よりリアリティのある再現が可能なVR技術を用いて計画案実現を分析し、支援ツールの有用性を明らかにする。

WSの概要

 第1~3回目での「まちを歩く」から課題と対策を提示し、計画表の作成を第4~6回のWSで行っていく。第4~5回は模型を用いて行うが第6回以降、実際にVRを用いて、最終計画案の作成を行う。模型作業では複数の参加者が一つの模型を囲み、試行錯誤を繰り返す。またVR技法では、まちなみ全体をイメージする模型と異なり、「歩行者視点」で自らの操作によって自由に仮想空間を歩き回るが可能であることから、連続し・回遊性を意識した提案が多く出たことが報告されている。VRは提案されたプランの数だけデータ作成が容易であるため、プラン同士を比較することができ、プランの集約が容易である。
 本研究では、景観データベースの14項目課題とその課題に対する2つの対策案、目標空間像を実現する為の課題と対策とした。特に景観計画立案支援システムによって明らかとなった最も重要度の高い対策案に着目を当てている。支援ツールのVRを使用する方法は、最後のWSのルール作りの際、計画案から具現化が模型より、行いやすいとの報告が挙げられた。特に建築デザインや法公社空間の回遊性を再現するには模型ではありのままに表現できない。しかし、まちなみの色彩検討において、ツールの有効性が見られなかった。模型作業では、色彩検討の場合、用意したテクスチャーが多くなると数を絞るのに困難を要する。また、複数プランを検討する場合、張り替え作業に時間を要する。
 今後、VR技法に多くの種類を整理したテクスチャーボックスと容易に変更できる操作性の高い機能を搭載し、さらに連動してそのテクスチャーをしようしたまちなみの実例画像が表示されるなど、色彩検討の機能を強化し、模型作業と援用することでより円滑なWSが行えるだろうと予測されている。一方で、VR技法を援用した議論から模型作業のFBが見られた。この場合、模型作業で検討したプランを再度VRに反映することは出来ない。今後、WSの場でVRに反映するようなシステムを開発することでより効果的な模型とVR技法を併用したWSの支援が期待できる。 〈総評〉VR技法はあくまでも併用という形で景観まちづくりに使用されていることがわかった。その理由としては、メインで使用すると全体像の把握が出来ず、一部分といった認識になることを防ぐためである。景観は一つの建物のみで出来ておらず、その地域全体を把握するには、技術の革新が必要とされる。しかし、WSで模型とVRの両面を用いることでより実践的な課題解決へと導く有用性も確認されている。今後の研究では、景観のみならず、内部構造のイメージ具体化の有用性も調査していく。

2024/06/27

清川清(2017)
「バーチャルリアリティ技術を用いた科学的可視化のメリット-様々な研究事例を通して-」
『可視化情報学会誌』37巻146号. 110-115頁.

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、可視化情報学会誌の「バーチャルリアリティ技術を用いた科学的可視化のメリット-様々な研究事例を通して-」である。VRを建築に使用するメリットとしては以下の5点が挙げられると考えた。
①建築物の完成前に仮想空間でモデルを確認し、デザインやレイアウトをリアルタイムで調整できる建築設計シミュレーション
②購入希望者が物件を実際に訪れることなく、仮想ツアーで詳細な内覧を行うことができるバーチャル内覧
③既存の建物やインフラのデジタルツインを作成し、メンテナンスや修繕の計画を効率的に行う建物管理
④都市開発プロジェクトにおいて、街全体のデジタルツインを利用して、交通や環境への影響をシミュレーションする都市計画
⑤賃貸物件のリース契約前に、テナントがオフィスや店舗の仮想レイアウトを試すことができる仮想空間デザイン
 VR技術を活用した建築・不動産ソリューションは、プロジェクトの効率性を高めるだけでなく、顧客に対してもより魅力的で納得のいく提案を行うことが出来る。また、デジタルツインの技術を活用することでリアルタイムのデータと連携し、より精度の高い管理と運用が可能になるため、その手法の一部を京町家の保全活用に導入できないかと考えた。まず、VR導入の利点を調査するため、文献を取り上げた主な選択理由である。
 
〈内容〉
 VRは人間が受容する全ての感覚を扱う広範な概念であり、技術分野である。その実現形態は様々であるが、典型的にはリアルタイムに視点追従する立体映像を伴う。VRを科学的可視化に用いる積極的な理由として、データ量指数関数的増加を挙げている。ムーアの法則に従って計算機の性能が向上するにつれて、それ以上の速度でより大容量のデータを扱う欲求が生じた。そこで高解像度の没入型VRを用いて、人間の高度な知覚・認識能力を活用することで複雑になりすぎたデータを読み解こうとするために導入が推進されている。人間の空間知覚・立体感覚・体性感覚などの身体能力を全て使うことで性買うに高速なデータの把握や操作が可能であると考えられている。しかしながら、今日に至るまで没入型VRによる可視化が一般的なPCモニタなどによる可視化と倉寝てどのような点でどの程度の利点があるのか、まだ理解が進んでいない。
 次にVR映像の特性について、視野角・動眼視野角・視点追従・両眼立体視・ディスプレイ・写実性等の多要素から構成されている。その中から本稿では、ピックアップして取り上げる。
 
1.視野角:人間の視野は水平200度✕垂直125度8度程度で、VR用HMDは水平80度✕垂直90度、CAVE型ディスプレイは水平270度ほどの視野を確保出来る。一方で、PCモニタは水平視野30度程度であるため、リアルに近い視覚を提供できるのはVRであるとされている。また、人間の視野は注視点を中心としており、眼球運動で情報処理出来る領域を有効視野と呼び、大体水平30度✕垂直20度である。眼球運動に加えて、注視点が迅速に安定して見える領域を安定注視点と呼び、水平60~90度、垂直45~70度程度である。特に水平90度以上は立体感や臨場感に関連する誘導視野が広がる。
 
2.両眼立体視:左右眼に視差のある映像を提示することで立体映像を提示する。調節や運動視差など奥行きを感じさせる要因の中で、視距離10m以内の場合、奥行き感度は両眼視差が最も優れている。
 
3.フレームレート:描画頻度もパフォーマンスに影響を与えている。ビデオは30fpsであり、VRはより早く90fpsの速度以上であるのが重要である。
 
 CAVE型ディスプレイとそれ以外のディスプレイを比較した研究によると、CAVEの方がデスクトップ環境よりも、2Dより3D野砲が複雑な情報システムタスクを正確に把握することが出来る処理能力になると報告されている。VRについて様々な知見が蓄積される一方でどのような場合にどの程度の利点があるかケースバイケースであり、一概に利点がるとも言い切れないことが明確になってきつつある。研究としては関心が高いが、可視化の研究としてはデメリットの面も出てきているので、特にデータ空間を移動するインタラクション方法についてもさらなる研究が求められている。VR活用方法の研究分野も様々あるが、可視化について成功事例を収集している情報機関は未だ少なく、文献が少ないことが今後の課題である。VRが誰の手にも届く「VRの民主化」ではなく、「VR可視化の民主化」を進展させていきたい。
 
〈総評〉
 なぜVRが建築分野などで導入されているのか疑問だったが、人間の視野とVRで見ることの出来る視野、ディスプレイのみで見る視野の範囲を絡めて考えることで、かなりの差があることがわかった。また他にも写実性やディスプレイのサイズ、視点追従などの様々な要因から感情を表せることが出来るのだと思った。特に建築では、図面ではなく、実態物を魅せることでその建物の活用方法のイメージが湧きやすくなる。本稿では、なぜVRが好まれるのかという点で調査したため、次は建築でVR手法を導入する利点についてより深い調査を行いたい。

2024/06/20

張 天翺,佐藤誠治,姫野由香,小林祐司,金 貴煥 (2005)
「VR を用いた歴史的建築物をランドマークにもつ街路空間の景観評価手法-中国西安市の南大街における沿道建物高さシミュレーション-」
『都市計画論文集』41巻1号.69-76頁. 日本都市計画学会

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、日本都市計画学会の「VR を用いた歴史的建築物をランドマークにもつ街路空間の景観評価手法-中国西安市の南大街における沿道建物高さシミュレーション-」に関する研究である。観光税だけでなく、歴史的景観の魅力を実際に現地にいる人だけでなく、遠くにいる人にも伝えることが出来る手法はなにかという部分でVRが出来るのではないかと考えた。これが文献の主な選択理由である。
 
〈内容〉
 伝統的街並み景観を有している中国西安市においては、急速な経済発展による近代化に伴う都市開発により、伝統的な建築と新しい建築がいかに共存し、個性に富んだ歴史的な雰囲気を保ちながら、現代都市に転換するかということが非常に重要な課題となっている。ではここで、歴史的景観保全を行うために景観の特徴を平面ではなく、立体的に把握することで歩行者や観光客からはどう見えているのか、VRを使用し、評価構造を明らかにする。
 VR手法としては、沿道のすべての建物高さと壁面位置が揃った景観から、高さを変化させる建物をランダムに選択し、建物高さと景観評価を行う。VR手法により、新たな建築物を建てる際に、区ごとに沿道建物の高さを調節するという整備の手法を提案し、歴史的建築物と周囲の建物の協調性を保ちながら、南大街の商業中心地である特色を最大限に尊重すべきであるという問題意識に基づいている。そこで、本研究では、歴史的建築物を持つ都市中心部において、単に周辺建物高さを抑制するだけでなく、空間を最大限に利用しながら、歴史的建築物やその歴史的建築物と周囲の建物との関係を歴史的な景観として捉えた上で、保全していくためのモデルを示すものである。
 まず、平面図での現状の建物の高さの把握を行う。そこから高さの平均値を算定し、建物の高さのパターンを計測する。そこからどのように観光客などに評価を行ってもらうため、被験者に3D 空間を自由に歩いてもらえるインタラクティブなシステムで行った。
豊富なインタラクティブ3D コンテンツをプログラミング言語によらず簡便かつ効率的に開発することができるソフトに3D モデルを取り込んで評価実験用モデルを作成する。本研究ではVirtools Dev2.5 を使用した。被験者にリアリティ感を与えるため、広い視野角を実現できる曲面スクリーン上に投影したシミュレーション映像を観察させることにした。評価実験においては、液晶プロジェクターを使用してパソコン画面を直接に曲面スクリーン上に投影したVR システムを用いた。
 結果、VRを使用し、どのように感じているのかアンケートを行った結果、因子分析により3 つの因子が抽出された。第一因子は、「魅力的な-つまらない」・「親しみやすい-親しみにくい」であり、これらは街路景観の『親和性』の因子であると解釈できる。第二因子は「動的な-静的な」「落ち着きがある-にぎやかな感じ」であり、街路景観の『躍動性』の因子であると解釈できる。第三因子は、「重厚な-軽快な」・「密な-疎な」であり、街路景観の『重厚性』の因子であると解釈できる。上記より、景観の感性というのは、3つの形容詞句の対比から構成されていることがわかる。特に様々な結果により、被験者は、街路景観に親和性を感じることにより、好ましさの評価に結びつくという評価構造が明らかになった。つまり、「親和性」が高いほど高評価に結びつくとわかる。
 本研究では、歴史的建築物を持つ中国西安市南大街の沿道建物高さに着目し、建物高さを影響区ごとに変化させ、その組み合わせによって生じる街路景観が人々の心理評価にどの様な影響を与えるかを明らかにすることで、研究対象地域において望ましい建物高さの組み合わせの導出を行った。また、街路景観を評価する際に、実際に評価する歩行者や通行者の視点に則したものでなければならず、本来ならばシークエンス景観を想定した評価が必要なことから、評価実験の際、被験者がよりリアルな体験を得やすく、評価がしやすいといった理由から、CG を用いたVR システムによる評価実験を行った建物の外観のみでなく、高さも心理的要因の一つとなっていることがわかった。
 
〈総評〉
 VR手法の論文であり、建物の外観と高さが心理的要因の一つことを初めて知った。また、高さごとに規制区分や研究結果を分類することで、より明確に被験者の感じる点が理解出来る。現地に行かずとも、被験者の心理要因を調査するためにVRを使用することは「京町家」と知らない人に情宣する良い機会になると考えられる。しかし、VRは日本での導入率は低いことが課題としてあげられる。その理由は初期費用の高騰化であると思われる。費用を検討するか、今後長期的に見たときのメリットを考慮するかで議論が分かれると思われる。また、次回もVRについて検討していきたい。

2024/06/13

阪本崇(2016)
「文化経済学における価値概念の役割 享受能力と価値形成過程」
『季刊 経済理論』53巻2号,45-57頁

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は『季刊 経済理論』の文化経済学における価値概念の役割 享受能力と価値形成過程」についてである。使用価値と交換価値の二元論に始まる経済学の価値概念の中に文化的価値の概念と、価値形成に関する議論と関連づけ、消費者の享受能力によって価値が変化しうる文化の領域では、多様な観点から評価される文化的価値が価値形成過程のなかで重要な役割を果たしうることを示されている。上記の点を踏まえて、価値対する構造の意識の変化を調査することが文献の主な選択理由である。
 
〈内容〉
 文化経済学において、価値論は経済学視点から見た文化に関わる価値であるとしても、それが何を意味するのかについては、きわめて曖昧である。その原因は「文化」そして「価値」という言葉の多義性にある。「文化」という言葉は芸術や学問といった具体的な対象を意味することもあれば、一定の集団がもつ思考様式や行動様式といった、いわば文化人類学的な意味での「文化」を指すこともある。一方、「価値」は個々の対象の「ねうち」や重要性といったものを指す場合もあれば、個々人がもつ価値観を意味する場合もある。実際、文化経済学においてはこうした「文化」と「価値」のもつさまざまな意味が入り乱れて登場することも少なくない。芸術作品や文化遺産といった価値に関するものは文化人類学的な意味での文化や個人の価値観は相互に密接に関連しているため、完全に切り離して議論することは難しいと思われる。
 「文化的価値」が必要とされる理由はThrosbyが言うには、価値の概念が文化・経済としての起源が異なるにも関わらず、二つの分野を関連付ける過程の出発点、すなわ ち、その上に経済学と文化との複合的な考察を構築することが可能な礎石であるとみなすことができる、と論じている。二つの領域で使用されている「価値」の概念が全く共通する概念ではなく、それらが全く独立した理論的な基礎を持つ概念であるから価値として存在している。つまり、「価値」という概念に内実や役割の二重性があるからこそ、その関係を問うことで経済と文化の関係を問うことができるのである。
価値とは、人々が財の消費から得る主観的な効用をもとにし 示すとされる支払意志額を個人的な価値の表明として捉え、それをベースとしながら市場メカニズムの作用を経て決まる価格を財の価値として受け入れていることになる。しかし、市場で取引される財だけではなく、市場価値が定まっていない財、いわゆる文化遺産等についても市場と同じように支払意思額が決定するとされている。まず、市場において取引される文化的な財の価格に関して言えば、そもそもそれが経済的価値を正確に示したものであるとは必ずしも言えない。Throsbyは,現在の価格理論は価値論を無用にしたわけではなく、「市場価格はせいぜいその裏に潜む価値の不完全な指標でしかないのである」と述べた。
 その理由として、第1に価格が長期の傾向と区別 することの困難な一時的な攪乱に常に晒されていること。第2に不完全競争・不完全情報といったさまざまな市場の失敗が存在するために価格には多くの個人の財に対する支払意志額が歪められてしか反映されないこと。そして、第3に価格は財の購入者によって享受される 消費者余剰を反映しないことである。最初の2つの理 由が市場の機能に関する技術的な理由であるのに対して、この第3の理由はそうした技術的な不完全性あるいは不安定が存在しない場合にも生じうる。
 次に文化価値、特に固有価値である文化がどのように評価されるのかを挙げる。「人がなしうること」や「人がありうる状態」への貢献を、誰が、どのように評価することができるのかという点が問題である。文化は財として固形のものやサービスなど、直接恩恵を与えることは出来ない。しかし、文化が支払意志額に顕れない特別な価値をもつという考え方は芸術・文化への助成に限らず,文化政策全般において考慮されなければならないとThrosbyは主張している。「生を保持するための任意のものの力」という抽象的な規定に満足するのではなく,その評価の中身や方法を問う必要があると思われる。
 最後に文化的価値は一つの感性を鍛えるための財ではなく、他の多くの財と相互に関連を持つものとして考えるべきである。特に価値形成とは、個人が経験を積み重ねることによって新しい価値を受け入れ、自らの持つ価値をたしかにし,場合によっては変更してゆく過程である。たとえば、現代美術の価値は人々がモンドリアンその他の作品に触れ、現代美術の価値を学んでゆく中で形成される。文化とは人が生きていくためのノウハウ(遺伝情報構造)は主たる生産要素として生み出された財が現 在の私達の生活の中で豊かさを実現するのにどれほど役立っているのかを考えることが出来る。また、そこに価値の源泉のひとつを見出すことが出来ると思われる。
 
〈総評〉
 文化価値における価値形成の意識変化が挙げられていた。ただ財として文化を見るだけでなく、消費者(お金を払う側)が芸術や文化を見て、金銭を払えるのかどうかで価値が決定するということがわかる。ただ文化のみだけでなく、「本物」であることも価値の重要視される一つである。そっくりに創られたレプリカは偽物にしかならず、価値として見いだされるものはない。その点を考えると京町家は本物である(市が管理し、登録しているため)ので、価値基準としては高い。しかし論文調査を進めると共に、価値向上のためには人に見てもらう機会や場所の提供も必要だと思われた。価値は客観的なモノでしかない、という根底の部分を洗い出す必要があると思われる。
 

2024/06/06

廣瀬文章.辻本昌弘(2013)
「地域社会における伝統の継承」
『質的心理学研究』12巻1号,66-81頁
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqp/12/1/12_66/_pdf/-char/ja

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は『質的心理学研究』の「地域社会における伝統の継承」である。なぜ京町家を継承するのかという点で基盤にあるのが、伝統を継承するという点であった。そのため、なぜ伝統自体を継承しなければならないのかといった観点から調査することが文献の主な選択理由である。
 
〈内容〉
 秩父の龍勢祭りに焦点を当て、伝統継承に関する課題について取り上げる。本稿では龍勢祭りを事例として、地域社会における伝統の継承について考察する。
 一つ目の課題は、「伝統の継承」が困難になっている状況である。伝統のなかには,消失してしまったものもあれば、形骸化してしまったものもある。伝統の継承が難しくなった背景には、過疎化や少子高齢化による担い手不足・現代人の移動性の高さ・住民の多様化といった時代の変化が挙げられる。二つ目の課題は,伝統への住民の参加がいかに促進されているのか検討することである。伝統の継承が困難になってきているとしても、伝統の消失をやむを得ぬものとみなすべきではない。知恵を絞り、あるいは工夫を凝らして、伝統を継承している人々がいるからである。伝統への参加を促進する要因は多様であるが、本稿で注目するのは当事者のあいだの相互依存関係である。伝統を継承していくうえで,当事者のあいだの相互依存関係が果たす役割を考察する必要がある。三つ目は、伝統の独自性について検討することである。近年、消失しつつある伝統の再発見と観光資源としての活用が試みられている。このようなことが可能なのは,その伝統が比類のないものであり、他地域の人々が容易には模倣できない独自性をもつからであろう。ありふれたことや,他地域の人々がすぐに模倣できるようなことでは、再発見する意義もなければ観光資源としての活用もおぼつかない。解明すべきは、独自性がいかに生み出されるのかという,独自性の源泉である。伝統を担う人々が駆使する技術に着目して,独自性の源泉を考察する必要がある。
 (伝統内容の継承に関しては本稿が長いため、省く。)伝統の変化として大きく挙げられたのが、新入り会員が中心的(今までになってきた人に携わる)ことは許されなかった。昔は秘伝の作業に新米は参加することもできなかったが、現代の変化に合わせ、人材不足より、秘伝の技術を公開しておくほか伝統を守る事が出来なくなってしまってきた。このままでは技術を伝えていけないくなるため、若い世代に技術を伝えていくには,作業への会員の参加が不可欠になった。
 上記の三つの課題を考案すると、かつては、生まれた地域で生涯を暮らすことにより、自然に伝統を身につけ継承していったのかもしれない。生活の身近な場面で龍勢が自然に継承されていたことを示唆している。しかし、現代社会においては自然に伝統を継承していくなどということは難しい。この背景には、住民の経歴と生活の多様化がある。
まず、住民の経歴の多様化により、生まれた地域で生涯を暮らすことが少なくなっている。また、作業への参加を促進する諸要因を挙げたうえで,これらの要因の有効性を左右する相互依存関係の特質を論じる。参加を促進する諸要因として挙げられるのは、個人・集団間競争である。伝統保持の参加継承のための参加イベントなどは、各人の判断を尊重するだけでは、各人が無理のない範囲で参加するということにしかならない。各人が仕事・地域・家庭の所用を抱えて多忙なのならたとえ魅力・集団間競争・各人の判断の尊重があっても、参加者を十分に確保できない。 必要なのは仕事が忙しくとも、あるいは少々の無理をしてでも、なんとか参加するという各人の積極的な努力である。
 最後により広い観点から理論的総括を行う。他地域の人々が容易には模倣できない独自性があるということは、歴史と実践をめぐる問題につながる。まず,歴史の問題について論じる。他地域の人々が容易には模倣できないということは、龍勢の技術等が本稿の調査地で長い時間をかけて歴史的に培われてきたものだということを意味する。過去の歴史的な経緯が現在のとりうる行動の選択肢を制約しており、制約があるからこそ自分達の地域のアピールポイントにもなり得る。様々な地域の伝統について学ぶことの意義は模倣することにあるのではなく、みずからの伝統を見直し変革していく契機にすることにある。歴史の制約により他者のやり方を模倣することができないとしても、他者のやり方をまったく参考にしないのは得策ではない。創造的な変革を阻害するのは、思い込みや固定観念である。他者の伝統を学ぶことが思い込みや固定観念を揺さぶる契機になり、自分たちの伝統を自分たちなりのやり方で変革していくことにつながる。ここに他者の伝統を学ぶことの実践的意義がある。また、様々な地域の伝統を知ることを通じて歴史の制約を自覚することは、単に模倣すればよいというよう,安易な試 みに対する警鐘にもなろう。
 
〈総評〉
「他者の伝統を学ぶことの実践的意義」という点に関心を持った。ただただ伝統は引き継ぐだけでなく、なぜ周りは模倣できないのかという根本的な見直しが必要であると感じた。この伝統から人々に何の学びを与えることが出来るのかといった付加価値の付与が必要なのではないかと思われる。また、その地域の歴史を魅せることによって、観光の誘致など利点を活用できるのではないかと考えられた。


2024/05/30

大谷孝彦 (2007)
「町家再生の現代的意義―NPO法人京町家再生研究会の活動実績の検証」『住宅総合研究財団研究論文集』34号.3-14頁

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、住宅総合研究財団研究論文の「町家再生の現代的意義―NPO法人京町家再生研究会の活動実績の検証」に関する研究である。『町屋を残すことにどのような意義があるのか。』、『なぜ、京町屋を残すことは必要なのか。』、『全て残すのではなく、残す京町屋を減らすことで、資金の影響は減らせるのではないか。』といった中間発表でのコメントを一部参考にし、もう一度町家保全の意義を研究することが文献の主な選択理由である。
 
〈内容〉
 歴史を積み重ねてきた町家は今もそこに引き継がれて来た伝統職人の技、くらしと生業が息づいている歴史的木造都市住居であり、可視的・体験可能な歴史的ストックとして都市の価値ある資産である。歴史性と空間性の密度の高い京都という都市において,間口が狭く、奥域深く密集した鰻の寝床と呼ばれる京町家の空間とそこにおけるくらしは相互的関連を持ちながら洗練され、熟成されてきた。京町家は以下の特徴において評価されている。(以下抜粋)
①自然素材や自然環境を取り入れた建築空間やくらしにおいて、環境共生のシステムが成り立っている。
②自然や人との係わりを大切にし、秩序性や美的感性を合わせ持つ精神性の豊かなくらしの場である。
③適正な規模と洗練され、秩序性のある意匠・外観構成によって人間的で美しい町並み景観を構成する。
④表と内のほどよい空間的連続性・町家居住意識の共有によって、健全なコミュニティを形成している。
⑤培われてきた職人の技を伝統技術・文化的価値として継承している。
 上記のような歴史的価値、歴史性が再評価され、歴史的資産としての町家を活かしたまちづくりが進められている。歴史性とは連綿と積み重ねられてきた時間、様々な事象の総和であり、「現代」或いは「今」という場はそのような意味を持つ歴史性を根拠として存在する。 町家の「再生」は歴史性の継承と新たな展開の同一的共存であり、歴史性と現代性がバランスの取れた緊張感をもって共存することによって、持続性と創造性のある、魅力的な「都市」の再生を可能とする。 都市とはくらしと生業・居住と経済が共存し、人・物・情報が高度集積する場である。今、その共存と集積の質 的なありかたが問われている。そのことを考える一つの 要素として「町家再生」があると考えられる。町家が壊される原因としては、耐震・防火に関する建物の安全性への不安、くらしの快適さ不足、高層マンションなどによる立地環境の悪化、建物維持保全の手段や資金不足などがある。
 次に町家を守る為の京町家ネット活動を参考にする。行う意義として、町家ネットの運営は再生研究会を中心として年間6 回の連絡会議を行い、ネットワーク活動の基本的な理念の下にそれぞれの活動内容を相互に確認し、それに基づいて各会が独自の活動を実行する。一つの再生事例に対しても、各会がそれぞれの立場からの対応を行うと共 に活動の有機的な相互連携が行われる。京町家再生研究会・京町家作事組・居町家情報センター等の様々な機関がそれぞれの保全活動を行っている。例えば、京都市の市民窓口となる外郭団体、財団法人京都市景観・まちづくりセンターが主催する市民向けの「景観・まちづくり大学」の講座である「京町家再生セミナー」を企画担当して実行している。
 上記のような取り組みを含めた歴史的資産活用の現代的意義について取り上げる。町家再生とは「歴史性の継承と新たな展開一歴史性を根拠とした持続的創造行為」である。歴史性は単に過ぎた時間、取分け、その途切れた断片ではなく,今に至る全ての時間の蓄積がもたらす、空間と時間に係わる場所性としての意味を持ち,都市や地域の文化的特性・個性は歴史性によってつくられる。歴史性に対して,従来の保存と開発という単なる二元論的捕らえ方ではなく,両者の「係わり」を有機的、総合的に見る視野が持続的創造としての「再生」であり,それはかつて,ごく自然な形で理論と感性を実践の中に包括してきた住人のくらしや職人の技能に見習うべきものがある。「もの」「こと」を即物的に捉えるのでなく、他との「関わり」として見ることに現代性がある。今後の魅力あるまちづくり、都市再生はこのような歴史性の継承とそれを根拠にした新たな展開による持続的造によって実現する。歴史性はあらゆる地域におけるアイデンティティーの根拠として再認識される必要がある。京町家は都市の歴史性の重要な根拠の一つであり、従って町家再生は持続的創造行為として,歴史性を顕現化する一つの契機、手段としての意義が大きいと考えられる。
 以上のように、町家・町家再生が持っている現代的意義が今後の本質的な都市住居の実現可能性を示唆しているといえる。
 
〈総評〉
 町家は財政面で考えるのではなく、やはり歴史を重視した建物としての保全を考えるべきであると思われる。『なぜ、京町屋を残すことは必要なのか。』という部分については、歴史を飾り、日本の昔ながらの建築技術が集う町家は地域を結ぶコミュニティ形成としても重宝され、現代日本で廃れ行く横の繋がりを守る活動の一つとなっている。資材や財宝として扱うのではなく、今後作るまでに時間がかかる町家保全により、日本の歴史を彩っていると考えられた。しかし、『京町家を減らし、限定的に支援すれば、支援補助が増大出来るのでは』という部分において、解明できていないため、今後はその点においても研究していく必要があるとされる。

2024/05/23

白河慧一,坂野達郎,杉田早苗(2010)
「地域的な景観保護への正当性判断と相互拘束への遵守以降の背景要因に関する研究」
『日本都市計画学会 都市計画論文集』45巻3号,175-180頁

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、日本都市計画学会の「地域的な景観保護への正当性判断と相互拘束への遵守以降の背景要因に関する研究」について取り上げる。まず、景観保護への地域的な意義はあるのか。また、景観保護は基本的に公的な利益、いわゆる個人に還元されない利益として、自主的に取り組む住民意向がどのように形成されていくのか。上記のことを調査することが文献の主な選択理由である。

〈内容〉
 近年、地域的な景観を保護すべ以下どうかの正当性判断は公法上の制限事項や指摘協定など全員合意で定めた規定が存在しない場合における、司法上の景観利益の要保護性の認否という形で検討されてきた。こうした中で、「景観利益の侵害」において意味する景観利益の個々への帰着性、及び考慮する主体について、論者の間では大きく三つの考え方が提示されてきた。①個別利益として主観的な景観利益が損なわれているとの認識、②個々の個別主観的な景観利益の一方で、その反対側に存在する経済利益との調整を重視し、双方を合わせて守るべき景観利益を判断する立場、③景観利益を公益と私益の重なり合う利益として、個人に還元されない利益、住民らの地域ルール・秩序の相互遵守により、自主的に形成される、というものである。特に今回は②・③に着目する。
 まず、景観保護を行う上で、行政が景観利益を求め、管理責任を有するため、景観保護が妥当かどうかを判断する立場は市民・住民が正当であると考えられる。私益・攻勢期が混在する上で、景観と住民の相互依存関係を調査する必要があった。調査の方法としては住民の意識調査がメインであり、インターネットからアンケート調査をした。「景観保護の正当性認識」は対象景観の程度範囲によって異なることがわかった。空間的広がり(景観がどの範囲から成立するのか)、歴史性(景観がいつ頃形成されたか)、受益範囲(景観が範囲の人達によって大切か)、関わり(景観は近くにあるか、景観保護活動の参加)を対象とした。景観保護の正当性判断は法律上に問題や規定外の改築を行わなければ特に実行されても問題ないと6~7割の方が回答していた。ここからは正当性を認める人が相対的に起きと解釈できる。
 一方で、対象景観の受益範囲に関しては意見が様々であった。保護の意義がわからないと回答している者は比較的若い世代(学生~30代程度)が多く、景観保護の益について公的な資料や法律、ルール形成が必要と答えた人は50代以上が多かった。この回答について、高齢の人ほど他者の関わりや景観の受益について意義を持っていることがわかる。また、自主的ではなく、他者の協力性向により、景観のルールや規制を遵守するかも変化することがわかった。
 上記より、今後の課題として、景観計画を策定する際、やはり多くの住民の協力・参加がなければ、保護を行う(つまり、公益にはなり得ない)意義がないと思われる。景観への規制は決定主体の制度上の位置づけではなく、現にその地域に存在する私益・公益などの相互認識がより重要となる。既存の法制度を単なる基礎情報として位置づけるこの立場から生活利益秩序としての相互拘束ルールを認定する、私法的解決の道筋が示唆される。また、ルールの数値化可能性や有効性に対する確信が正当性判断・遵守意向に与える具体的効果を明らかにする必要があるとされる。

〈総評〉
 やはり、景観保護は住民の意思決定がない限り、進めていけない公私が入る問題かと思われる。住民はいかに景観保護が我々に与える良い影響があるのかを考える。それは理法自治体が望まないことも入っている私的な感情もあるかと思われる。また、景観保護に対する意識調査では、若い世代は行政が進める課題であるなら仕方がない、といったような意思のない意向が多くあった。これは今後の景観規制に対する日本全土の課題として意識する必要がある。
 今後特に、景観保護が住民に与える影響、及び京町家を保護する意義について調査を詳細に進める必要があると考える。


2024/05/16

川端和美(2020)
「法定外税に関する一考案-宿泊税を中心として-」
『現代経営経済研究』5号81-100頁

〈内容総括・選択理由〉
 今回の文献は現代経営経済研究の「法定外税に関する一考案-宿泊税を中心として-」について取り上げる。前回の中間発表で指摘を頂いた新税の公平感をできるだけ統一させるにはどうすべきかを考えるためである。しかし、公平感以前に新税である「法定外税」の知識が希薄のため、宿泊税を中心とした法定外税に関する知識を身に着けることが文献の主な選択理由である。

〈内容〉
 まず、法定外税というのは地方税法に定められている税目以外に条例により税目を 新設することができる税のことである。地方税法第4章第8節第731条において、「道府県又は市町村は条例で定める特定の費用に充てるため、法定外目的税を課することができる」と明記されている。法定税については,地方公共団体は課税するか否か、そして税率をどのようにするかについての選択権があるが、法定外税については税目・課税客体・納税義務者・課税標準・税率等について自由な選択が認められている。法定外税には法定外目的税と法定外普通税の2種類がある。法定外目的税とは地方税法に定められていない地方税のうち、あらかじめその使い道が決まっている税金のことであり、法定外普通税とは地方税法に定められていない地方税のうち、使い道を特定せず、地方公共団体が独自に使い方を決めることができる税のことを指す。
 しかし、法定外税の創設は容易ではなく、住民からの「公平・中立・簡素」が重要である。導入する理由から税制度、使い道など全てにおいて住民からの同意が必須になる。なかには横浜市が新税導入の断念を発表している。その際、争点となったのは、まず地方公共団体の協議の申し出に対する国の同意・不同意の理解と判断の基準についてである。またシステムが「国の軽税施策」に当てはまるのかどうかも争点となった。ただ、地方分権化を目指す日本にとって不同意であるので、断念という形も避けたいところである。そのため、特に不同意の場合は住民への丁寧な説明など細やかな配慮が必要とされる。地方分権を推進しようと考えるとき、自主財源を確保できる数少ない施策を後押しするための「同意を要する協議制」の更なる進化を期待したい。
 では、法定外税で導入されつつある宿泊税に焦点を当てる。宿泊税については、平成14年10月 1 日に,東京都が観光の振興を図る施策に必要な費用に充てるために法定外目的税として導入したのが初めてである。その後,平成29年 1 月に大阪府、平成30年10月には市町村として初めて京都市が宿泊税を導入している。国家戦略としても観光客誘致を進める中で訪日外国人が増加している今、観光は地域経済を活性化させる起爆剤として大いに期待されるものである。
 しかし、同時に大勢の観光客を受け入れるためには環境の整備が必要であり、財源が更に必要となる。また、その地域に住む人々は慢性的な交通渋滞等が課題として挙げられる。ただ、宿泊税は目的税であるため,観光客の受け入れ環境整備を目的とし、受益者負担の原則のもと観光客が納税者なので地域住民らが直面する諸問題に宿泊税収を用いて直接対応することは難しいはずである。目的税というからには,税負担と税の使い道との間に厳密な関係が必要となる。しかし,例えば観光の振興のために交通環境の整備が行われた場合、その恩恵を継続的に享受するのは一時的に滞在する観光客ではなくて、むしろ住民であろう。目的税は課税都合税のような先に使途ありきで後から財源を調達するような場合、最も負担の求めやすいところに税源を求めることになりがちでこれが目的税の性格を曖昧にし、目的税の評価を落としている原因であると指摘している。
 上記より、日本では地方分権化を進めることにより、地方における税の基盤は脆弱であることがわかる。また財源不足も要因の一つである。しかし、法定外税を検討する過程で住民に地域の抱える問題への関心を高める機会を与え、「課税」という形ではなくとも問題の解決策を見つけ出す手掛かりとなり得る可能性を示した。そして近年導入が増加している宿泊税については、目的税として扱われている点に疑問を持ち、「法定外普通税」とした方が地域住民と地域外からの訪問者との間での公平な税として相応しいのではないかと指摘している。さらに宿泊税について、宿泊と観光が一致しない地域問題がある。宿泊税を更に進化させるためには広域的な視野を有しての検討が必要となるであろう。

〈総評〉
 地方外税として地域に取り入れやすい税制度として挙げられた「宿泊税」であるが、地方分権化を進めるにあたって脆弱な部分が出てしまった税制度とも言えるだろう。地域住民と観光客で分別して徴収しやすい形にはなっているが、観光ではなく、ビジネスで来訪した場合も同じような税徴収になるのか疑問に思う。おそらく、ビジネスと観光を分別するとなるにも宿泊施設にも大きな負担となり、検討することは難航するだろう。税が徴収された後の明確な使途を記されていないのも問題である。特に京都は市が広い分、何が地域で問題なのかピックアップし、観光客にも恩恵が与えられるような使い方をすべきだと考えられる。この税の公平感を統一させることが観光税導入の大きな課題となるだろう。

2024/05/09

池知貴大,山田雄一(2021)
「宿泊税に対する観光客の支払い意思と「公平感」の媒介的役割」
『観光研究』33号1巻31-39頁,日本観光研究学会機関誌

〈内容総括・選択理由〉
 
今回の文献は日本観光研究学会機関誌の「宿泊税に対する観光客の支払い意思と「公平感」の媒介的役割」について取り上げる。特に北米で20年以上前から一般的な税として導入されている地域政策展開の原資として全世界で着目されつつある、宿泊税についての概要や課題に焦点を当てる。2012年にバルセロナ、2011年にローマ、2018年に京都市で宿泊税が導入されている。観光に関連して、国や自治体は、原理上、航空、食品、飲料など多くの事業に課税することができるものの、宿泊税が選好されるのは、比較的容易に多額の税収を集めることができるためとされる。
 しかし、宿泊税にしても観光税にしても観光客の意思なしに、言わば、半強制的に宿泊したり観光したりするだけで税を徴収されることは、景観を守るための政策として、果たして最適解であるのか。宿泊税を導入した背景と結果を調査することが文献の主な選択理由である。

 〈内容〉
 日本においての宿泊税は、地方自治体が法定外税として条例により税目を新設することができ、宿泊税は法定外税として、宿泊行為に課税される税金として導入されている。導入に際して課題の1つとなるのは、納税義務者からの課税に対する反感であり、特別徴収義務者である宿泊施設からは、その懸念が表明されることも多い。
 ただ、人々はサービス価値の評価(知覚価値)に当たり、必ずしも絶対的な価格だけを判断基準とはしていない。そのため、観光客の支払い意思(WTP/willingness to pay)も価格だけで決まるとは限らない。宿泊税を導入し、他地域との比較したところで、納税することに関する不公平感を感じず、支払い意思は高い可能性がある。さらに、新税の導入時には「何に使われるのか」「なぜ、必要なのか」ということは、議論されやすい論点であるが、これらの明示によってWTPが変化するとも考えられる。
 まず、宿泊税の導入が正当化される理由は、他の税金同様に、税収の増加を目的とする場合と、民間が行う市場の取引だけでは解消できない問題を是正することを目的とする場合がある。観光を行うにあたって、景観の保全や施設を必要とするが、地域によっては観光に割り当てられる税の割合が少ない地域もある。そのため、観光客から金銭的負担をしてもらうことにより、厳しい財政状況の一因を排除できる。
 一方で、地方自治体が思う政策を行うとやはり、課題として地域間の公平性が求められる。日本は北米に比べ、導入事例も少なく、納税者となる宿泊客は「なぜ、この地域だけ(自分だけ)徴税されるのか」と感じることは否定できない。その結果、宿泊税の導入が不公平と感じられた場合には、需要の価格弾力性に基づいた当初の推計数よりも大幅に来場者数が減少する可能性がある。このように、公平感は、宿泊税導入における費用負担と行動との関係の説明において重要な概念と考えられるが、その関係性は検証されていない。
 上記より、独立変数から媒介変数(公平感)を介した従属変数(すなわち、WTP)に対する間接効果を、ブートストラップ法を用いて検証した。宿泊税に関しては、観光目的であろうと環境目的であろうと、宿泊税の使途を明示すること自体は、人々のWTPに直接的にも間接的にも影響を与えなかった。同様に、宿泊税導入の背景を説明して正当化を試みても、人々のWTPは変わらなかった。
 特に考えられえるのは納税者の過去の納税経験は、「公平感」を通じて支払い意思向上に繋がっており、他地域で宿泊税導入が進むほど、導入は容易になると考えられる。「公平感」を平等にするためには、季節や場所を問わず導入していく必要があるかもしれない。

〈総評〉
 今日、宿泊税は京都をはじめとした多くの地域で導入されている新税ということが再確認できた。しかし、全国的に導入されているのではなく、観光が盛んなある一部の地域のみに導入されているため、観光客からは多くの反発もある。このことは観光税導入に向けても同じことになる可能性が非常に高い。景観の保全のために「公平性」を一律にしなければならないとも思う。
 だが、日本の景観を見るために来る観光客以前に景観保全ができていなければ、観光さえもままならないのではないだろうか。公平性を保つよりも重要なことは、税の運用や施策を詳細提示することが重要であると考えられる。文献のはじめに記載があったように、観光に対する知識が0で来られる観光客は少ないだろう。新税の使い道を提示することにより、公平感の一律は一致できると思われる。
 上記の文献調査より、今後は観光税や宿泊税に対する政策ではなく、地域コミュニティの形成や納税者からの課題について調査していく必要があると考えられた。


2024/05/02

自治体国際化協会(2008)
「米国における観光政策と地域活性化観光事例Tourism's importance to the U.S. economy and to regional revitalization」
『一般財団法人自治体国際化協会』1-28頁

〈内容総括・選択理由〉
 
今回取り上げた文献は、自治体国際化協会の「米国における観光政策と地域活性化観光事例」について取り上げる。前回までは日本の観光税や地域財政に焦点を当てていたが、より観光の制度が取り組まれている観光大陸米国での事例を調査することとした。また、グローバルな観光が進む中での問題点解決や地域の多様な文化・歴史・自然等の様々な資源を活用して魅力ある地域づくりを行うことをしなければならない。米国で行われている方策を日本の観光に活かせることはあるのかも調査することが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉 
 
観光産業は、米国の経済を支える重要な産業のひとつに数えられている。多額の消費行動を生み出し、各政府は観光産業から多額の税収を得ている。国際貿易の分野においても、観光部門における国際収支は黒字となっている。また、雇用創出における貢献度も高い。こうした強い経済パフォーマンスを持ちながらも雇用増大や地域振興、中小企業支援等における連邦政府の政策行動として戦略的な開発が注目を集め始めたのは最近になってからであり、米国としての総合的な観光政策、観光戦略が行われて来なかったと言われている。
 しかしそうではあっても、観光をテーマにした施策事業は、連邦政府の各部局や州政府、地方政府において、幅広く様々な形で行われており、連邦道路庁によるシーニックバイウェイプログラムは、単なる財政支援にとどまらず、観光道路としてのブランドイメージの付与を伴うものとして、地域観光振興において重要な位置づけをなされている重要施策の一例である。 
 2001 年9月11日の同時多発テロによって、米国の観光産業は大打撃を受けた。関連統計によると2004年後半から、観光産業は復調の兆しを示し始めてはいるものの、未だ回復途上にあるとみる専門家も多い。 観光産業界からは、こうした観光産業の衰退は、連邦政府の積極的な取組みによって回避できたのではないかとの意見も多いが、フロリダ州政府のVisit Floridaのように積極的なマーケティング政策を行い、観光振興による経済復興を行った事例もある。
 まず、米国における観光産業の役割を客観的に計測するために必要な統計データ等を紹介し、同時多発テロの影響も含めた米国における観光産業の動向、連邦・州・地方政府の役割や観光産業界や観光トレンドを、いくつかの事例とともに報告する。特に、米国内の産業後進地域や経済衰退地域における観光を活かした地域づくりの状況にみられる次のようなトレンドを確認出来た。

①近年の傾向として、田舎地域や何もない辺鄙な場所を、文化、歴史、自然をテーマとした旅行先として選好することに注目が集まっており、このことが、産業後進地域、経済衰退地域における経済活性化に繋がっている。
②こうした文化、歴史、自然をテーマとした旅行先において、多くの観光客が体験旅行を求めており、彼らの動向に着目した新規観光事業部門が成長している。
③観光による資源破壊が大きな問題として取り上げられることが多くなっている。学術団体やNPOでは経済的価値とは別の方法で観光産業の重要性や役割を評価する動きがある。
 
 国内産業としての重要度を測定するには一般的に総合的経済統計、国際収支、雇用 創造の3つにより計測されることが多いが、これら3つの分野における統計値からも、観光産業の米国経済における重要性を確認することができる。しかし、観光産業といっても違いには言えず、交通、宿泊、ホテル、飲食業界、レクリエーション、エンターテイメント、旅行会社等多くの産業を包括した産業であるため、統計データの統括が十分に行われいないのが問題である。一方で、そうした影響力の計測の必要性や需要を受けて、連邦経済分析局が観光サテライト勘定と呼ばれる統計資料の作成を開始した。これは、米国の国内総生産に対する観光産業の貢献度を正確に測定することができる有効な統計として広く利用されている。また、この分析結果により、米国内の 経済産業別の比較分析や、他国の観光産業との比較調査研究が可能となった。
 また、米国では地域(州・自治体)における観光振興を行うコンベンションビューロー(Convention and Visitors Bureau (CVB))が存在している。州のCVBでは、地域内メンバーに対する法令情報提供のほか、専門的技術支援や教育プログラムの実施、さらには、観光産業やコンベンション産業に対するマーケティング支援、観光動向調査、分析や観光産業内外のパートナーシップ構築支援等も幅広く行う。州のCVBの中には、複数の州を跨ぐ観光振興の情報源として活動しているものもある。さらに米国はエコツーリズムに関する取り組みも促進しており、観光資源の保全・管理も絶やさず行っている。そのため、多くの政府機関、NPO等関係団体では、エコツーリズムの基本原則の普及に努めており、マニュアルの作成や新規事業者への教育等を行っている。
 最後に、米国内で都市人口、高収入者、余暇時間が増えつづけているとの指摘もあり、一般的に観光やレジャーへの需要が高まっているため、エコツーリズムについてもその需要は高まると見られている。今後、ますます資源保護と観光振興とのバランスを保つことが重要となる。

〈総評〉
 米国では日本と異なり、積極的に政府や地方自治体が観光に関する取り組みを行っていることが文献から読み取れた。観光に関する直接的な手立てを組むのは州や地方自治体であるが、政府や国は主に財政面からの支援とすることで綺麗な調和が保たれていると感じた。
 特に米国では観光をコミュニティ形成と考えていることがわかった。近隣コミュニティと広域での観光テーマをもとに協働することで、観光インフラの共有や、集客力向上を目指すことができる。さらに近郊に大型観光地が存在する場合には、それが観光テーマを異にするものであっても集客への潜在力があるといえるため、マーケティングにおける協力関係を構築することも必要となるとしていた。ただ魅せるだけでなく、実際に「見て」「感じて」「触れる」、この3つの行動を注力することでより観光産業が発達しているのだと考えられた。 
 上記の文献調査より、米国と日本では観光に対する焦点のウェイトが異なると感じた。そのため、今後の調査では米国以外に観光地として有名なヨーロッパを調査しても良い野ではないかと感じる。しかし、国際関係で視野を広げすぎると文献が大量になり、何に対する研究かわからなくなるため、国際関連では出来るだけ国を絞り、日本と比較した制度の取り組みを調査する必要があると思われる。


2024/04/25

澁谷朋樹(2024)
「地方財政における都道府県の観光費に関する研究」
『新潟産業大学経済学部紀要』第64号43-51頁

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、新潟産業大学経済学部紀要の「地方財政における都道府県の観光費に関する研究」である。前回の文献調査で、日本の地域財源で観光に充てる余裕がないという資料が出てきた。もし観光税を導入したとしても、調達した財源の使途の不明確さ等の制度面の整備が進んでおらず、徴収したところで何に使われるのかわからないということがわかった。それに伴い、現在の地域財源で観光費として使用されている財源はどのように使われているのか。また、観光振興はもちろんのこと、多くの側面で地方自治体のあり方が問われている。こうした背景から、地方自治体が補助金などに依存する必要のない自主財源の確保を検討することの必要性についても調べるため、上記の文献を取り上げた主な選択理由である。

〈内容〉
 本論文では、都道府県における観光費を分析することである。近年、観光は地方創生の柱として注目されている。また、地域はその価値を高めていきながら、持続可能な地域づくりに取り組むことが求められている。特に今回は、新潟県の観光費を分析している。
 初めに都道府県における観光費に着目すると、総務省『地方財政状況調査』各年度版から全体では、1989年度の1269億4545万円から増加していき、1994年度には1681億8673万円となった。その後、減少傾向となり、2002年度には1000億円を下回った。そして、2007年度には546億6714万円まで減少したのである。近年では観光費が増加傾向にあるが、都道府県の歳出総額に占める観光費の割合は、同じく、総務省『地方財政状況調査』からはまず、歳出総額をみると、1990年代は増加傾向にあったが、2000年代に入ると大きな変化がみられない。大きく増加したのは2020年度以降である。次に、観光費の占める割合をみると、1989年度から1997年度までは0.3%前後で推移しているが、その後は低下している。2002年度から2014年度までは0.1%台で推移していたが、2015年度からは0.2%台となり、2021年度は大幅に増額したことで0.46%となった。
 次に2000年代は減少傾向にあったが、2010年代半ば以降は地方創生や新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあって、観光費は増加傾向にあることがわかった。観光費全額を見るとやはり東京が上位に入っている。又2000年代以降では、山形・福島・沖縄が上位に入っている。そこで、新潟県における観光費の動向について見ると、新潟県の活性化には、自然を活かした観光資源(温泉、スキー場、海水浴場)が豊富であること、日本海側の中央に位置するため古くから交通の要衝として栄えていて高速交通体系の整備にも力を入れていることがわかった。
 2003年に小泉純一郎元首相が「観光立国宣言」を行って以降、日本は観光立国を目指して国内外からの観光客を誘致してきた。観光関連の産業は幅広いため、旅行による消費行動は地域内の各産業に付加価値をもたらす可能性があり、観光関連産業のこうした特徴に国も地域も注目し、経済振興のための主産業として位置づけてきている。実際に、日本の国内における旅行消費額が新型コロナ拡大前までは順調に増加していった。このように、観光には地域の活性化に寄与する側面があることは明らかである。地方自治体の観光費が活用されていくことは望ましいことであると考えられる。
 一方で、中長期的にみるとリスクの高い地域振興策である。新たな新型コロナウイルスのようなパンデミックが発生する可能性は考えられる。また、観光が基盤産業となっている地方都市においても人口減少が進んでいることは事実である。日本では人口減少時代を迎えており、観光振興はもちろんのこと、多くの側面で地方自治体のあり方が問われている。そのときに、地方自治のあり方も問われてくるのではないかと考える。そうしたことから、地方自治体が国からの補助金などに依存する必要のない自主財源の確保を検討することは重要となる。
 次に、観光費の性質別経費、および財源の内訳をみると普通建設事業費が2000年代に大幅に削減されたが、2015年度あたりから増加傾向にあることが明らかとなった。2015年度以降には補助費等が増加していることが明らかであるが、その中でも最も割合が大きいのは民間企業などに対する補助である。また、財源の内訳では、一般財源等が大部分を占めている一方で、2021年度は国庫支出金が急増していることも明らかとなった。 
 このように、本論文では都道府県における観光費の分析を中心に行ってきた。観光振興が注目されているにもかかわらず、前述のように観光費に関する研究は多いとはいえない。この理由について、観光費が歳出に占めるウエイトの低さがある。しかしながら、観光は地方創生の柱として注目されている。また、地域はその価値を高めていきながら、持続可能な地域づくりに取り組むことが求められている。そうした中で、地域の観光政策を分析・考察していく上で、観光費の分析は必要であると考えられる。

〈総評〉
 今回の文献では地方財源のなかでも観光費に対する歳入・歳出が取り上げられていた。観光振興は各地方自治体が目指す姿であることは間違いない。しかし、その観光振興に充てる財源が未だに少なく、また、地方によっても交通整備が行われている、行われていない等という理由で財源確保が均一ではないのも問題となっている。また、観光費に着目したとしてもまだ研究が少なく、不明確な状況であることも再確認出来た。
 やはりその中でも問題が国からの補助金である国庫支出金などの援助をいまだ多く受けている部分にある。観光振興は時期によりけりでもある。数年前に流行した新型コロナウイルスなどのパンデミックを受けると自主財源が確保出来ている地方でも、多大なる影響を受けてしまう。しかし、やはり観光は地方創生を行うための重要な手段である。そのために、多くの地域で独自の地域文化をたかめ、地域づくりをしていく必要がある。
 そこで今後の文献調査では、より詳細な観光費導入の為の地域観光振興について取り上げる必要があると感じた。また、今回の文献で参照にされていた 塩谷英生「都道府県観光費の動向とその規定要因」『観光研究』第24巻第2号,2013年,9~14頁、および、宮﨑雅人「都道府県における観光費の分析」『自治総研』第525号,2022年,37~52頁も調査対象に入れるべきである。新潟県のみならず、自身の研究テーマである京都に関する観光費についても着目する必要があると感じた。


2024/04/18

高坂晶子(2020)
「持続可能な観光振興に向けた地域独自財源の在り方
─財源のベストミックスをー」
『日本総研』6巻78号. 株式会社日本総合研究所JRI

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、日本総研の「持続可能な観光振興に向けた地域独自財源の在り方 ─財源のベストミックスをー」に関する研究である。観光税を取り上げるに当たって、地方財政の現状や税以外の観光財源の現状を調査する必要があると感じた。また、観光税というのは文化が特有の地方や国にかけられているので、実際に導入されている国の実例を調べるため、上記の文献を取り上げた主な選択理由である。

〈内容〉
 近年、観光対応の独自財源として、自治体が地方税とくに法定外目的税である宿泊税を活用しようという動きがみられる。すでに徴収を始めている京都市はオーバーツーリズム対策の強化を行っている。その他、福岡市や金沢市でも観光財源強化に努めている。観光目的の法定外税などの新税を導入する場合、新たな税目を創設してまで満たすべき行政需要の内容と具体的活動に当たる「使途」、宿泊など課税の「対象」とそれを選択した根拠、税率・税額を含む「徴収方法」、課税対象に税を課す地方自治体等の「課税主体」、「関係者への影響」などについて、論理的な妥当性が求められる。
 さらに、総務省との協議・同意が要件となっているため、法定外税を導入するハードルは決して低くはない。税以外の観光財源としては、①観光客から任意で集める協力金、②観光振興策の受益者から資金を集めて施策を実行に移す分担金・負担金、③入場料や地域交通の利用料金などの事業収入に大別される。ただし、日本ではいずれも制度面の整備が進んでおらず、本格活用は今後の課題である。
 しかし、海外では多様な財源を活用して観光振興に成功している例がみられる。ハワイでは、宿泊税を活動原資とする州観光局が人気観光地としてのブランディングや主要市場向けのきめ細かいマーケティングを行い、来訪者数の増加に貢献している。その一方、目的税(刊行財源確保のため)として導入された宿泊税が、その他の用途に転用される一般財源化に向かうなど、矛盾も生じている。
 カリフォルニア州では、観光産業改善地区(TID:Tourism Improvement District)と呼ばれる地域を限定し、そこに立地するホテル、娯楽施設や会議場、レンタカー等の事業者から分担金を集めてDMO(観光振興組織)の財源とし、プロモーションやイベント、キャンペーン活動を行っている。徴収した財源の使途の明確性や活動の透明性に優れている。
 バルセロナ市では、市のDMO自らが、ツアー商品の販売や交通機関の運営を担い、得られた事業収入をMICE(国際会議や見本市等)誘致などの観光振興策に充てている。同DMOは、世界でも公的 補助の少ない組織の一つであり、それにより独立性、機動性を確保している。
 海外の事例をみると、税や協力金など財源のタイプはまちまちであり、そこに至った事情も様々である。日本では、足もと、特に宿泊税の創設に取り組む自治体が多いものの、今後は、地域事情に合わせて様々なタイプの財源を検討し、最適な選択を行うことが重要である。財源が必要な理由や使途、規律ある運営を担保するガバナンス等を勘案しつつ、複数のタイプを活用する「ベストミックス」による独自財源の調達が望まれる。とりわけ、アメリカで活用事例の多いTID(観光産業改善地区)は、使途の明確性や活動 の透明性などに優れ、今後日本でも積極的に検討すべき仕組みと考えられる。
 
〈総評〉
 今回の文献では、特に観光客の誘致をめぐる地域間競争を中心とした現状把握が取り上げられていた。国内はもとより海外との間でも激しさを増しており、それに伴って各地の観光振興策にも変化が生じている。各国間で様々な問題がある中、全ての国で共通している問題としては、地方独自の観光財源の在り方であった。観光を推し進めると同時に様々な地域の問題や環境(ゴミ処理問題など)と観光の保護・保全を行うためにはそれなりの資金が必要であることも文献から読み取ることが出来た。
 しかし、日本の地方財源を見ると、観光対応に活用可能な財源は乏しいことがわかった。日本は少子高齢社会でもあり、観光に充てるほどの財源を持つことはどの地方においても厳しい。そこで、観光対応に充当可能な地方税として、宿泊税などの税金が導入検討されている。だが、導入には要約で述べたように、無駄のない執行体制や事業の成果に
も厳しく目配りすることが重要であるため、導入段階に至っていない地方が多くあるのも現状であった。
 海外も日本と同じような財源問題に当たっているが、観光税や宿泊税を導入できるのは、調達した財源の使途の明確さである。また、観光目的の税に関しての財源調達手法に関しての活動評価の仕組みが機能している。
 上記より、日本で、地方が観光目的で独自財源を調達しようとする場合、税については制度設計や住民対応、政府との協議など様々なハードルがあり、その他の財源については活用実績が限られるため、先行きは不透明ということがわかった。
 しかし、地方創生にとって観光振興は重要テーマであり、独自財源の調達と活用は避けて通れない課題である。そこで今後の研究では、各地方におけるアピールする地域特性や観光資源、誘致したい観光客の特性やその行動パターン等を明らかにしておくための方法を調査する必要がある。また、海外の観光に対する意識や行動にも焦点を当て、海外の実例をより取り上げていく必要があると考えられる。


2024/04/11

大庭哲治, 青山吉隆, 中川大, 松中亮治(2005)
「京町家に対する価値意識の構造に関する研究」
『土木学会論文集』2005巻779号.11-23頁.公益財団法人土木学会

〈内容総括・選択理由〉
 今回取り上げた文献は、土木学会の「京町家に対する価値意識の構造」に関する研究である。初回の文献調査となるため、まず京町家が持つ意義や課題点を広く浅く調査し、地域住民の方々等が抱く京町家の在り方を知ることが、文献の主な選択理由である。
 
〈内容〉
 京都市都心部では、バブル経済期以降、中高層マンション等の建設をはじめとした急速な都市開発のため、京町家を減少させている。京町家も京都の代表的な歴史的景観を保つ伝統的な建築様式及び景観であるが、京都三山や古社寺建造物は「古都保存法」などの法制度で守られてきている。しかし、京町家のみが、一般家屋に位置づけされているため、特別な措置がとられることがなかった。そのため、時代の変化と共に都市開発が進み、京町は減少している。また、京町家は地域住民のミュニティ形成の場となっており、コミュニティの分断が起こってしまっているのが現状である。
 本研究では、京町家の価値について、京都市民の意識に基づき、京町家が持つ多様な価値意識構造を明らかにすることを目的とした。現状としての京町家は、築100年以上も経ち、また、木造建築のため腐敗も進んでおり、修繕を進めなければならない。しかし、これまで修繕に関わってきた専門的業者の高齢化や人手不足が進み、相続税・固定資産税などの税の高騰化も進んでいる。京町家を保全するためには多額の費用を要し、また限られた支援の中で保全していく必要が求められている。
 次に市民認識に基づく京町家は、やはり、京都の「景観的価値」を見いだすためには必要不可欠というデータが多く残っている。また、「地域コミュニティ形成のため」、「文化財的価値」となったが、重要度は見出せているものの、京町家自体が京都の日常生活に溶け込んでおり、参拝などする寺社仏閣に比べると、文化財として改めて認識するものでないことも読み取れる。
 
〈総評〉
 今回、文献の選択理由として挙げた「京町家の価値意識の構造」について、京町家は文化的価値の意味合いが強いことが読み取れた。しかし、現代のニーズに合わせた建造物となると、かけ離れたことが多く、取り壊しや空き家となり、京町家が減少していることも再確認できた。また、京町家が減少する理由として、支援体制の手薄さも読み取れた。
 そこで今後の文献調査では、京町家の支援体制の具体化や不足・課題点について確認する必要があると考えられた。また、京町家が持つ地域コミュニティ形成とは何か、そこも詳細な事例が必要であるため、その2点を中心的に見ていきたい。